第254話 ぷるぷる、ぼくわるい○○じゃないよ作戦に弱いです

 高飛車男を正座させ、三角座りしていじけている聖女とともに説教をする。

「いばりたいのならば、実力をつけろ。その高飛車老女も何かしらの実力があるからいばっているのだ。ならば、上回る実力をつけるしかあるまい。一点突破だけではなく、全てをねじ伏せるほどの実力をつけなければ『先に聖女になった』という点で勝っている彼女に勝てる道理はないだろうが。ソードなんて、ほぼ全ての生物の頂点に立ちそうなくらいの実力なのに、こうやっていばってくる人間が後を絶たないのだぞ?」

「全ての生物の頂点に立つ実力のお前は、確かに実力でねじ伏せ回ってるよな。魔物には恐れられて近寄られず、貴族にすら道を避けられて、周りの連中にはいつの間にやら全員に『様』付けられて呼ばれてるしな」

 ソードがツッコミを入れてきた。

「……つーか、聖女って何なんだよ? 俺の知識だと、この国の浄化と救済の役目を背負った神官なんだけどよ? たまたま浄化に特化した神官に女が多かった、ってので聖女って呼ばれるようになったって聞いたぜ? なのに、今じゃそんなこたどーでもよくて、権力と『神の声』とやらが聞こえるかどうかってのが聖女の条件かよ。……さすが教会だよな、浄化もろくにしねーで権力争いかよ。貴族とタイマン張って威張り散らすだけあるぜ」

 ソードが吐き捨てた。

 そしてソード、聖女の説明ありがとう。

 それを聞いた高飛車男はぐっと詰まり、聖女はソードの言葉を聞いて決まり悪そうな表情をし、正座した。


 ソードの説教が続く。

「あぁ、確かに俺たちは、特にインドラは実力でねじ伏せて傲慢に生きてるよ。だけどな、それでも俺たちはSランク冒険者として、各地回って依頼をこなしてんだよ。お前等が自分たちの身の安全だけ図って冒険者を集めまくって護衛頼んで救済も浄化もほったらかしで威張り散らしてる間、俺は人手が足りなくなって滞ってる依頼を片付けてたし、インドラは孤児を雇って身体洗ってやって飯を食わせて服を洗ってやってた。コッチはきちんと義務を果たしてんだ、威張る権利はあるんだよ。お前等はどうなんだ?」

 二人とも、完全にうつむいています。

 ソードの説教が身に沁みているらしい。


 私も思い出して言った。

「確かにその通りだ。ソードの説教で思い出したが、お前たち、あの孤児院の子たちと神官を見て何も思わなかったのか? あんなに汚れた子供たちと神官は、各地を回ってきて初めて見たぞ。お前たちは、アレを見てもまだ自分たちの権力のことしか頭になかったのか。……どうしようもないな、やはり『病持ちの人間』は自分の世界に入り込んでるだけあるな!」

 それを聞いた聖女が弾けるように顔を上げた。

「ちょっと待って下さい。私がここに来たときは、汚れてなどいませんでしたわ!」

 反論してきたので言い返す。

「……アレが汚れてなかったら、何が汚れてるというのだ? 汚すぎて泣きそうだったぞ! 呼んでしまって、寄ってこられたとき激しく後悔したんだからな! ……まぁ、今は全員洗ってやったし、引っ越したという先も綺麗に洗浄したので、大丈夫だと思うがな」

 聖女、「あ」と小さく叫び、うつむいた。

 むむ?

 何か合点がいったような表情だな。

 しかも、失敗したというような顔だ。


「……あの神官は『最近引っ越した』っつってたな。『引っ越し先が汚くて、汚れてしまった』とも言ってた。つまり、引っ越し前、連中はどこにいたんだ?」

 ソードが二人をにらみつつつぶやいた。

「神官なら当然教会だ。……あの神官は出来た人だった。子供たちも教会に住まわせてただろう。子供たちも慕っていた。インドラに、『神官様にもこの料理を食べさせてあげたい』って頼んだらしいからな。……で? お前等、今、どこにいるんだ?」


 ……なるほど。

 追い出したのか。


 私は聖女たちに一歩迫った。

「威張り散らすことだけしか念頭になく、働き者の孤児と慈悲深く優しい神官を追い出してその権力に浸っていたか。……なるほど、聖女という生き物は、勇者と同じほどに罪深い生き物だな。殺した方が世のためか」

 ビクッとして聖女が硬直し、高飛車男が弾けるように立ち上がり立ち塞がった。

「私! 私だ! 彼女ではない! 私が追い出したのだ! ララ様は、本当に……あなたたちほどではないが、教会では一番の聖魔術の遣い手なのだ! それなのに、あの聖女が認めないので、ララ様は自信をなくし、しかも他の連中まで見下すようになったのが悔しく、歯がゆかったのだ! 修行と称し追い出されたのを幸いに、権威の利く他の地でララ様に自信をつけていただく予定だったのだ!」

 ――本当に、何を言っているのだコイツは。

 私は高飛車男を見据えて言った。

「だから、それが勇者と同じだと言ってるのだが。別に私は正義を気取るつもりはない。ただ、気に食わないので殺す。――至極簡単な理由だろう? 原因がお前にあるにしろ、お前は自分よりも聖女を殺された方がダメージがきそうだからな。聖女を殺してお前は生かしてやる。是非とも逆恨みして挑んでこい!」

 ソードがため息。

「……うん、お前ってそういうやつだよな」

 二人は呆気にとられてる。

「……こ、こんな……こんな人が、英雄……?」

 聖女が信じられないといった顔でつぶやいた。


 ソードが眉根を寄せ、私は肩をすくめた。

「英雄と呼ばれているのはソードで、私は自由に生きている冒険者だ! だから、したいようにするのだ。ソードにもそう勧めている。英雄なぞ下らん。自由を阻むなら、英雄になどならんでいい」

 私の言葉にソードが笑い出す。

「そう! その通りだ! 俺は単なる冒険者だよ。英雄とか言われてるけど、単に依頼を片しただけだ。で、勝手に虚像を作られて、堅ッ苦しい生き方を強いられてた時に、最高に頭のおかしい相棒を見つけてよ、ようやく自由に振る舞ってるんだよ。だから俺は、相棒が気に食わないので殺すっていうのなら、止めねーよ。……でもよ、インドラ。お前、女を殺せるのか?」


 むむ?

 何を言い出す?


 ソードを見た。

「別に性差別などしないぞ?」

 そういって向き直ると、聖女がひざまずきプルプルしながら胸の前で手を組んで、涙目でこっちを見上げていた!


 必殺! 震えるコカトリスの真似か!


「むむむ……」

 私がうなると、聖女が偶像に語りかけるように哀願しだした。

「お願いします。……聖女の役割を怠り罪を犯した私が殺されるのは是非もないですが、彼の……ジェービスの罰というのなら、慈悲を下さい。過ちを後悔し、悔い改める機会をお与え下さい」


 プルプル震えながら震え声で話すし!


「むむぅ……」

 私がうなって困ったら、ソードが呆れた声を出した。

「お前って、ホンット、女に弱いよな」

 ――違うもん! 私はおびえ震えている生き物に弱いんだもん!

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