第253話 人、それを黒歴史という
私がソードをじとーっとにらむと、ソードがプイと横を向いた。
「……ちょっと、お前とかダンジョンコア様が使ってるのが羨ましくて、王都のダンジョンコア様に詠唱呪文として教えてもらった。その後に、聖魔術や光魔術と混ぜると派手でいいんじゃねーかって思いついて、試しに聞いたらソレ用の詠唱を作ってくれたんだよ」
ナニーーーッ!?
ダンジョンコア様、詠唱を作れるんだ!?
「さすがダンジョンコア様!」
「確かにさすがだけどよ、元はお前だろうが」
頭をなで繰り回された。
そうこうしている間に光が収束。
なぜか高飛車男が埋もれていた土砂から脱出している。聖魔術ってそんな効果もあるの? すごいな聖魔術。
「うむ、演出が派手で、ケミルミネッセンスの光る時間もちょうどいい感じだな」
私がうなずくと、ソードもうなずいた。
「まーな」
聖女がポカンとして、ソードを見ていた。
気付いたソードが私をグリグリなで回しつつ、聖女に向かって言った。
「元の魔術はコイツが作り、それを王都のダンジョンを攻略したときに親しくなったダンジョンコア様に教えて、ダンジョンコア様が詠唱呪文として作り直し、それを聖魔術と混ぜて俺に教えてくれたんだよ。これよかすげー聖魔術知ってたら、見せてみろ」
なるほどなー。
なんでソードまでダンジョンコア『様』って言うようになったのかわかったぞ。
ダンジョンコア様のすごさを、詠唱呪文作ってもらったときに思い知ったのか。
……しかし、ソードってなんだかんだ美形に弱いな。
恋人もかなりの美人だったようだし、美形のプラナにも優しくしていたし、ダンジョンコア様も美形で、内緒で会っていたと。
この面食いメェ!
聖女、心が折れたらしい。
いや、元から折れていたか? 脱力したように、肩まで下げてうな垂れてしまった。
高飛車男は慰める言葉が見つからず、へたり込んだ。
後ろではのん気な連中が、
「わー、さすが英雄! すげー!」
「キラキラしてたー!」
「Sランク冒険者ってハンパねぇ!」
と、のん気な掛け声をかけてきた。
「聖女は棄権らしいな。勝者はソードだ。異論はないな?」
聖女は、うな垂れつつ小さくうなずいた。
高飛車男を見やったら、ワナワナ震えたが、やはりガクリとうな垂れた。
ハァ、とソードがため息をついた。
「ま、聖女と絡んでこんな程度で済んだのを良かったって喜ぶべきなのかね」
つぶやいたので全員がソードを見た。
「……先代の聖女は、本人がすっげー高飛車で、うっかり俺が聖魔術を使ったら目の敵にされて追っかけ回されたんだよな。暗殺者やハニートラップの嵐でひどい目に遭ったぜ」
ソードがうんざりした顔で頭をかく。
「ふむふむ。私は羨ましいがな……。なんでお前はそうトラブルに巻き込まれやすいくせに、私を巻き込まないのだ?」
「俺が知りたい。つーか、お前のそのトラブルが舞い込んできたのを逆手に取って楽しむ術を俺も身につけたい」
それは、楽しんでいた私に跳び蹴りを食らわした人が言うセリフだろうか?
「……あの方と一緒にしないでいただきたい!」
急に高飛車男が憤って言い出した。
「高飛車ってところと私たちに目をつけて乗り込んできたところは一緒だろう?」
私が言うと、ソードがうなずいた。
高飛車男が詰まったが、
「そ、それは、あの方が、ララ様を敬わず、下に見ているからです! そのせいでララ様は聖女であるにもかかわらずいまだ認められず、他の者からも低く見られ、肩身の狭い思いをされておられるので、私がララ様の権威を見せているのです! さらに【迅雷白牙】をララ様の護衛として従わせれば、ララ様の権威は回復するはずだったのです!」
と、意味不明なことを言い出した。
私は首をひねる。
「……ソードが護衛に就き、お前が威張ることが彼女の権威の回復につながる? 意味がわからないが……。アドバイスをするとだな、その『他者には聞こえない声が聞こえる』病持ちは、往々にして高飛車だ。何しろ『愚民共には聞こえない声が、私には聞こえるのだ! ファーハハハ! ……ぐっ、右目に封印されし邪気眼が疼く……!』などと世迷い言を言うのだからな。ちなみに、ソードと違って右目に邪気眼など封印した事実はないにもかかわらずだ!」
すぐさまソードがツッコんだ。
「ちょっと、それだと俺までその病持ちみたいじゃない。俺は、自分の体に封印なんてしないよ?」
そうだね。
普通にサラッと封印したことある事実を出すもんね、病持ちの人間が嫉妬して追いかけ回すだけある人だよ、君は。
あ、聖女が真っ赤になって耳を塞いだ。
「だから、今言ったようなセリフを先代にぶっ放せばいいのだ! 『老害はとっとと引退しろ! 貴様の聞こえている声は老人特有の幻聴もしくは耳鳴りだ! 私が神の声をしっかりと聞き取ってやるから安心してあの世に旅立つがいい! ……うっ! 頭に神の唄が鳴り響く……!』とでも言っておけばいいのだ、わかったな?」
「それでは私まで病持ちの人間みたいではないですか!」
と、泣いている聖女に怒鳴られた。
「認めたくない気持ちは分かる。若かりし頃は、そういう病がはやるものなのだ。今暴れ回ってる勇者も、いまだその病を患ってるらしいしな? 病が冷めたらさぞかし恥ずかしいだろうにな……そういった過去を『黒歴史』というそうな」
「違うもん~~!」
より泣いちゃった。
しかも言葉遣いが素に戻ったぞ。
「インドラ、それ以上追い詰めるのやめたげて?」
ってソードがストップかけてきた。
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