第265話 ギルマスとの会話〈ソード視点〉

〈ソード〉

 ギルマスがため息ばっかりついてる。

 なんつーか、苦労してそうだよな。

 って考えてたら唐突に、

「酒場を開くのか?」

 って聞かれた。

「ん? そのつもりだよ。シーイでもやったんだけど、そのとき手伝ってくれた連中を相棒がスカウトしたんだ。で、ソイツらが簡単に酒場経営出来るゴーレム作ったんだよ。せっかく作ったんだし、町を訪問したときにはよっぽどのことがねー限りは開くことにしてる」

「…………ゴーレムを、作った…………」

 ギルマスが途方にくれた声でつぶやいた。

「俺の相棒はSランク冒険者なんざ目じゃねぇほどの実力持ってんだ。つーか、何やらせてもこの国随一って感じだな。アイツができないのって…………アレか。あるこたあるけど、ま、基本はない」

 手加減とか許すとか言いなりになるとか出来ないけど、言う必要ないよな。

 ギルマスに、これ以上途方にくれた感じになってもらっても困るしな。

 俺は肩をすくめた。

「だから、あのキザったらしいやつも、今Bランク冒険者だとしても今後Sランク冒険者になるかもしんねーし。ま、Sランクは次回、魔族が襲ってきたときに王都防衛戦に参加して生き残らなきゃ無理だろうが、でもソロでAランクなら間違いなくSランクの実力があるだろ」

 ギルマス、返事もせずにしばらく黙ってた。

「……アイツにそんな実力があると思うか?」

 忘れた頃にギルマスが唐突に聞いてきた。

「知らねーよ! 俺、ちょっとしか顔合わせてねーんだぜ? しかも、気障ったらしいセリフを並べてインドラをおびえさせてたじゃねーかよ。……そういう意味じゃ、インドラをおびえさせる猛者だよな。アイツがおびえることなんてほぼないんだからよ。――で、あの気障野郎の話に戻すけど。やつは、俺の相棒と比べたら、実力はないに等しい」

 ギルマスの顔が引きつった。

「俺の相棒は、俺よりも実力がある。【オールラウンダーズ】の看板を背負ってるのはアイツだ。だけどな? 俺だってBランクの頃があった。アイツはなかったけどな! でもって、【剛力無双】にも、【血みどろ魔女】にもあった。アイツはなかったけどな!

 ――ってことで、相棒にゃ負けるけど、ソロでBランクならその上も狙えるだろ。デーモン召喚だってのは、アンタも知ってんだろ? ヤツが光魔術を使えるのかどうか知らねーけど、デーモン倒せるような道具をそろえて挑みゃAランクは合格出来るし、そもそも依頼だって行き当たりばったりじゃねーんだから、事前準備を頑張ればどうにかなるだろーが」

 ここまで話したときふとインドラの顔がよぎり、酒でのどを潤すと、アドバイス的なことを言った。

「ま、俺としちゃ、とっとと仲間を見つけるこったな、ってアドバイスしてーけどな。俺はそもそもソロは不本意だった。仲間に恵まれなかっただけで、本当はパーティで冒険したかったんだよ。ようやく、俺と組みたいってやつが見つかったんで、ようやく! 冒険してんだよ。ホンットに頭のイカレたやつだけど……」

 思いだして笑った。

「……俺のことを大切にしてくれるし、俺にない部分をカバーしてくれるし、最高のパートナーだ。俺たちは最高のパーティだ。そういうやつと巡り会ってパーティ組むことをお勧めするよ。俺をライバル……つーか虚仮にしたくてたまんねーみてーだから、面と向かって上から目線でアドバイスはしねーけどな」

 ギルマスが肩を揺らした。

「……やはり、気付いてたか?」

 ギルマスが申し訳なさそうに聞いてきたんで、肩をすくめてうなずいた。

「そりゃもちろん。別に、やつだけじゃねーよ。俺の絢爛たる肩書きを虚仮にしたいか虚像であがめたいか、どっちかの連中が大半だ。俺は単なる冒険者なんだけどな」

 シーイでインドラは言った。

 自由の妨げになるなら英雄なんぞいらねー、ってよ。

 それを聞いてスカッとした。

 そうだよな。俺は自由だ。アイツも自由だ。

 だから、妨げになるならイチ冒険者になるさ。

 別にSランクじゃなくたって、冒険は出来るんだ。

 未知を探索し、強敵を倒すのにSランクなんて肩書きはいらない。

 仲間も増えたことだし、町に立ち寄って、酒場を開いて飲み食いして、適当に狩りして、未知を探検するだけだ。


 ふと見たら、ギルマスが驚いた顔して俺を見ていた。

「…………Sランクまで上りつめて、単なる冒険者だと言うのか?」

 俺は肩をすくめてみせる。

「言うよ。俺も相棒も、未知を探索し強敵を倒すだけの冒険者だ。楽しそうなことがありゃ首を突っ込む。気に入らねーやつがいたら蹴っ飛ばす。第一、ドラゴンやデーモンに向かって『俺はSランクだ』とか抜かしてどうにかなるかよ? 連中がひれ伏すとでも思うか?

 ならねーだろ。たまに使いどきがあるから使ってるだけだよ。酒場だって、Sランクをひけらかしゃ簡単に場所取れるからな。でも、なくても手続きがちょっと面倒くらいだ、大した問題でもねー。その程度なんだよ」

 ギルマスが驚いた顔のまま、目の光を消してった。

 なんでだよ?

「……ギルドとしちゃ、有り難がってほしいだろうけどな。たまに邪魔なときもあるぜ? 俺は相棒と違ってトラブルは御免なんだけどよ、Sランクだと妙な連中に絡まれやすいからな」

 っつったら、思い当たるらしくて眉根を寄せて考え込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る