第193話 決断の時はいまだよ

 王子は、シャドのずれたキレっぷりにぐっと詰まった。

 魂の叫びのような告白は、王子の心にも響いたようだ。

「……エリアス王子? 我が王アレクハイドは、代理の王として即位されましたが、立派に責務を果たされております。それに関しては……インドラ様、何かご不満点はございますか?」

 シャドに意見を求められたので答えておいた。

「ないな! お前が側近だという点以外はな!」

「だそうです! 側近は直ちに替えるとして、王としての不満はないそうだ! ――では、彼が王になった場合はどうなさいますか?」

「王ごと王宮を滅ぼすな」

 シャドの問いに間髪をいれず答えたら、

「……それって、私まで滅ぼされるってことじゃないですか?」

 ってスカーレット嬢から静かにツッコまれてひるんだ。

「う、うむ? ――ただし、王子がスカーレット嬢と結婚し、スカーレット嬢にキッチリ調教された場合は吝かでもない。私も同郷のスカーレット嬢とは事を構えたくないのでな。私の一番はソードで、ソードの生きづらい国になったら即座に滅ぼしソードを王に据えてやるが」

「ちょっとやめてよ。俺、王とか本気でヤだからね?」

 ソードに食い気味で、嫌そうにお断りされた。

「むぅ……ではそのときは、王は王都のダンジョンコア様に頼もう。魔王国はソレでいけてるんだしな。ということで、ソードが生きやすい国が一番だ。だが、他の連中のことも考えてやる余裕はある。うちの屋敷の連中、そしてスカーレット嬢。生きやすいように計らうくらいはする。ただ……」

 王子を見てため息をついた。

「……スカーレット嬢。私には、この甘ったれ泣き虫王子は貴女の手に余るような気がするのだが? シャドを使いに出して、貴女の父上と話をつけてこのダメ王子との婚約を破棄させてやってもいいぞ」

 私の言葉に、スカーレット嬢はほほ笑んだ。

「誰しも、一時の気の迷いはありますわ? 私は寛容です。一時プリムローズ様に血迷っても、正道に立ち戻り、国民の事を第一に考えて下さるようになると、私は信じております」

 かっこいいこと言いましたけど。

「うん、まぁ、信じるのは自由だよな。だが、決断の時は今だ。……シャド。王子に決断を。もしもプリムローズと別れる気がないなら、プリムローズと結婚したがらない別の王子を探して、その者を王位継承権第一位にしてくれ。王子は廃嫡だ」

「かしこまりました」

「シャド!? お前、たかが側近の分際で、そんな権限があると思うなよ!?」

 かしこまったシャドに、王子が怒鳴りつけた。

 私は笑顔で王子に通達する。

「いいじゃないか、別に王になれなくともプリムローズとの結婚には差し障りがないだろう? むしろ平民になった方が、マナーのなってないプリムローズとの結婚は障害が少ないぞ。――ただし、スプリンコート伯爵家の家計は火の車で、無一文の平民を迎え入れる余裕はなさそうだがな。借金だらけで、父親は持参金目当てで金持ちマドモアゼルに当たっているが、前妻を放置し彼女の持参金で散財し浮気をしまくり、挙げ句前妻を狂死させた前科のある年寄りに嫁ごうなんて奇特な女はいないだろう」


 いたらどうしようね。だとしたらその相手は相当のドMだろうな。


「さらに自分の娘にも、玉の輿目当てで金持ちの籠絡に当たらせて、当たったのがお前たちだ、王子様と腰巾着君? ……あとは、貢がせるためと補欠要員だな。命令一つで何でもする汚れ役の護衛と、予備の財布として見栄えするのを数人。ソードも、学園での融通を利かせる財布の一人だったらしいが、殺されかかったな」

 私は肩をすくめて王子を見た。

「――まぁ、そんなところだ。試しに無一文の平民になってみろよ、それでもプリムローズがついてくるか試してみろよ。今言った話が事実でなけりゃ、プリムローズはお前が平民になることを厭わないだろうよ。私の話がウソだと思うなら、やってみろ。生まれてから贅沢三昧甘やかされ放題の、躾は虐めで、自分が転んだことさえも他人のせいにするプリムローズが極貧に耐えられるか、お前が平民になってもついてくるか、その愛を試してみろよ」

 私の言葉に、王子は黙ってうつむき、震えた。


「…………王子。私はいつまでも、どこまでもついていきます」

 そう言ったのはプリムローズではなく、腰巾着君。

 うん、君はね。

 王子が廃嫡したら、君も廃嫡だろうからね?


 王子が決意したように顔を上げて、プリムローズを見た。

 プリムローズ、おびえて一歩下がる。

 この時点でマイナス十ポイント。

 王子もそう思っただろうけど、都合の悪いことは見なかったことにするスキルで華麗にスルーし、プリムローズの前に立った。


「…………ローズ。何があっても、私についてきてくれるか?」

 の問い掛けに対し、しおらしげな表情を作った我が妹。

「……エリアス様、私……。エリアス様の邪魔になってるので、涙を飲んで身を引くつもりです。平民上がりの私には、王妃の座なんて所詮分不相応なのですわ。私との甘い思い出を胸に秘め、どうぞスカーレット様とご結婚してくださいまし。ですが私のことも、ほんの少し思い出していただけたら……」

 涙を溜め、いかにも身分差で引き裂かれたような演出で、別れの口上を述べた。

 うん、さすが我が妹。

 綺麗にまとめたぞ。

 そしてソードがこめかみに青筋を立てて、剣の柄に手をかけたぞ?

 私はソードをなだめるため、正論を述べた。

「どうどう。男と女の別れ話にウソと涙はつきものだ」

「……インドラ様。ちょっとオッサン臭くありません?」

 ソードじゃなくてスカーレット嬢にツッコまれたぞ?

 聞いてたソードが柄の手を放して笑い出したし。

「やっぱそう思う? 俺だけじゃ無かったか」

 納得するな!

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