第247話 屋台要員をスカウトしたよ
屋台は大盛況で終わった。
料理が残り僅かの時点で外の看板をソールドアウトにし、拡声魔術でアナウンスを流す。
まぁ、酒はあるので飲みたければ飲みなさい。
でも、時間もそこそこになったので席を立つ人が多くなり、そして最後の客が帰り、店じまい。
お手伝いの人たちにゴミをまとめてもらい、食器は一気に洗浄魔術、辺り一帯を見回って人がいないのを確認してから一帯を洗浄魔術。
お手伝いの人たちに残りの料理とエール、もしくはシードルを出す。
私はジュースで打ち上げ。
「「「おつかれさまー!」」」
乾杯して飲み食いした。
「良かったー! やっぱ当たりだった!」
お手伝いの一人がエールを一気飲みして言った。
「当たり?」
私が首をかしげながら聞くと、彼女はうなずいて話し始めた。
「うん! 私、そういう『良い仕事』を引くスキルを持ってるんだ。だから、ここの看板見てビンビン来て、待ってたの。仲間も知ってるから手伝いやったんだー」
彼女の仲間らしき人たちが、「おう! 助かってるぜ!」「今回は大当たりだな!」等々言いながら彼女の肩をバンバンたたいた。
へー! そんなスキルがあるんだ。
「ふむふむ。面白いスキルを持ってるな」
私は彼女に興味が湧いた。
「もう一杯いい?」
そう聞いてきた彼女に、私はうなずく。
「話を聞かせてくれるならいいぞ。私は、おごったり施したりするのは嫌いだが、何かしらの対価があれば気前よく払うタイプだ」
「うん、そんな感じがする。なんか、今回、すっごいビンビン来てて、運命の出会いがあるかもって感じてたんだ」
彼女はエールを注ぎつつ、
「私も、おごられたり施しを受けたりするのは嫌い。なんか、嫌ーな感じがするよね。俺、金持ってんだぜ? 的な!」
独り言をつぶやくと、聞いていたソードがむせた。
私はソードの背をさすりつつ、弁解する。
「まぁ、おごる方の相手はいろいろ面倒臭いからおごるっていうのがほとんどだ。もちろん金は持ってるだろうがな。私はそういうのとは関係なく、いわゆる『作り手』なのでな。自分の作り出した物に絶対の自信を持ってる職人なのだ。だから、その価値を示したい。原価換算すると安いので自分では高い値をつけられないが、無料ではやれん。それは、私の産み出した物が無料同然の無価値な物になってしまうからな!」
「うん! そういう考え方、好き!」
彼女に同意された。
「……正直、こんだけおいしい物作っててこの値段? って思ったけど、肉なんて今狩ってきましたー直送です! みたいな、半自給自足だから、安くなるのもしかたないのかなーってさ。……絶対外に食べに行ったことないでしょ?」
彼女に聞かれて私はうなずいた。
「外食するくらいなら作った方が安上がりなのだ」
「そう言うと思ったー! 相場がわかってない! って感じだったもん!」
説教を食らった。
なるほど、相場ではないのか。
とはいえ相場がわからない。
私は腕を組んで彼女に聞いた。
「……なら、いくらつければ良かったんだ? 私はこういった酒場に詳しくないんだ。なんとなくイメージで、自分の憧れた酒場を作ってみて、値段は客が入りやすいような設定にしたのだ。もちろん、赤字ではないぞ? 手間賃は含まれないが、ちょっとは黒字になる程度には価格設定をしているのだ」
彼女は顎に手を当てて考え込んだ。
「少なくとも倍はつけないと駄目だね。三倍でもアリ、つーか三倍でも安い。ただ、この客層を維持したいなら、もっと質を下げるべきなんだけど」
……むちゃ振りされた。私は首を横に振る。
「……料理は、ソードがおいしいと言ってくれるようなものを出す。私は、客のためではない、ソードのための料理人だ。だから、質を落とすことはできない。なら、価格を上げる。今回は、私がこの町にイメージした酒場を作りたかったのだ。つまりは、私の望みをかなえる酒場を作ったので、いわゆる『趣味の店』なのだ」
お手伝いの人たちがひっくり返った。
「うっはー! 職人だなー。ドワーフ顔負けレベルで!」
「まぁ、冒険者でもうけてるから言えるセリフだな」
と、ものすごく当然の指摘を受けた。
「うむ。言う通りだ。でなければやらない方を採るだろうな。私は、冒険者なのだ。こうやって、出会いを大切にし、もうけ度外視で思い描いた酒場を開き、語らい、演奏するのが目的だ。金の問題じゃない、情報と一期一会に期待している」
私がうなずきながら言ったら、口笛を吹かれた。
「ヒュー! かっこいー!」
「ヒューヒュー! おっとこまえー!」
ムム? ほめているのだろうが、異論ありだ。
「男女は関係ないだろう。男だろうが女だろうが冒険者は一緒で、魔物と相対したら魔物が女だからといって見逃すこともない」
そう諭したが、
「それがおっとこまえの考え方なんだよ!」
って反論されたし。
ワイワイ彼女たちと話し、私は試しに口説いてみた。
「……もしも貴方がたが稼ぎに困った、もしくは定職に就きたくなったら、私に連絡をくれ。あるいは、イースという町で、この紹介状を渡してくれ。『アドバイザー』という肩書きで、雇いたい。私は……私とソードは実は副業もやっていて、酒やらレストランやらも経営してるのだ。さらに、懇意にしている商人が近いうちに王都で店を持ち独占契約で売りたいとも言っている。そこら辺を手助けしてくれる人材を募集してるのだ」
とにかく! 人手が足りない。
常に人材不足なの。
この、面白いスキルをもった人材を是非とも確保したいが、本人たちは気ままな旅人を気取っているのなら誘えない。
商売に関して鼻が利くなんて、ベン君がすっごい喜ぶと思うんだけどなー。
彼女たちは私の言葉を聞いて顔を見合わせた後、丸聞こえの内緒話をし始めた。
「どう? 俺、受けたいんだけど。そろそろ定職に就きたいし」
「俺も……。だって、絶対、お得な気がするぜ? 金はわかんねーけど、暮らしは良くなる気がする」
「うん! 私のスキルもそう言ってる! 受けたらビンビンするって!」
女性がビンビンするのか。
アホ毛が逆立つ感じだろうか。
丸聞こえだったけれど、話はまとまったらしい。全員がこちらを向いた。
「「「「「おなしゃーす!!」」」」」
そして頭を下げてきた。
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