第225話 答えは返ってこないから

〈ソード〉

「人では無かったようだが、お前は知り合いだったのか?」

 インドラが淡々と聞いてきた。

「…………まーな。姿形は、俺の昔の恋人にソックリだったな。中身は違ったようだけどよ」

 インドラが黙ったのでそっちを見たら、目をパチクリさせていた。

「……おい。俺だって、恋人の一人や二人、いたって」

 いや、一人だけだけど。

 ちょっと盛った。

「うん、それはそうだろうが、お前はあまり話したがらないから。ズバンと言ってきたので驚いた」

「…………ま、あんまり面白くない思い出だからな」

「そうだな、まぁ、そうだよな。…………まぁ、うん、誰にでも過去はある」

 なんか慌てたように濁してる。

「なんだよ? 何慌ててるんだ?」

 いぶかしんで聞いたら、インドラはソワソワした後、コホンと小さく咳払いした。

「……なんでもないんだ。そうか、お前はアマト氏と違って使用済みだったのか……。……なのになんでフニャ……いや、えーと、女性を見ても、何も思わないのだ?」

 手を思いっきり握りしめてやった。

「いたいいたいいたい」

「お前のおかげで俺の情緒がぶっ飛んだよありがとうございます! で? それが何か? ……俺は確かに使用済みですけど、数々の女性からそれはもうトラブルと毒薬としびれ薬を持ち込まれましてね、おかげさまで生半可な女じゃ俺の感情を揺さぶることはなくなったんだよ!」

 そう言ったらインドラが、ものすごくかわいそうなものを見る目で俺を見たぞ?

「そうか……。…………うん、そんなことがあったならしかたがないな。機能不全か…………。待っていろ、私がもっと薬学を極めて、お前の機能不全を治してやるいたいいたいいたい」

 また手を握りしめてやった。

「やめてくれる? 俺、その手の薬もたくさん盛られてきてるから。耐性が半端ないけど、お前の作る薬だとそれを簡単に突破してきそうで嫌なんだよ」

「ふにゃんふにゃんが好きなのか……いたいいたいいたい」

 何がふにゃんなのか言ってみろって言ったら言いそうだから言わないけど、言ってみろ! このバカ!

「私はずっと未開通で行くぞ?」

「宣言しなくても、お前を開通したいって思う男はいないから安心しろ」

 ……あーあ。

 ホンット、情緒が台無し。

「……お前だって、もういない男のことで泣くだろ? 俺は泣くことはないけど、もう一度出会えたら聞いてみたいことがあったんだよ」

 俺がそう言うと、インドラがまた目をパチクリさせた。

「……気持ちは分かる。分かるが、たぶん、望んだ答えをもらえないから諦めた方がいい」

 インドラが、悟ったようなことを言い出した。

 経験値高い感じだよね。

「……それとは違うだろ。俺には望んでる答えなんて……」

「違う。質問に対しての答えが得られない、って意味だ」

 俺がインドラを見たら、インドラも見返した。

「お前が私と別れようとしたとき、お前は本当の理由を言わないつもりだったろう? あんな、理由になっていない理由を言って、けむに巻くつもりだっただろう? それと同じだ。答えは返ってこない。別世界だけじゃなく、母親にも父親にも答えを返してもらったことがない。私はそれに慣れていたから、問いたださなかった。知ろうとすることが無駄なんだ。だから、諦めた方がいい」

 同情するような顔で、俺を見ている。

 だから、抱きしめた。

「俺は……お前に、答えを返しただろ?」

「だから今も一緒にいる。別れた連中は、答えを返さない。もう一度会っても、また別れるし、答えは返ってこない」

「わかった」

 ――そうだな。

 俺は答えを返して、だからインドラと一緒にいるんだ。

 他の連中は、答えを返さない。

 だから一緒にいない。


 ――何か、理由があったのかもしれない。

 理由はなかったのかもしれない。

 だけどもう、一緒にいない。そのこと自体が理由なんだ。

 ――なら、もう聞くことは何もない。


          *


 ソードに聞いた話と私が知ってるモンスターと照らし合わせて、擬態霊だと決定した。

 水辺に現れ、獲物の好奇心を誘う姿に擬態し、湖に引き込むアンデッドだ。

「うーむ、心の奥底の欲求を照らしそれに擬態するとはなかなかに高度な技を持つ魔物だったな。言葉が交わせるなら是非とも会話したかった」

 とつぶやいたらソードが私を見た。

「……お前なら、別世界の男とやらに変化したのか? なら、俺も見てみたかったな」

 って言われたけど。

 私は首を振った。

「それはないな。私に昔の男……というか、別世界の男などに未練があるワケないだろうが。今の私の男だったわけでもないんだぞ? お前と別れていたらもしかしたらお前に化けた可能性はかすかにあるが、今私がその魔物に出くわしても、その魔物の姿のままだろう」

 ソードの目が細くなった。

「…………ちょっと待てよ。昔の男はどーでもいい、今のお前とは違うってんなら、そうなんだろうなって納得する。でもよ、俺と別れてても、かすかにしか可能性はないのかよ?」

「今の私は過去は振り返らない性質だ。別れた男たちに未練を残すことはない。女にももちろんない。だから、母親とか言っている死んだ女にも、父親じゃないと交尾したくせに抜かした男にも、綺麗さっぱり未練はないのだ!」

 言い切ったら、ソードが渋々うなずいた。

「…………つまり、あの時俺と別れてたら、お前の父親と同じくくりになったのかよ、俺は」

「当たり前だろう? お前が事情を話さなければ、私を想ってだなんてわかるわけないだろうが」

 言い切ったら、ガックリされた後、抱きつかれた。

「俺は、お前を想って、考えてやったんだぞ?」

「だから、今も一緒にいる」

「うん、そうだよな。だから、ちゃんと言うから、なんかあっても、俺とお前の父親と同じくくりにしないでね?」

 って言われた。

 別に私に嫌われようと痛くもかゆくもないだろうが、とは思ったがうなずいた。

 そもそもが、恋人や夫婦じゃあるまいし、別れる別れないとか使わない方がいいと思うけど。

 まぁいいや。

 機能不全の男だもんね、私が襲われる心配も無し! 永遠に下向きならずっと一緒にいれるね、ふにゃんふにゃんじゃ入れようもないし、ウププ。

 ……って考えをすぐ読まれてアイアンクローされた。

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