第276話 お店の内見をしよう!
基礎工事と配管工事をする。
土木工事は私とサハド君の十八番だ。私は木をズボッと抜き(実際は根がメリメリバキバキという音を立てて千切れた)、サハド君は土魔術を駆使し掘り、ソードはそれらをどこかに捨てに行った。配管工事は頼んだ業者が指示通りにやってくれた。
基礎が終わったところで、プラモを組み立てるがごとく店を組み立てる。
だんだんと人だかりが出来てきたので、ロープを張って進入禁止にした。
ソードやプラナ、サハド君、業者の人とせっせと組み立て、三日ほどで組み立て終わった。
「すっげー! すっげーッスよ! インドラ様、ありがとうございます!」
ベン君、超感激してくれた。
スカーレット嬢が興奮してタブレットで写真をバシバシ撮っている。あ、アマト氏もだ。君は拠点で組み立てたのを見ただろう。
業者の人たちも興奮してあちこちから見ている。
「あとは商品を並べたりがあるだろうが……その前に」
私はソードをチラリと見た。
ソードが私の反応に笑うと、マジックバッグからあるものを取り出す。
「……俺とインドラで作った【看板】だ。これを飾れば、お前の店だってわかるよな」
『ベンジャミンの店』と書かれた看板を掲げて見せたら、ベン君、泣いてしまった。
私とソードで店のドアの上に飾り、泣きじゃくりながらもベン君はそれを見上げた。
さて。
出来上がりはしたが、ここから準備があるだろう。
今、雇った従業員たちは別の町にいて【明け方の薄月】メンバーと共にこちらに向かっているらしい。
商品も一緒に届くそうだ。
「もうちょいで来ると思うんスけどね」
そういえば、と、思い出したことを尋ねた。
「こちらの世界では〝竣工式〟……建物が出来たときに、お披露目パーティをやったりはするのか?」
スカーレット嬢とベン君が顔を見合わせる。
「……基本はありませんわね。王都の屋敷を改装したときに行う方もおりますけど……そもそも改装なんてめったにしませんし、ないですわね」
貴族はやることもあるけれど、めったにあることじゃないので事実上ないに等しいと。
「俺も『店が出来たからパーティやる』って呼ばれたことはないッスねー」
とはベン君談。
そうかなと思ったけど、やっぱりそうか。
「まぁ、そうだな。――ただ、たぶん予想されるにここは一つの『観光スポット』になる可能性が高い。最初は冷やかしで来る客や、なんなら盗人などが大勢押しかけるだろう。最初はひいき客のみにした方がいいぞ。じゃないと殺到して、店がめちゃくちゃになる」
「わかったッス!」
ベン君が、キリ!と真面目な顔で答えた。チャラ男にしては珍しい。
まぁ、自分の店を開店早々に汚されたら嫌だよね。
「使っていて、不便に感じることや要望があったら言ってくれ。大幅な改修工事はさすがに無理だが、どうにかなりそうなら要望に応える」
「ありがとうございます!」
ベン君に、チャラい答え方じゃなく、真面目に礼を言われた。
中も一通りチェック。
壁面はオープンラックになっていて、可動式の棚なので好きなように配置出来る。浮かぶ提灯の他にも、天井の中央には鈴蘭を逆さにしたようなシャンデリアを作って吊し、ファンタジーの中に高級感を出してみた。
「あの〝提灯〟素敵ですわね……。〝オリエンタル〟な感じがしますわ」
フワフワと宙に浮く、緋色の丸い提灯を指してスカーレット嬢が言った。
「ふむん。では、土産に作って渡そうか。〝回り灯籠〟に細工してもいいな」
褒められたのに気を良くして言うと、スカーレット嬢に首をかしげられた。
「回り灯籠?」
指をくるくる回す。
「灯りをともすと、その熱で上昇気流が起き、中の影絵がくるくる回る仕掛けの提灯だ。田舎の祖母の家にあった記憶がある。幼心をくすぐる仕掛けだったな。夏に帰省すると、それが夜に回っていてとても幻想的だった、記憶がある」
って、スカーレット嬢に向かって言ったのに、瞳がキラキラしているソード。
私はジロッとソードをにらんだ。
「……子供でも作れる細工だぞ? 魔導具でも何でもない、自然現象を利用したものだ」
「ということは、簡単に作れるんだろ?」
逆手に取ってそう言われる。
アマト氏も知っていた。
「あ! なんかわかったかも! 知ってるかも! 田舎にあったかも! インドラ様、懐かしいから作って!」
プラナとサハド君もキラキラした目で見ている。
…………。
しかたないのでプラナとサハド君に手伝わせて作った。オイルランプで回る簡単な仕掛けだ。
火をともすと、影絵がくるくる回る。
「……せっかく店が出来たのに、内覧せずに工作させるとはどういう了見だ?」
皆、感心してるけどさー、こんなんどうでもいいじゃんか!
中、見ようよ!
争いの結果、回り灯籠はスカーレット嬢がゲットし、ソードが「あとで作って、お願い」とめっちゃ頼んできて、わかったわかったとなだめてようやく再開。ハイ続きを見よう。
ふと、スカーレット嬢が上を見上げて尋ねた。
「あんな高い場所に棚があるんですけど、どうやって取るんですの?」
二階まで伸びた大きな柱は、彫刻を施した魅せる棚となっているのだ。
「客に見えない内部に梯子があるのだ。重い物や壊れ物は入れない前提で作ってある。無理をしなければ余裕で取れるぞ。ホーブに頼めば取ってもらえるしな」
魅せるためには多少の不便は我慢なのだ!
二階部分に上がった。
ロフト風になっていて、手すりから階下や吹き抜けの天井、浮かぶ提灯を見渡せる。
「うわー、結構高い」
アマト氏が手すりから乗り出す。勇者だから死なないかもしれないが、落ちたら痛いぞ。
「スペースは二分の一ほどだな。何を置くかは自由だ。まぁ、重い物は置かないほうがいいな。客も二階から運ぶのは苦労するだろうし」
「そうッスねー。ちょっと考えるッス」
ベン君が周りを見渡しながら返事をした。
「……あら? まだ先があるんですの?」
スカーレット嬢が上に続く階段を見つけて言った。
三階に上がると、開放感溢れる造りのせいか単に物がおいてないせいか、皆が感心したような声を洩らした。
吹き抜けの天井は摺りガラス風になっていて明るく、さらに窓も多くとっている。
「一階部分にも倉庫は作ったが、三階を倉庫にしてもいいだろう。だが天井部分に近いので、明るいから倉庫にはもったいないか」
商品が日光で日焼けてしまうしね。
スカーレット嬢が、うっとりと天井を見上げて言った。
「私はここでお茶を飲みたいですわ……」
よっぽど天気が悪い日には灯りがともるが、基本は空の色を活かすようにしているからそう思っちゃうよね。
「あ、わかる。デパートの屋上のイートイン感覚だ!」
とはアマト氏談。
……うーん? ちょっとニュアンス違うカモだよ?
アマト氏は、反対側の窓から眼下を見下ろす景色を見てそう思ったのだろうけどね。
私は振り返ってベン君に話をつないだ。
「――だ、そうだ。茶葉の販売があるなら、ここで紅茶を淹れてもいいな。ただ、おいしい淹れ方が出来る者を雇わないと、貴族からブーイングが来るな」
「うーん、わかりました。一応考えておきます」
ベン君、考え込んだ。
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