2 レンVS襲撃者たち
「はぁい、そこのボクたち」
前を歩く学生服の一行にダイキは気易く話しかけた。
揃って振り向く三人組の男子生徒。
長髪の優男。
学ランの前を全開にしたムラのある染めた水色髪の目つきの悪いガキ。
そして同じく水色髪の、しかしこちらは鮮やかな天然色である、女子にしか見えない背の低い少年。
こいつが上海の龍童、陸夏蓮だろう。
「ちょっと顔貸してもらっていいか?」
「あ、なんだよあんたら」
即座に反応したのは真ん中のエセ水色髪のガキだった。
血の気が多い中学生らしい反応にダイキは苛立ちを覚える。
「お前に用はねーよ。話してんのはそっちのガキだ」
「おいおい、言っておくけどレンは男だぞ。ナンパするなら他を当たれよ」
「……ぶっ」
見た目小学生女子の子供をナンパしていると勘違いされたのが面白かったのか、一緒に連れてきた仲間のユウヤが噴き出した。
「おい笑ってんじゃねーよ」
「はは、悪ぃ」
睨みつけて仲間を黙らせると、ダイキはやや余裕を失った声でもう一度だけ警告をする。
「別にナンパしてるわけじゃねえ。そいつが男だってこともわかってる。話は長くなるからお友達にはお引き取りしてもらいたいんだけどよ」
「レン、知り合いか?」
「ううん、知らない」
エセ水色は陸夏蓮に尋ねるが、当然ながらこいつはポシビリテのことなど何も知らない。
その答えでこちらが嘘をついていると判断したのだろうか、エセ水色は疑いを向けるような目で睨んできた。
「だってよ。っていうかオレらいま遊んでんだけど、邪魔だからどっか行ってくんない?」
一般人には危害を加えないというのが能力者組織の大前提である。
とはいえ、立て続けに不遜な口の利き方をされてはいい加減我慢の限界も近い。
それは仲間たちも同じようで、さっきまで笑っていたユウヤとミチルも苛立ちを露にし始めた。
「なあ。抵抗されたってことで一緒にやっちまってよくね?」
ユウヤが提案する。
それもいいかもしれないとダイキは思った。
別に能力さえ見せなければいいのだ。
中学生二人くらい≪白き石の鎧≫どころか自前の能力を使うまでもなく潰せる。
邪魔者を排除した上で陸夏蓮を脅して場所を変えれば、人目につかない場所で始末することもできる。
「そうだな……じゃあユウヤ、任せた」
「おう」
「解ってると思うけどJOYは使うなよ」
最後のセリフを小声で付け加え、任されたユウヤは拳を鳴らす。
能力なしの単純なケンカの強さなら彼が随一である。
神奈川西部の至る所から集められたポシビリテのメンバー。
新厚木のユウヤと言えば表の不良たちの間でも名の知れた人物ある。
だが、久良岐市の一介の中学生は彼のことを知らないようだ。
「なんだハゲ野郎、やる気かよ?」
エセ水色はボクシングの真似事をしながらとんでもないことを言い放った。
ダイキが青ざめた直後、一瞬にして沸点に達したユウヤは、ノータイムでエセ水色の横っ面をぶん殴った。
頭部に関する話題はユウヤにとって唯一絶対の禁句である。
それを知らなかった哀れな中学生はあわれコンクリートの壁に叩きつけられた。
「ぐえっ……」
「ごぶ!?」
少年はわずか一発で意識を失い、その一秒後にはユウヤが同じ目に合った。
「は……?」
壁に禿頭をめり込ませて痙攣しているユウヤの体。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
数秒の後、視界に移った光景を整理して、どうやらユウヤは陸夏蓮に後頭部を蹴り飛ばされたのだと気づく。
「レツ。この人たち、ぼくに用があるみたいだから」
さっきまでは見られなかった闘志が少女のような少年の瞳に宿っている。
拳を構えて睨みつける眼にダイキは思わず後ずさってしまった。
「ああ。好きにしてくれ。タクトの面倒はオレが見るよ」
長髪の少年は頭をかきながらそんな言葉を口にして、倒れたエセ水色髪の少年を抱き起こす。
「おーい、生きてるかー? ……大丈夫、気絶してるだけだ。こう言っちゃ悪いけどタクトが寝てるのは好都合だ。好きなだけ暴れてくれや」
「わかった」
どうやら本気で怒らせてしまったらしいとダイキは気づいたが、どうせ潰す予定の相手だ。
向こうから街中でおっ始める気になったのは好都合である。
こうなったら叩き潰すだけだ。
「友達を傷つけたこと、謝ってもらうから」
「ぬかせ、ガキが……っ!」
ダイキは懐から真っ白なジョイストーンを取り出した。
即座に白い石の鎧が全身を包みダイキを無敵の超人に変えてくれる……
はずだったが、そうはならなかった。
「あ……?」
ジョイストーンがアスファルトに零れ落ちる硬質な音が響く。
直後、ダイキの右腕に鋭い激痛が走った。
飛びかかってきた陸夏蓮に腕の骨を極められ、折られた。
「い、痛え! 痛えよおっ!」
しばし地面を転がりながら痛みにのたうちまわる。
隣に転がっている何かにぶつかった。
連れてきたもう一人の仲間、ミチルである。
彼は白目を向いて気絶していた。
まさしく瞬殺。
能力を発現させる間もなかった。
ダイキたちはあまりに上海の龍童を侮りすぎていた。
トドメを刺されることを覚悟したが、すでに陸夏蓮はダイキたちのことなど眼中になかった。
エセ水色を背負う長髪と一緒に背中を向けて歩き去ろうとしている。
「タクトは大丈夫?」
「どこかで手当てしてやらなきゃな。予定通りにレンの家に行っていいか?」
「うん」
「あいつらはどうする? 警察呼ぶか、せめてジョイストーンくらい没収しておくか?」
「必要ないし、盗みはよくないよ。タクト、大丈夫?」
会話の間、陸夏蓮は一度もダイキたちの方など見なかった。
それよりも気を失った友人の方が大事だと言いたげに、うなだれるエセ水色に話しかけている。
「ち、くしょ……う……」
燃えるような怒りと痛みの中、ダイキはそのまま気を失った。
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