3 懐かしい街
翌日、シンクは小坂駅にやってきた。
現在住んでいる湘南日野駅からはわずか二駅。
家を出てからここまでに三十分もかからなかった。
引っ越してきてからいつでも来る機会はあったのだが、実際に訪れるのは一年ぶりである。
知らない間に改札が増えていたりもしたが、とりあえず見覚えのある出口から表に出る。
駅ビル入口を右手に見ながら階段を降りる。
懐かしい雑多な繁華街が目下に広がっていた。
紅蓮のシンクと呼ばれた中学時代はよく来ていたホームのような街である。
卒業と同時に南橘樹市に引っ越してからは一度として足を踏み入れることがなかった。
待ち合わせ場所は近くのファーストフード店である。
約束の時間には少し早いが、知り合いに合うと面倒なのでまっすぐ向うことにする。
一階の自動券売機でセットメニューを注文して二階席の窓際へ。
受け取ったレシートに書いてある番号の席に着く。
商品ボックスから自動的に商品を乗せたトレイが出てきた。
シンクはフライドポテトをつまみながら眼下の景色を何となしに眺めた。
駅前は前より幾分か小奇麗になったが、相変わらず雑多な印象の街だ。
歩道の狭さに反比例して人通りもやたらと多い。
比較的清掃が行き届いてる駅ビル周辺はともかく、裏路地へと足を踏み入れれば路上のあちこちで近所の悪ガキどもがたむろしているだろう。
一年前ちょっとまでは、シンクもそのうちの一人であったのだが――
「待たせたな」
野太い声をかけられた。
振り返ると、大柄の男が立っていた。
プロレスラーのような体格に二メートルに届く長身。
サングラスで目元を隠しており、剃り上げたスキンヘッドは周囲に威圧感を与えている。
ただし服装はラフで、ぴっちりしたジーンズとピンクのポロシャツというちぐはぐな格好だった。
大男は断りもなく勝手に正面の席に腰掛けた。
すでに一階で注文していたらしく、商品ボックスが開く。
出てきたトレイには似合わないアップルパイとストロベリーシェイクが乗っていた。
シンクは以前にもこの男と会ったことがある。
「……第四班の人間だとは聞いていたけど、まさかあんたが来るとはな」
シンクが没収されたジョイストーンを奪い返すべくフレンズ本社の保管所に乗り込んだ時、邪魔する警備員を抑えて奪還に協力してくれた男である。
その時は何者かと聞く余裕もなかったが、後で第三班の仲間に聞いてみたら、全員が知っていたくらいの重要人物であった。
第四班の班長、炎使いオム。
ついでにコピーさせてもらった能力はその後の戦いで大いに役立った。
「悪いけど敬語は使わねえぞ。あんたは俺の上役じゃないからな」
「かまわないよ。呼び出したのはこちらだしね。それよりも来てくれてありがとう」
軽く挑発するつもりで言ったのだが、まさか感謝の言葉が返ってくるとは思わなかった。
しかも強面な外見に反して口調は柔らかく礼儀正しい奴である。
ひまわり先輩にも見習わせたいくらいだ。
「で、隣の班の班長さんが新参者の俺を呼び出して何の用だ? まさかあの時にコピーした能力を消去しろとか言うんじゃないだろうな」
「そんなつもりはないよ。班が違うとはいえ、仲間の力を削ぐのは道理に反するからね」
「そいつは助かる。けど、だったら何のために……」
「まあまあ。久しぶりに話すんだし、食事しながらゆっくりと旧交を温め合おうよ」
「旧交って……一度会っただけだろうが」
なんというか、馴れ馴れしい奴である。
外見に似合わない喋り方もなんだか気色悪く思えてきた。
シンクが若干引いているとオムはニヤリと笑ってサングラスを外した。
予想していたよりも柔和な目つき。
だが、特別驚くほどではない。
「威厳を保つためにかけてるんだけど、実は前が見づらくて疲れるんだ」
「お、おう」
いくらシンクが別の班の人間とはいえぶっちゃけ過ぎである。
「リーダーってのも大変だな。だったらその服装もどうにかした方がいいと思うぜ」
「なんだよ。まだ気付かないの?」
オムはニヤニヤしながらシンクの顔を覗き込んでくる。
なんだこいつ、マジで気色悪い……
と、シンクはあることに思い至る。
しかしすぐに考えを打ち払って思考を中断する。
いやいやまさか、だってこいつがそんなはずはないだろう。
「……なあ、間違ってたら悪い」
「うん?」
「お前…………
シンクが恐る恐る訊ねると、オムは満面の笑みを浮かべて手を叩いた。
「いやあ、やっと思い出してくれたね!」
「嘘だろ……?」
アミティエ第四班の班長オムは……
もとい、椎名
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