次代のSランク冒険者編
第260話 別の内海の町にやってきたよ
河口付近の町は、規模でいけば、先日まで滞在していた内海奥側よりも大きく栄えているような印象。
貿易もしているのか船がいっぱい泊まっている。
いかにも栄えている港町! って感じだった。
「ふむー……。他の港町よりも栄えてるが、他の港町よりも突出して特徴があるわけでもないな。期待しすぎたか」
「どんな期待をしたんだよ?」
「栄えている港町は、特にこれだけ貿易船があるということは、他所の国の文化と入り交じり、異国情緒あふれる町になっているのを期待した。だが、栄えている以外に変わったところがない。もっと、建物に目を瞠るような特徴があったりとか、いろんな種族が歩いてたりとかを期待してたのだが」
「ふーん……」
とソードがうなって、見渡した。
「そうだな、似た感じは王都だよな。栄えてて、整備されてて、船もある」
「そうだな。逆にそれが特徴なのかもしれないな」
そういえば、もう一つ特徴があったな。
内海の町シーイは、ソードのカードを見て驚かれた。
勝手に回して見てなかなか返してくれないほどに驚かれた。
だけれど、ここの町の役人は、驚きはしたがソードが来たことに感動しなかった。
どちらかというと、困ったような顔をしていたのだ。
ソードも表情には出さなかったが不審がっていた。
ただ式部を連れていたため、騒がれない方が良かったのでスルーしたのだ。
不審に思いつつも、まずはギルド。
リモンたちには買い出しに行ってもらった。
そういったことが得意そうだから。
観光がてら珍しそうなのを適当に値切って買ってきてくれ、高価な物は相談してほしいが、そうでなければ好きに買っていいし欲しいものも買え、というと、喜んで飛んでいった。
リモンは当たりが分かるスキル持ちなので、期待しよう。
ソードが受付で名乗る。
「Sランク冒険者パーティ【オールラウンダーズ】のソードだ。ギルマスに連絡してくれ」
ざわめきが止まった。
……この反応、なんだろ?
凍りついたみたいに止まったのだけれど。
ソードもますます不審がる。
受付嬢は固まった後、
「しょ、少々お待ちください」
と言い残し、慌てたように奥に引っ込んだ。
「……歓迎されてる雰囲気じゃないな。鉱山の町ソーブとはまた違った、閉鎖的な感じがする」
ソードが私に耳打ちしてきたのでうなずいた。
「同感だな。何やら不穏だぞ?」
事件の臭いがする!
ワクワク。
思わずニヨッとしてしまったらソードがジロッとにらんできたが、直後破顔した。
「うむ?」
私を見たソードの反応が思ってもみなかったので、思わずたじろいでしまった。
「お前がいると頼もしいよな。歓迎されてない雰囲気を感じて喜んでるんだからよ」
なるほどね。ソードの悪意キャッチャーが何やら感じ取ったらしいが、私が喜んだので気にならなくなったのか。
「ワクワクするだろう? 私を避けて通っていくトラブルの臭いがプンプンするのだぞ?」
私が同意を求めると、ソードが笑って頭をなでた。
ギルドマスターの部屋に呼ばれた。
ここまではいつもの通り。
「……この町は冒険者の質が良いので、特にお任せしたい案件はないのですよ」
が、ギルドマスターの開口一番だった。
「そうか。別にそれならそれでいいんだぜ? 俺たちは、どうしても依頼をこなさなきゃなんねーってことはないから。一応、顔出ししろってソッチが言ってるからやってるんだ」
ソードは肩をすくめ、私は首をかしげた。
「平和で何よりだ。私にとっては退屈な町だがな」
ギルドマスターの顔が引きつる。
「水平線の向こうからリヴァイアサンがやってきたりとか、せめてクラーケン辺りが攻めてきたりとか、いっそ海賊でもいいな、千隻くらいの大海賊が大海原を埋めて攻めてくると愉快なのだがな……。まぁ、しかたがない」
私が続けて言うと、ギルドマスターは今度呆れ顔になる。
ギルドマスターの反応を見て、ソードがクスリと笑った。
ギルドマスター、ソードを見てせきばらい。
「……さすがにそれは、Sランク冒険者に任せなけりゃいけない案件だが……」
「その必要はない」
ギルドマスターの言葉を誰かが遮った。
そちらに顔を向けると……ドア付近の壁に、ポーズを決めて寄りかかっている男がいた。
なんだろう、今までにない展開だが、なぜか寒気がする。
「この俺、シャイニングライトニングスター、またの名を【光速の星剣】がいる限り、どんな魔物であろうともこの町に寄せ付けることはない。なにせ俺は、『次代のSランク冒険者』なのだからな!」
へー。
Sランク冒険者なんだ。
結構いるんだな、Sランク冒険者って。
それにしても、『次代』ってなんだろ?
そしてこの悪寒は何だろ?
ふと腕を見たら、鳥肌が立っていた。
「ソード……。どうも調子が悪いようなのだ。これを見てくれ」
ソードが私の腕を見て、いぶかしげな表情が一気に驚愕に変わる。
「おい? 大丈夫か?」
「わからない」
私が首を横に振るとソードが慌てる。
「そうか、他にSランク冒険者がいるとは知らなかったよ。俺の知ってるのは【剛力無双】と【血みどろ魔女】だけだったからな。もしSランク試験なんてのをここでやってるなら、コイツも受けさせたいから時期を教えてくれ。……ただ、今日はもう引き上げる。コイツの調子が悪いみたいだ」
まくしたてた後、私を抱き上げてすごい勢いで外に飛び出し、シャールに連れて行った。
「大丈夫か?」
「むー……。町に着いたときまではなんともなかったのだが、ギルドマスターの部屋に着いてあの男が現れた辺りから次第に寒気がしてきて、あの男が話しているときに急に悪寒が走り鳥肌が立ったのだ」
ベッドに寝かされた。
「頑丈だって思い込んでたけど、疲労がたまってるのかも知れねーぜ? お前はなんだかんだ細々働くからよ。ちょっと休めよ」
「うむ……」
私はソードの手をつかんだ。
「うん?」
「依頼がないなら、そばにいてくれ」
私が頼むとソードが笑う。
「珍しいな、お前が甘えてくるなんて」
ソードはそう言いながらもベッドに腰掛けた。
ソードの手は冷たかったが、握っていたら温かくなってきた。
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