第187話 悪役令嬢だって抵抗します

「さて、と。……んー、聞き違いだったかな? 証人がいると言われた気がしたんだが? もう一度聞くぞ? 証人がいる、と言ったよな?」

 私が聞くと、腰巾着君は苦悩した顔で言った。

「……私の不手際だ。だが! プリムローズが被害に遭ってたのは事実なんだ!」

 ニッコリ笑って伝えてやった。

「あぁ、そうだろうな。私が屋敷にいたときも、プリムローズは同じような被害に遭ってたそうだよ。そして、プリムローズを溺愛しているスプリンコート伯爵いわく、その犯人は全て私だったらしいぞ。それも聞いたよな?」

「っ! …………もしも、プリムローズが本当に被害に遭ってたら、どうするんだ?」

 何を言ってるんだコイツ?

 逆に質問してやった。

「私自身が本当に被害に遭ったとき、どうしたと思う?」

「……」

 腰巾着君は、ぐっと詰まった。……なるほどな。腰巾着君は平民の生徒がどのように扱われてきたかを知っているのか。

「プリムローズが遭ったという被害は正直、私には大したことには思えない。――知っているだろう? この学園に平民が来たとき、貴族は【歓迎会】と称して裸にし、焼きごてを押して貴族の奴隷にするんだ。それを、プリムローズはやられたのか?」

 そう聞いたら顔色を変えて怒鳴ってきた。

「そんなこと、絶対にさせない!」

「うるさい。させるさせない、じゃない、やられたやつがいるがプリムローズはどうだったのか、と聞いているんだ、バカめ。言語を正しく理解しろ」

 腰巾着君は眉根を寄せた後、うつむいて答えた。

「…………されていない」

 私は肩をすくめた。

「なら、大したことないじゃないか。目くじらをたてるほどのことではない。ちなみに私は、初日に焼きごてを押されそうになったが、まったく問題視していないぞ?」

「お前はやり返しているだろうが!」

 腰巾着君に言い返されたので、私は質問してやった。

「じゃあ、やり返さなかった他の連中はどうなんだ? お前たち、何かしたのか? 今と同じように犯罪を暴いたか? ――なぁ、教えてくれよ、正義感あふれる王子とその腰巾着君たち。プリムローズよりももっとひどいことをされた連中に、お前たちはどうしたんだ? その犯罪者を暴いたのか? 私が仕返しするまで、その犯罪者たちはヘラヘラしながらのうのうと生きて同じ事を繰り返していたが、なぜなんだ?

 それよりも大したことをされていないプリムローズだけが、さも悲劇のヒロインのように扱われ、スカーレット嬢があたかも焼きごてを押し奴隷扱いしたかのような犯罪者に仕立て上げられているんだ? さぁ、正義の味方の諸君。私にわかりやすく教えてくれ」

「……」

 ジーニアスは気まずそうに黙ってうつむき、王子はフン、と忌ま忌ましそうに視線をそらした。

 私はそれを見て鼻で笑った。

「大した正義感だな。反吐が出そうだ。プリムローズはどれもこれも自分で失敗しただけだろ。でもあの子の父親は、それを全て私のせいにしてきたから、そういうふうに育てられてきたから、自分の失敗は必ず誰かが責任を取るのが必然だから、誰かに責任を問おうとしてるだけだろう」

 吐き捨ててやった。

「で? その生贄に、お前等はスカーレット嬢を選んだという話か。……ふん! ならば、その罪をスカーレット嬢ではなく私になすり付ければいいじゃないか。今まで、プリムローズが失敗したら全て私の責任になってきたんだからな!」

 私が言った途端、王子と腰巾着君が私を見て唖然とした。

「だから、これからも私がやったことにすればいいじゃあないか。わざわざスカーレット嬢を選ぶ必要などない。私はここにいるぞ? 逃げも隠れもしていない。

 ――さぁ! ニセの正義を振りかざす者ども! プリムローズのドジを私になすり付けてみろ! 正々堂々と受けて立つぞ! 全員一気にかかってこい! がっかりするほどのショボい返り討ちにしてやるぞ!」

「「お前、何を言ってるんだ!?」」

 王子と腰巾着君に、同時にツッコまれた。なんでだろう。

 私だって悪役令嬢とやらに片足を突っ込んでいるらしいし、私がなってもいいじゃんか。

 ――そうだ! 悪役令嬢とやらになって、降りかかる災難を利用し、コイツらでいろいろ遊ぼう!

 ウッヒョー! 面白くなってきたぁ!

「悪役令嬢インドラ! 推して参る!」

 宣誓したら、二人だけでなく全員にポカーンとされた。


「……インドラ様。とても楽しそうなところに水を差すのは心苦しいのですが、その前に私の反論を言わせてください。

 ――ジーニアス様。今、証言にあったその時間、貴男はわたくしと生徒会の問題について、論争……いえ、語り合っていませんでしたか?」

 スカーレット嬢が静かに口を挟んできた。

「え?」

 腰巾着君はスカーレット嬢の発言を聞き、ポカンとする。

わたくし、日記をつけてまして。いろいろ狙われていますので、こうやって陥れられないためにも、細々と時間と出来事を書き留めておくのです。公爵令嬢たる者のたしなみですわ。……その時間は、ジーニアス様、貴男がわたくしのアリバイの証人になってくださるはずですわ?」

 スカーレット嬢が、ニッコリと腰巾着君に笑いかけた。

 腰巾着君が、ハッとしたあと非常に気まずそうな顔をした。

 覚えているらしい。


 ……と、ここで鳥頭が前に進み出た。

「ジーニアス様と王子を責めないで! 二人とも、私のためにやってくれたことだもの! ディレク様も、私のためにやってくれたの! お願い、みんなを責めないで!」

 とか言い出したけど。

 なんだろその喧嘩をやめて~ヒロイン風。

 王子と腰巾着君、筋肉達磨が感謝の表情をしているが。

「つまりはだ。プリムローズ、お前が皆を唆したということか?」

 私がそう聞いたらプリムローズは固まった。

「確かに、惚れた女に頼まれたのならやりたくないこともやらざるを得ないな。つまりは、お前が皆を唆したのだな? 元王子と取り巻きの貴族共を唆し、お前がスカーレット嬢をめ、犯罪者に仕立て上げようとした。つまり、お前が犯人だ!」


 ズバーン!


 推理マンガ風に、ビシ! と決めた。

「真実は、いつも一つ!」

「元ネタわかるのでやめてください」

 スカーレット嬢にクールにツッコまれた。

 皆、展開についてこられないらしく、ほうけている。

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