第285話 空飛ぶ箒を乗りこなしているよ

 基本は音声操作です。

 あと、柄の先を向けた方向に進むのと、前に障害物があったら自動で止まるくらい。

 重力魔術とか浮遊魔術がつくので、思ったよりも柄を持つ手に力は入らないはずなんだけど、怖がると力が入って操作が出来なくなるぽい。

 お手本でソードが乗り、説明し、公爵夫人が乗った。

 ……おぉ! 乗りこなしている!

「ふむ! ふむふむ!」

 鼻を鳴らしてしまった。

「確かにお前が興奮するだけあるすごさだな。俺とお前にしか乗れないかと思った」

 ソードもびっくりしている。

 公爵夫人、ソードを見て不敵な笑みを浮かべる。

「ふふ、ふふふ……。侮るなよソード! 確かに今は結婚して稽古の量も減っているが、それでもまだそこらの騎士や冒険者には負けん!」

 あ、地が出た。

 エリー殿、公爵夫人なのにショートガーデ公爵と張るくらいやんちゃな性格ぽい。

 スカーレット嬢が顔を覆っているぞ。「お母様、お前もか」みたいな裏切られた雰囲気になっているぞ。

 ショートガーデ公爵も気がついて啞然としているぞ。よもや自分の妻がそんなことをしでかすとは思わなかった、って顔に書いてあるぞ。


 【明け方の薄月】ご一行様も気付いて、驚いたらしく階段を下りてきた。

「……あれは、冒険者ではなく、貴族の……夫人!?」

 私はうなずいた。

「なかなかの胆力と運動神経だな。さすが王女の近衛騎士だった方だ。乗った女性二人にはわかると思うが、空中を箒でまたがって飛ぶのは、地上を這う生き物にはなかなかに恐怖なのだよ。その恐怖をねじ伏せ、自在に操作するのは相当の胆力が必要だ。箒にまたがってあれほど安定して飛ぶのも、バランス感覚が必要だしな」

「俺もやってみたいッスー」

 チャラ男二号が言ったが、

「端から見てると楽しそうだけどさー、アレ、結構怖かったよ?」

「結構どころじゃなかったよ! 浮くのは出来るけど、あんなに飛び回るの無理だもん!」

 と、経験した女子がやいやい言った。

「それを楽しいと、ワクワクすると思える人でないと乗りこなせないのだ。私やソード、そして彼女のように」

 エリー殿は、ものっすごい満喫しているな。もう自在に飛んでるもんね。

 私はエリー殿の凛々しい顔を見て、思いを巡らせた。

「……しかし、エリー殿は男前だな。そういえば、セバスチャンに似ている気がしなくもない」

 エリー殿はプラチナブロンドに深緑の瞳だ。

「ふむ……。スカーレット嬢の、深層心理の理想の人はエリー殿なのだな。マザコンだったのか」

「えっ!?」

 私の言葉に、スカーレット嬢が驚いた。

「いや、エリー殿は女性だが、ソードに負けない胆力と運動神経を持っているではないか。性格も、女性らしい細やかな柔らかさも持ち合わせていながらも凛々しく、騎士だったから立ち姿勢も凜と咲く百合のごとく美しい。胸も立派だが……。別世界の女子高に通っていたらば、絶対に『お姉様~』と女子にモッテモテにモテた見本のような方ではないか」

 う、とスカーレット嬢がたじろいだ。


 私はエリー殿を見上げながら嘆息した。

「スカーレット嬢も乗るのであれば売るのだがなぁ……。巨乳の美魔女が箒で飛ぶのもアリだが、どうせなら母娘の魔女コスプレで飛んでくれないか? エリー殿は、暗い紫色のヒラヒラした袖で太腿くらいまでスリットが入り胸の大きく開いたローブで、スカーレット嬢はフリル満載ミニスカ魔女っ子の服装がベストだ」

 スカーレット嬢が私を白い目で見た。

 あ、スカーレット嬢だけじゃないや、ソードと女子二人も白い目で見てる。

 男性陣は同意してくれたらしくうなずき……女性陣の白い目に慌てて他所を向いた。

「俺も乗りたいから作って」

 ソードが言い出したが、私はプイと横を向いた。

「男が乗っても面白くない、絵面的にもつらい。百歩譲ってかわいい少年だ。サハド君なら乗ってもいい、プラナは是非乗ってほしい」

 途端にほっぺを引っ張られる。

「いひゃい」

「ムサい男で悪かったな! ……おい、それはアマトもそう言うってのか?」

 スカーレット嬢が答えた。

「そんなことはないと思いますわ。悲劇の魔法少年が主人公の物語では、魔術を使える者は皆さん箒で飛んでいましたもの」

 私は反論する。

「主人公は美少年だったろう?」

 即座にスカーレット嬢に否定された。

「箒で飛び回りながら逃げるボールをキャッチしたり不規則に襲いかかるボールを相手ゴールに打ち込んだりする競技だって、青年が出場してたではないですか」

 うむむ……。確かにそうだけれど。

「ででででも、ソードが魔法使いコスで飛ぶより、エリー殿が魔女コスで飛んだ方が絶対にいいじゃないか!」

 叫んだら、ソードにまたほっぺを引っ張られた。

「いひゃい」

「女のくせに女好きのお前には、美女が飛んでる方が絵になるんだろうけどな! 俺も乗りたいの! 作って下さいお願いします」

 ほっぺを引っ張りながら言うことか!?

 ソードが手を放して、スカーレット嬢を見た。

「つーか、今スカーレットが面白そうな競技を言ったよな?」

 確かに実現したらすごいよね。

「逃げ回るボールを追いかけ、人に襲いかかるボールを打ち合うんだ、確か。だが無理だ。現状、私とソードとエリー殿の三人しか乗れない。あと、その話はバレたら怒られるかもしれないからこれ以上はやめてくれ」

 私が真剣に言うと、神妙にうなずいた。

「実用性で言うと乗り物がベストで、せめて背中に羽を背負って飛ぶのがいいと思うが。箒は店で飛んでる分には良いが、外で飛んだら飛行する魔物に落とされるぞ。連中は飛ぶ専門なのだから」

 単に思いつきを口に出したら、ソードが前半の部分に食いついてしまったよ。

「ふーん……。それも面白そうだな」

 もう……本当にガジェット好きだな!

 とうとう私は怒鳴った。

「何度も言うけどな、アレは、玩具だ! 基本としてはリモートコントロールで、自在に飛ばす玩具、大前提でディスプレイ商品だ! 飛べるようにしたのは遊び心だ。実用性がない」

 魔法の国で使ってるらしいけどさ。箒じゃないほうがいいと思う。

 そういえば別の魔法の国では絨毯だっけ。あとは雲かな。○斗雲、いいよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る