7 班長を継いだ者として
「んで、その人たちは一年くらいラバースとは関係なく五人で活動してたんすけど……」
「ねーシンクくん。アタシもどっか旅行つれてってよー」
「うるせえミカ。説明する気ないなら黙ってろ」
「神奈川以外にもあちこちにSHIP能力者が現れるようになって、もうどうにも手が回らなくなったってところで、ラバースの方から彼らに声を掛けたらしいっす。ジョイストーンはすでに開発されてた、その時点では使いこなせる人間がほとんどいなかったらしくって、だから最初は五人をバックアップする形で能力者組織が発足したらしいっす」
執拗にくっつこうとするミカをあしらいながらツヨシの説明を聞く。
つまりその五人は能力者組織の発足に尽力した奴らなのだ。
「ん? それだとその五人はラバースにか関わる前からジョイストーンを持ってたってことか?」
「そうみたいっすね。その辺のことは詳しく知らないっすけど、ALCOみたいな例もありますからね。ジョイストーン開発初期にいくつか流出したって噂もあるし」
まあなんにせよ、ラバースコンツェルン的には重要な人物たちなのだろう。
そんな奴らがまとめていなくなったらそりゃ騒ぎにもなるか。
「ルシフェルが取り乱すのもわかるな。特にショウって奴は全部の能力者の中で一番強いんだろ?」
「間違いなくね。ポシビリテの一件だって、ショウさんが一人で敵の本拠地に乗り込んでスピード解決したらしいよ。≪白き石の鎧≫が五体くらい残ってたけど相手にもならなかったって」
テンマの『燃ゆる土の鎧』をコピーして作った≪白き石の鎧≫というJOY。
その恐ろしさはシンクもこの目で見ている。
一体でもヤバいあんなものを敵地に乗り込んでまとめて潰したとか……
にわかには信じられないが、きっと事実なのだろう。
「それくらいならシンクくんだってできるけどねー!」
「ふざけんな、無理だよ」
ミカがやたらと気軽に言うので、シンクは一応否定しておいた。
だが実のところ、今の自分ならあるいは可能かもしれないとは思う。
前回の事件の後、シンクのJOYに不思議なことが起こった。
大幅なパワーアップ。
正確に言えばオムの能力のコピーである≪
それこそ本家本元のオムにも劣らないほどに。
死んだ彼が残した力が自分に宿ったとでも言うのか?
問いかけても説明してくれる人はいない。
誰かに語ろうとも思わないが。
「でもシンクさんもスゲーっすよ。アミティエに参加してたった半年で班長になったくらいっすもん。いつかはショウさんにも追いつけるんじゃないっすか?」
班員のひとりがそんなことを言った。
シンクは未だに四班全員の顔と名前が一致していない。
必要以上におだてられるのも気持ち悪いので、適当に聞き流しておいた。
「知らねーよ、んなこと」
「おっと。自信がないわけでもないんすね」
シンクは実際にショウという男に会ったことは数えるほどもない。
だから、あいつが戦っている姿はまともに見たことがない。
記憶にある限りでは活動の初期にテンマとの勝負に横槍を入れられた時くらいだ。
相当に強いということはわかるが、今の時点では何とも言えない。
逆に言えば戦ってもいないうちから絶対に勝てないと思われるのもそれはそれで癪に障る。
「うちらの班長がアミティエ最強になったらそりゃ誇らしいっすけどねえ。現実的にナンバー2くらいなら近いうちにも狙えるんじゃないっすか?」
ツヨシは単にシンクを褒めるつもりで言ったのだろう。
だが、それに過剰に反応した班員が何人かいた。
隣にいるミカもその一人である。
「そうだね。シンクくんならアオイの奴くらいすぐにぶっ飛ばしてやれるようになるよ」
「おい」
ミカの目はこちらを向いていない。
視線はテーブルの上のグラスにまっすぐ向いている。
彼女が見ているのは薄桃色のリキュールの残量などではないだろう。
「勘違いするなよ。班は違うとはいえ、アオイは味方だぞ」
「いや、俺からも言わせてもらいますよ」
憎しみに表情を歪めるミカをたしなめようとするが、そこにツヨシが割って入ってきた。
「アオイさんのやり方は俺も気に食わない。シンクさんの言い方に倣うなら、仲間をあっさりと殺すなんてどう考えてもおかしいっすよ。そんな人の下で働いていたなんて今考えるとゾッとするぜ」
「そうだよ。リュウたちは何も悪くないし、オムちゃんだって話せばわかってくれたはずだもん。なんだって仲間に殺されなきゃいけないのさ……」
ポシビリテの一件で罰せられたのはオムだけではなかった。
彼の反乱に協力した旧四班の班員たちはアミティエを追放になった。
あの夜、オムと決着をつける前、邪魔になると思って彼らには退場してもらった。
彼らはシンクにやられた後、気絶しているところをフレンズ社の人間に連れられていった。
ジョイストーンを取り上げられるのは当然として、組織に参加してから今までの記憶を特殊な薬物と機械処理で消され、強制的に日常に戻されたらしい。
どいつも中学時代は名を響かせた表の少年チームの頭ばかりだった。
殺されなかったのは幸いだったが、彼らはもうアミティエのことは覚えていない。
しかも無理な記憶消去の後遺症で記憶障害や体力低下などの軽度の障害がずっと残るそうだ。
それを許せないと思う反面、手段を選べなかった自分にも罪はあると思っている。
「あの夜、オムやあいつらを倒したのは俺だ」
気がついたら自然にそんな言葉が口から出ていた。
「恨むなら俺のことも恨め。きっと奴らも俺のことを――」
「それは違うよ! シンクくんはオムちゃんたちを止めてくれようとしただけじゃん!」
「そうだぜ。悪いのはあいつらに反省の機会すら与えなかったアオイのやつだよ」
フォローをされると余計に心苦しくなる。
時間が経つほどにシンクの中の自責の念は強くなっていく。
あの夜は今のミカたちと同じようにアオイを恨んだが、今になって考えると自分がもう少し上手くやれたんじゃないかと思えるのだ。
目の前に立ち塞がる奴をぶっ飛ばすだけじゃ何も解決しない。
力はともかく、シンクはオムから引き継ぐ形で新たな四班の班長になった。
自分一人が好き勝手にやっていてはダメなのだ。
班長として上手くやる責任がある。
今は亡き友人のためにも。
「とにかく、伝えた通り明日からショウって奴の捜索を開始するからな。アオイを恨むのはいいけど三班の奴らとは揉めるなよ。お前らが暴走したら今度は俺が処罰対象になりかねないんだからな」
憎しみを堪えろとは言わない。
ただ、シンクもあんな悲しい思いは二度とゴメンだ。
ソファから立ち上がって中身の半分残った誰かのカクテルを一気にあおる。
「今日からしばらく通常の活動は中止。SHIP能力者候補が覚醒した時にだけすぐ対処できるよう連絡網を整えておいてくれ」
「はーい」
乱暴に指示を出し、気の抜けた班員たちの返事を背中で聞きながらシンクは店を出た。
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