第33話 創造魔法の使い方
「う〜ん……」
ユニコーンのツノを手に入れてから気付いてしまった事が一つありまして、私は自室のテーブルの前で腕を組んで考えていました。
ユニコーンのツノは万病に効く薬です。それは誇張している訳でも無く、本当にそうなのです。ユニコーンのツノを使っても亡くなってしまった方というのは、基本的に体力の低下などが原因とされています。
つまり私が前世の知識でチートな何かを創り出し、病原を特定して、さらにそれに合わせた薬を作る……というのは結構な無駄でして。
もちろんユニコーンのツノは入手が難しい上に消耗品ですから、そういうコツコツとした努力は必ずしも無駄にはならないのですが。
(私、前世医者じゃないんだよなぁ……)
問題はそこなのです。
新薬の研究を行っていたので薬学に対する知識は持っていますが、病原菌の発見や特定に関しては素人といいますか。論文は読んでいたのである程度病原菌の特定とかはできますけど、それも十全ではありません。
しかもこの世界にはこの世界独特の病気があります。
これこれこんな症状でこんな形の病原菌でこういう性質がある、という情報を基に薬を作っていたものですから、その情報のまとめ方とか判断の仕方とかはちょっと……その……専門外だったりします。
ユニコーンのツノは大きいので5回くらいなら村で疫病が起きても何とかできるでしょう。
しかし、不老不死の魔女のマリーとして暮らしていくのなら、同じ病気は二度と流行らせない、位の気概でないと駄目だとは思います。
(……知識が足りない)
そうなると、この世界での病に関する詳しい資料が必要になります。医者という職業がない訳ではないので、ある所にはあるはずなんです。病原菌の特定の仕方、前例、薬のレシピ。
作っておいて無駄にはならない、と思い、顕微鏡と注射器、聴診器は創造してみました。今のところ使い所はありませんが、聴診器は往診に使えると思うのでバスケットに入れてあります。注射器も、前回のユージンさんの奥さんのような場合に使えるので入れてあります。
とりあえず知識のほかに思いつく基礎的な事は血清を作る事ですが……果たして私にそれができるのでしょうか。
「あっ、そうか……!」
遠心分離機を作ればいいのか!
ハッとしました。これなら私も作れます。更にはそこに抗血液凝固剤を加えれば……なんだかうまくいく気がしてきました! 抗血液凝固剤は嫌がらせの為に作ったことがあります。毒薬の基本ですしね。少量なら血栓ができやすい方に処方するお薬ですが。
この世界にもチーズを作る為等に使われる遠心分離機はありますが、少々サイズが大きいので、私の部屋においても邪魔にならないサイズで……いいですね、ちょっと先が見えてきました。
いっそ研究室を作ってしまおうかしら。
いい考えのように思います。家中の本と、遠心分離機と顕微鏡、フラスコなどの器具を創って一まとめにしておけば、火急の際に家の中を走り回らなくて良いですし。
今できる事、としては文句なしに思えます。
あ、因みに読んだこともない本を【創造】する事はできませんでした。真っ先に試したんですが、表紙も中身もまっさらなノートが出来上がっただけです。たぶん、私の脳内から記憶を拾い上げて創る、というのが創造魔法の限界でしょう。
なので論文の類はどっさり【創造】しておきました。私が詳細を忘れていても、記憶にひっかかっていればセーフのようです。
私は使っていない客間の一つを【収納】で空にすると、部屋の中を薄くコンクリートで覆いました。窓も目張りしておきます。必要な広さのデスクスペースを壁の一面に設置し、反対側の壁にはまだスカスカの本棚を誂え本を入れていきます。家の中の本と私が創造した論文の類ですね。並べてみても……やっぱり足りません。
デスク付近に遠心分離機を【創造】し、鍵のかかる薬品棚も作ります。今のところこの薬品棚に入るのはユニコーンのツノ位ですね。
一仕事終えました。これで研究室の完成です。
あとは元の国の本とか借りて来れればいいんですけど……ブルーの目がありますし難しいでしょうねぇ。
(今できる事なんてこの位ですか……、また思いついたら足していきましょう)
落ち込んでも仕方ないので、私は階下にお茶を飲みに行きました。考えすぎて疲れたので甘いものもお願いします。
リビングは相変わらず居心地がいいです。同じ家の中にあんな無機質な部屋を作ったので不思議な感じもしますが。
ブルーやシェルさんが掃除の時に戸惑わないように研究室の説明をしながらのお茶となりました。
役立つ時が来るんでしょうか……できれば、何ごとも無いのが一番なんですけど。
お茶を飲んだら薬草の手入れでもしよう。考え過ぎな時は体を動かすのが一番です。
畑もそろそろいい具合かもしれないので覗いてみましょう。あそこはもはやアオイさんに任せっきりだったので。
せっかく不老不死なのですから、慌てず騒がず、できることからやっていくのが一番ですよね。私は自分にそう言い聞かせて、お茶を飲み干しました。
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