第321話 ダンジョンで遊ぶ許可をもらったよ
リーンはもういいや。魔王国に引き籠もるらしいし。
私は魔王様に向き直った。
「では魔王様。私とソードをダンジョンで遊ばせていただけますか? ……ちなみに、ダンジョン内に出没する者たちは殺してしまって良いのでしょうか? 復活出来ないようでしたら、殺さずに倒していきますが」
「復活出来るので、問題ない」
やったー!
ソードも小さくガッツポーズしている。
私は魔王様に騎士の礼をした。
「では、そのお礼を。魔王様がラスボスなのかダンジョンコア様なのか存じませんが、ダンジョンコア様方に好評だったこちらの魔術をお見せいたします」
照明を暗くすると、リーンが慌ててキョロキョロと周りを見る。
「な、なにが……」
慌てふためくリーンを無視して、私は魔王様にケミルミネセンスの魔術を披露する。
フワフワと舞う蛍の光。
リーンが光を見て固まった。
「私は詠唱法を知りませんが、ソードが王都のダンジョンコア様に作ってもらい教わったので、詠唱有りはソードがお披露目いたします」
そう言ってソードを見ると、ソードがすっごい早口で詠唱して、掌を上にかざす。
すると掌からいくつもの蛍の光がフワフワと舞いだした。ソード自身もうっすら発光しているな。あ、私もだった。
魔王様の反応は帳で見えないけれど、お礼を言ってきた。
「感謝する。礼を受け取ろう。――ダンジョンでは其方たちも復活するように取り計らうことは出来るが、不要であろう。……では、最奥でまた会おう、最強の者たちよ」
魔王様の気配が消える。
魔王様は、やっぱりラスボスかダンジョンコア様みたい。今の言い方だと、ダンジョンコア様の方っぽいかなー。
照明を元に戻すと、リーンが絶句したまま私を見ているのに気がついた。私が首をかしげると、恐る恐る話しかけてくる。
「…………もしや、貴女は、神の子か?」
とか言い出したし。どうしたリーン。急に何があったんだ。
ソードがはじけるように笑った。
「確かに、そう思える神秘さなんだけど、違うんだ。コイツが言うにはこれには理屈があり、その理屈で魔術を繰り出しているんだ。だから、コイツは体内じゃなくて外にある魔素から魔術を繰り出す。雷は神と同じく天から降らせる、氷もな」
リーン、絶句して、目がキラキラさせた。とっても勘違いしている表情だな。訂正しておこうっと。
「神の子じゃない。そして神が、天から雨を降らせるわけでも雷を落とすわけでもない。条件が重なり『そうなる』のだ。この世界には魔素があるので、私は魔素を条件の代替にして行っている。……たとえばな? 水を火で温めると、熱くなる。これには理由がある。そして熱くなった水はある温度を超えると気体となる。これにも理由がある。そして、この気体を急激に冷やすと、また液体になる。これが雨だ。これがさらに急激に冷やされると固体になる。これが空から降る氷の正体だ。
で、気体となった水と、液体となった水がぶつかり合い、エネルギーが生まれる。それが蓄積され、大きいエネルギーの塊となった時、地面に落下する。これが雷だ。わかったかね?」
ソードとリーンがポカーンとしている。
「その理屈を知っていれば、空に魔素でエネルギーを発生させ落下ポイントを魔素で通電してやれば空から雷が落ちるのだ。うん! 至極簡単だろう? やってみるか?」
「「無理」」
二人が私の前に手をビシ!と出した。
ソードが続けて言う。
「……大体、その理屈を知ってるアマトが『難しい』っつーんだから、その理屈がわからねー俺たちに出来るワケがねーだろが。雷も雨も神様が気まぐれで起こしてるって考える方が納得がいくんだよ」
いくな! 私は憤った。
「違うぞ! 気象条件だ! 地形だって関わってくるんだぞぅ! 山とか平地とか樹木とか、すごく重要なんだからな! たとえば……」
ソードに口を塞がれた。
片手で人の顔面下半分をわしづかみって方法で!
「むぐぐぐ」
「わかったから、小難しい話やめて。俺は詠唱で魔術が使えるからいいの!」
腕をパタパタさせて抗議。
リーンが私たちをガッカリした顔で見た。
「……神秘の魔法を操る神の子のようなのに、どうしてこんなにも残念なのか」
ひどい。
案内人が現れ、リーンと一緒に謁見室を出て来賓室にきた。
これからの予定としてダンジョンに向かうわけだが、地理がさっぱりわからないので魔王国の全体配置を聞いた。
この城は謁見や政務処理用の城で、ダンジョンはさらに奥にある城だそうな。
本来は森林……というかジャングル?をくぐり抜けて城に向かうそうだけれど、転移装置で城の入り口に転移させてくれるそうだ。
じゃないと、森林の被害がひどくなりそうだからとか。
……いやいや、そんな。自然破壊しませんよ?
ジャングルなんてとっても面白そうだって思ったけれど、ジャングル部分はダンジョンではないので復活しないから壊すのやめて、って懇願されたので、ソードと渋々うなずいた。
魔族、『空飛ぶ箒』効果で私たちへの敵意がなくなってしまっている。
クッションを敷き詰めた来賓室で遊びまくっているよ。仕事しろ。
さらにワタクシ、料理やお菓子までねだられているし!
……ダンジョンで遊ばせてくれるならいいけどさぁ!
コヤツ等、マジ子供か!
こんな軟弱な連中がよくこんな過酷な環境で生きていられるよな、ってつぶやいたら、あっちこっちに転移装置があると教えてくれた。
海側にある温暖な平野部で農業、さらには畜産まで行われている。
そしてそして、ゴーレムがたくさんいて、警備をしているのだ。
ただし、このゴーレムは魔力で動かすらしいので、魔族はマナが人間よりも高いのだそうだ。マナが豊富でありさえすれば軟弱でもオッケーらしい。
その他、生まれながらに役割が決まっているそうで、十歳になると魔王から持って生まれた役割を教えられる。その後はその役割の通りに生きていく。
……主体性や反骨心のある者には耐えられない環境だな。
「ふーん……。そういえばな、王国に魔族の捨て子があって、私はソイツと学園で一緒だったのだが。その子はどんな役割だったのだろうか?」
私が尋ねたら、魔族たちが固まった。
で、ごにょごにょ深刻そうに話している。え、もしかして大変なことだったの?
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