第284話 酒と美容はどの世界でも白熱するよ

 サクラが地下への扉を開け、

「足元にご注意頂きながら、階段をお下り下さい」

 と案内すると、光る床の仕組みにいち早く気付いたショートガーデ公爵が大はしゃぎした。

 公爵夫人も、とがめたいけれど自分も度肝を抜かれていて見逃している様子。

 スカーレット嬢は父親の残念さに、手で顔を覆っている。

 うんうん、わかるよ!

 私、公爵とはお友達はオッケーだけど、父親だとつらいかな!

 楽しい人だけど、身内は厳しいよね!


「スカーレット嬢、私とセバスチャンとどちらのエスコートが良いか?」

「……インドラ様、お願いいたします……」

 SAN値へのダメージが強かったらしいスカーレット嬢が声を震わせながら頼んできた。

 手を取り、ゆっくり下りるとようやく落ち着いてきたらしい。

「まるで乙女ゲーのスチール画のようですわ」

 とか言い出しました。百合ゲーですかそれは。


 SF的酒販売コーナーは皆さん感激してくれた。

 思いのほか女性にも好評だった。

 優待価格で売ります、でも絶対に内密にして下さい、と言って優待価格でお酒販売。

 女性は凝ったデザインの瓶が好きらしく、小洒落た瓶に詰めた甘めの果物のお酒を買い求め、男性は蒸留酒を狙って買った。

 透明度の高い、浮いているようにしか見えない魔石アクリルセラーはものすごく好評。

 魔石製なので指紋などもつかない! なんでだかは不明!

「これでテーブルを作ったらどうだろう?」

 公爵が興奮して言ったけれど、

「どこに置いてあるかわからなくて危険ですね」

 私が真顔で答えたら、納得して諦めた。


 お次はエレベーターを使って三階に上り、そこから下りて二階へ。

 女性客が華やいだ。

 化粧品と色鮮やかな食器を売っているからだ。

 基礎化粧品は私とメイド嬢が研究し効果が優れているものと安価なものとを拠点で作っている。

 まだまだ数はそろわないけれど、そもそも高額商品なのでそう売れはしないだろう。……たぶん。

「男性の方も、基礎化粧品を使った方が肌が健やかになります。もちろん女性は、より一層肌が美しくなりますよ。冒険者にテスターになってもらい使用してもらいましたが、効果があったと皆が口をそろえて申しました」

 見本として、【明け方の薄月】ご一行が並び、ニッコリと笑った。

「……確かに、すごく肌が綺麗だわ」

「若いってだけじゃないのよね?」

「私たち全員、二十歳を超えています」

「「「「買うわ!!」」」」

 女性客が食いついた。

「見終わった方は別の場所へご案内いたします。休憩は、先程通り抜けたこの上の階にございますので、ワンドリンク制となりますが、お使い下さいませ」

 説明を聞いたあと公爵が寄ってきて、声をひそめて尋ねた。

「……もしや、ソードが若返ったのはこの化粧品のせいか?」

 私も声をひそめて公爵に返した。

「……これだけではありませんが……ちょっと失礼をしてしまったので、いろいろ手を尽くしました。やはり冒険者というのは、陽にさらされ肌を酷使する職業なので、肌の老化が激しいのですよ。二十歳ほど年齢を勘違いしてしまい……現在は大体見た目と年齢が合致しているんじゃないかと」

「いや、アレは、さらに十歳くらい若返ってるだろう。少年みたいになっているぞ?」

 ヒソヒソ話したつもりだったけれど女性客たちには聞こえていたのか、くるーり、と怖い感じでコッチを見て、その後より一層白熱した。


 男性客は殺気立った女性客に恐れおののいて、別の場所を見る、となった。

 男性客はもう一度ゆっくり見たいと言う人といったん休憩したいと言う人とに分かれてもらい、それぞれ案内する。


 私は、というと、公爵夫人に捕まった。素早く私に近寄りささやいてくる。

「……今のうちに、あの箒に乗ってみたいのだが?」

 …………。

「……わかりました」

 この人、絶対ソードと気が合っていたと思う。


 公爵夫人に予備の従業員の制服と、【明け方の薄月】メンバーからすね当てや膝当て肘当てを借りて着替えてもらう。

 その間に私はディスプレイから箒を持ってきた。……と、ここで隠れていたソードが現れた。

「貸さないんじゃなかったのか?」

「エリー殿に懇願されてな……」

 ソードが呆れ顔で私を見た。

「お前って、人妻にまで弱いの? ホンット節操ねーな!」

 人聞きの悪いことを言うな!

「ソード、そう妬くな」

 ――と、完全装備の公爵夫人が登場。

 おぉ、カッコいいな! 女性騎士の見本みたいな人だ。身長も高いし、宝塚の男役がすごく似合いそうだな。

 あ、でも、おっぱいデカいから無理かも。

 ソードが公爵夫人を見て、眉根を寄せて尋ねる。

「なんで妬くって話になるんだ?」

 公爵夫人が笑う。

「妬いていないならば、私の頼みを聞き入れたくらいで『節操がない』などと言うな。『自分だけ特別扱いしてほしい』と言っているように聞こえるぞ」

 ソードが詰まった。私は胸を張る。

「ソードは女性に冷たいからな。私は、普通だ。度量も比べようもなく深いのだ!」

「はいはい。その度量を男にも回してあげなさい」

 私たちの会話を聞いた公爵夫人が笑った。笑いを収めた後、

「では、指南を頼む」

 キリッと言ってきたのを見て思った。

 あ、この人ホントにカッコいい。

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