第212話 〈閑話〉スカーレットと自慢の魔導具たち 一
ショートガーデ公爵が最新のゴーレムを手に入れた話は、バケーションが終わるまでにあっという間に広まった。
何しろ、どこに行くにもその馬車の荷台部分のみで動くゴーレムに乗車する。
奇妙な二輪のゴーレムなど、公爵夫人が自ら乗り回しているという噂まで広まっていた。
――新学期が始まり、馬車が行き交う中、ソレは現れた。
未知のゴーレム。
美しく
ガタガタと揺れる馬車と並んで走るそのゴーレムは、ほとんど揺れていない。
その後を追うように、二輪のゴーレムとその横に浮遊した荷台が走る。
二輪のゴーレムには防具を装備した女性が乗り、浮遊した荷台には、弓を装備した護衛が鋭く辺りを見回していた。
学園の停車場にゴーレムは止まると、御者が降り、ドアを開ける。
ステップが自動的に出てきて、そこから優雅にスカーレットが降りてきた。
「……あぁ、もう、ずっとシャノンに泊まっていたい……。快適すぎ……」
憂い顔で呟く。
「お気持ちはわかりますが、旦那様も奥様もシャノンはお気に入りですから、お嬢様が独占されると差し支えます」
メイドのアンの言葉にスカーレットがむくれた。
「そもそも、私がインドラ様に頼んで作っていただいたものなのに! ひどいわ!」
そうは言っても、公爵が自慢しすぎて『ショートガーデ公爵家の顔』となっているゴーレムだ。
個人所有は諦めざるを得なかった。
「またね、シャノン」
スカーレットが声をかけると、
「帰るときに迎えに来るね! スカーレット!」
と、言葉を発し、周りがどよめいた。
シャノンもしゃべる。
インドラがある程度自己判断出来るようにAIを組み込んだのだ。
話し掛ければ会話が出来て、操作のサポートを行う。
別世界で慣れていたスカーレットは「あら、音声アシスタントですのね」と特に驚かなかったが、周りからは革新的すぎて神の偉業としか思えなかった。
周りの視線を集めつつゆっくりと歩くと、驚きの余り硬直しているエリアス王子とジーニアスが立っていた。
「あら。ごきげんよう、エリアス王子、ジーニアス様」
優雅に挨拶をすると、王子が放心したようにつぶやいた。
「………………アレは、なんだ?」
挨拶無しかよ、ここから教育をしないとね、と内心で考えつつ優雅に微笑んだ。
「もしかして、我が公爵家が所有する最新ゴーレムのことかしら? 馬車の代わりに使っておりますの。護衛も最新のゴーレム……あぁ、確か『二輪駆動ゴーレム』と言っていたかしら? 名を【ブロンコ】と言いますけれど、それに乗っておりますわ」
ホホホ、と自慢げに笑う。
何しろ、作った本人以外はショートガーデ公爵家のみ!が所有しているゴーレムだ。
他の貴族は持つことは決して出来ない! だって、
揺れない、フカフカシートでお尻が痛くならない、中で寝られる、シャワーも浴びられる、のぜい沢仕様。
スカーレットとジェラルドは争うほどに運転しまくり、キャンプを楽しみ、そんな二人を怒り叱り飛ばしたエリー夫人ですら、内容を知ったら陥落して一緒に楽しむほどの逸品なのだ。
エリアス王子はスカーレットをにらんだ後、シャノンに視線を移した。
しばらくじっと見つめた後、唐突に言い出した。
「お前は私の婚約者だったよな?」
「あら、ようやくお認めになりますの?」
スカーレットはなんとなく流れを察したが、とぼけた返事をした。
エリアス王子は鼻で笑う。
「私自身は認めていない。……ローズとは別れたが、お前がお飾りの婚約者なのは今も変わらない」
スカーレットが肩をすくめた。
「どちらかというと、お飾りの王子という気がしますけれど。……
即座に反論したら、またにらまれた。
「生意気な口をたたくな! 本当にかわいげが無いな! ……だが、まあ良い。お前はそれでも私の婚約者だ。だから、アレを私に献上しろ」
言うと思ったが、まんまと言ったな、とスカーレットは口を開けて
「王も、自慢しまくっていた我が父に、シャノンを献上させようといたしましたの」
「何?」
王子は途端にピリピリしだした。
――現王はその実力を認められており、更には民にも人気がある。
王弟だったときは市井に出かけ平民と気軽に挨拶や会話を交わし、王都防衛戦では英雄と肩を並べて戦った経歴がある上、壊滅状態だった王都を復旧させ少しずつ発展させた賢王としてたたえられているのだ。
数年後に譲位されるはずのエリアス王子にはそこまでの評判がなく、現王の存続を望む声が高い。
エリアス王子を
むしろエリアス王子が即位した途端に、皆不安がるだろう。
……それらをエリアス王子は知っている。
単なる傀儡の盆暗王子であったならむしろ救われたのに、優秀であったが故に自分と現王とを比べて足りない部分が理解出来てしまい、それに嫉妬していた。
だから、自分が狙っているものを王が献上させようとしたと聞いて、怒りと嫉妬がわいた。
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