第322話 転移装置怖いよー!
しばらくしてこちらを向いた魔族が気まずそうに言うには、
『転移装置の誤作動』
だそうな。
――大変なことだった。ソードと私、顔色をなくしたよ。
何よちょっとソレ、怖いんですけど!
……やっぱり転移装置でダンジョン前まで送ってもらうの、やめようかなっと!
「めったにない。めったにないが、発生することがある。そして条件もわかっている。なので、その条件下にあるときは使わないようにしているのだ。その者たちは、何らかの事情で条件下にあるときに使って、飛ばされてしまったのだろう」
私とソードの様子を見た魔族が慌てて弁解している。
雨の日に発生が多いらしい。特に嵐だと発生する確率が高くなるとのこと。
何ソレ、停電みたいなー。
誤作動での行方不明者は複雑な事情を抱えている者たちばかりなので、それ以上捜索はしないのだそうな。
ふーん……。
私は腕を組んでうなった。
「……まぁ、そういうことなら、スミス君はまだマシな人生を送ってるのだな。変な場所に飛ばされて即死の場合が多そうだからな。そして私は転移装置を使いたくない」
そんなワクワク感は要らない!
「俺もちょっと遠慮するわ。ジャングル抜けるからさ。なるべく殺さないようにするから、勘弁して」
ソードも私に同意してくれた。
シャールで飛ぶことも考えたけど、走り抜ける方が安全、ってことで走り抜けることにした。
決めたとたんに魔族たちが『ジャングルとゴーレムを壊さないで』ってかわるがわる懇願してくるのよ。私たち人間を、破壊神みたいに思っているのだろうか?
「まったく手を出さんし手を出されんようにするから安心しろ。先に門の前で待っていてくれ」
そう伝え、ソードと外で準備運動。
「魔物なら、私の強さがわかるので寄ってこないのだがなぁ。ゴーレムでは、いくら私が魔素を集めて威嚇しようとも、恐れおののくことはなさそうだよな」
と、私は嘆息した。
「一応やっといたら? もしかしたらゴーレムにだって恐れはあるかもしれないし」
そうソードに言われたので、ちょっとだけ本気モード。
そうしたら魔族とソードにドン引かれた。
「うわ! 魔神じゃねーかって思ったわ」
「魔神に失礼だぞ。こんな程度じゃないだろう」
この程度じゃまだまだ魔王様にすらかなわないじゃんか。
本気のソードだってこんなもんじゃないだろうに。
ジロン、とにらむとソードが笑う。
「よし、行くか」
スタートダッシュした。
――ハイ到着。
十分かからなかった。
面白くなくてすみません。
だって……だって! なんにもするなって言うからぁ! 目もくれずに走り抜けるしかないじゃん!?
ジャングルなんて超楽しそうなのに、なんにもしちゃいけないなんて、走り抜けるしか以下略。
「…………とっても面白そうな、人や魔物を捕食しそうなデッカい花が咲いていたな」
「…………チラッと、長い牙が生えたすっげーデカい魔物が見えたぜ?」
ソードと鬱々と見えたものを語った。
よし、この悔しさを魔王城にぶつけよう。
私は、そびえる城を見上げた。
てっぺんまで見えず、しかもすっごい趣あふれている。
別世界のワッフルで有名な国の古城よりも古城感あふれていて、さらには巨大だ。
暗雲がかかり、いかにも魔王城! って感じだ! やっふぅ!
ソードも見上げてワクワクしてきたようだ。
「写真でも撮って送ったらどうだ?」
私が勧めると、ソードは「そうだな」とうなずいて早速撮り、送る。
…………私に。
「……お前な。一緒にいる私に送ってどうするんだ」
私は呆れて言ったら、言い返してきた。
「アマトたちにも送った」
そういう問題じゃない!
魔王城の入り口は古城風ではなく、いかにもダンジョンっぽい感じだった。
石造りの、ドアのない、奥が見えない廊下が伸びている。
見送りの魔族たちの中にリーンがいたので聞いてみた。
「お前はこの城に入ったことがあるか?」
リーンは当たり前のようにうなずいた。
「ここは修行場も兼ねているからな。殺されても殺しても復活するし、修行にはうってつけだ」
…………。
そういえば魔王様も最後に言ってたけど、それってすごく怖い魔術だよな。
ダンジョンで召喚されている魔物が復活するのは『魔素で形づくられた仮初めの身体を動かしているだけ』と理屈をつければなんとか納得出来るのだが、なんで今ここで生きている人間がダンジョン内なら死んでも復活出来るんだよ!?
「へぇ、蘇生魔術か」
ってソードが感心するけど、多分違う。絶対違う。
「私は復活させてもらいたくない。なんだその魔術、怖いぞ! 人が人でないという証拠になってしまうではないか!」
ゲームじゃないんだぞ!
ゲーム感覚で遊ぶのは結構だが、今ここで生きている私はちゃんと生きてちゃんと死んでいきたいよ!
ソードもリーンも驚いているが、驚く方が驚きだ。
腰に手を当て、指をピッと立てて説教した。
「私たちがなぜ生きて思考するかは謎だが、この身は有機物で出来ていて、生命維持活動はこの身体のみで完結している。謎魔術を使われて、物体が物体でなくなるような真似をされるのは怖くて私には無理だ。ならまだ自分の等身大ゴーレムを作って、遠隔操作で動かしてダンジョン攻略する方が理解出来る」
「ハイハイ。わかったから行こうぜ?」
ソードになだめられ背中を押される。
「途中まで案内しようか?」
リーンに親切にも言われたのだが、そんな【観光名所案内】みたいなことをされると盛り下がるし、どのみち地図を作るスキルがあるから大丈夫だと断って、手を振りながら魔王城の中に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます