第200話 冒険者は性別を超えるんだよ

 夕食は貴族式となるのでドレスアップ。

 風呂に入れられ、あっちこっちそっちをピッカピカに磨き上げられたのち、おめかしされる。

 メイドが満足するまで飾り付けられたあと、渋々やってきたソードと待機する。

「……もう、俺、この屋敷の権利を譲るよ? お前が屋敷の主人でいいよ? だから、そっとしておいてくれない?」

 ソードが泣き言を言い出した。

「私が嫌なんだ! お前が金を払ったんだから、お前の屋敷だ! 少なくともお前から買い取らねば、私の矜持きょうじが許さない」

「銀貨一枚で売るけど?」

「だから!」

 憤ったらソードになだめられた。

「……わかった、お前にもプライドがあるだろうからな。俺が買った額で買い取ってくれよ。いや、半額でいいわ。それで共同名義にしようぜ。俺はお前に全権利を譲るから、今後一切面倒事に巻き込まないってことで手を打ってくれ」

 そう言われたので、私は唇をとがらせて渋々うなずいた。

「わかった。……でも、今回の件は、私のせいでもスカーレット嬢のせいでもないぞ? スカーレット嬢はそもそも一人で来る気だったようだし、私もそのつもりだった。お前のファンが押しかけてきたんだぞ? スカーレット嬢一人ならば、彼女が懐かしいと思うであろう料理を私が部屋で振る舞い気安く食べてもらう予定だったんだ」

 う、とソードが詰まった。


「〝うどん〟や〝ラーメン〟を、〝箸〟で食べてもらおうと思っていたんだ。そのためにサハド君に器まで焼いてもらったというのに……」

 使えなくなっちゃった。ごめんねサハド君。

「……悪かったって。でも、俺も悪いんじゃない」

「知っているし、わかっている。……まぁ、残念だがしかたがない」

 一番残念なのはスカーレット嬢だろうけどな。

 せっかくマナー抜きで、麺をすすって食べるっていうイベントを逃したようだし。

 言わないでおこうっと。


 食堂で待機していると、二人が現れた。

 私を見て同時に固まる。

「「女装してる……」」

「違うわ!」

 親子で声をそろえるな!


「いや、聞いてはいたのですが、実は男子だったと思い込んでおりまして。失礼しました」

「いや、いいんだ。冒険者は性別を超える。貴族の女性のように、いつも着飾っていないから分かられにくいんだろう」

 謝罪を受けたので手で制した。

 ――私の言葉に反応したソードの目線が、なぜか!私の胸元にいったが、

「何か?」

 と笑顔で聞いたら慌ててそらした。


「英雄【迅……」

「ソードだ! ……お久しぶりです、ショートガーデ公爵」

 ショートガーデ公爵の言葉を遮って挨拶をし、ちゃんと騎士の礼をした。

 なんだかソードも慣れてきてるな。

 そうだよね、なんだかんだでソードは適応能力が素晴らしく高いのよね。

「ソード殿! お久しぶりですな! いやぁ、屋敷を構えたと聞いて飛んできたかったのですが、妻がなかなか許してくれず……」

 奥さんが押さえてたのか。

 そして今回は押さえられなかったのか。

「……あぁ、エリーにも押さえられなかったのかよ。お前、本ッ当に変わってないな!」

 ソードが吐き捨てたぞ。

 だけど公爵は、まったく気にした風もなくニッコリ笑った。

「ソード殿への敬愛は、不滅にして不変! いや、年々歳々増すばかり!」

「うわー、本当にやめてくれる? もう百回くらい言ってるけど」

 ソードがげんなりした。

 スカーレット嬢は手で顔を覆った。

「本当に申し訳ありません……」

 相当恥ずかしいらしい。

 わかる、わかるよ!

 私も、こんな父親だったら……うん、あの男よりはマシだけど、ちょっと無理かな!

 遠くの他人として眺めてるなら面白いけど!


 大人たちが食前酒を選ぶ。

「おぉ、これがあの幻の酒か……」

 ん? ご存じ?

 って顔をして見たら、ショートガーデ公爵が胸を張ってたたいてみせた。

「私もオークションには参加しましたからな! ソード殿が造った酒とあっては、落札しないわけにはいきません! 初日以降はエリーに止められて逃してしまいましたが!」

 ――うん。そのエリーさん、今回来てくれれば良かったのにな?

 遠慮して来ないより、むしろ公爵を野放しにしてる方が良くないんじゃないかな?

 まぁ、私は面白いんだけど、ソードとスカーレット嬢の精神ダメージがすさまじいっぽいんだよねー。

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