第179話 プリムローズの心眼はすごかった
『私は名も無きデーモンです。スミスは、確かに魔族ですが、赤ん坊の頃、彼の育ての両親に拾われ引き取られたのです。彼は、自分と周りの子たちとの違いに悩み、苦しんでいました。両親だけが彼のより所でした。……私は、彼が子供たちに悪戯をされて、閉じ込められた洞窟に封印されていました。彼の『帰りたい』と思う心に共鳴したのです。私も帰りたい…………。物質界に呼び出され、封印されてしまった私は、精神界に帰りたかった』
ふふーん?
つまり、スミス君は魔王国に帰りたいのかな?
「共鳴してしまったため、スミスの肉体が私の依り代となってしまいました。ですが、私たちは何もしておりません。ただ『帰りたい』と願っているだけなのです」
ソードが頭をかいて「どうするよ?」って思念で訴えてきた。
「うーむ、確かに何もしてないな。まぁ、名も無きデーモン嬢、君の希望は分かった。君を帰すのは簡単だ。…………よな?」
「まぁ、デーモンなら普通に光魔術でいけるな」
ソードが請け負った。
「で、だ。スミス君、君の帰りたい場所はどこだ? 今の話から察するに、両親の元ではないだろう?」
「…………わかりません」
スミス君、ようやく言葉を発したか。
「でも、いつも、俺の居場所はここにはないって気持ちがありました。両親は俺を拾ってくれて、育ててくれて、感謝をしています。でも、俺は、両親以外から、迫害されてきて、いつも、どこかに帰りたい、って、そう思ってたんです」
涙ぐみ詰まりながら説明してくれた。
しばし思案。ピコーン! 閃いた!
「わかった、つまり、冒険者になりたいってことだな!」
「違います」
間髪をいれず否定。
むぅ……ではなんなのだ?
「私は両親にこそ迫害され諸悪の根源の屋敷を出ようとは思ったが、帰りたい場所などなかったぞ?」
「…………貴方ほど強ければ、帰らなくても居場所は作れるでしょうけど、俺は貴方ほど強くない」
「鍛え方が足りないんだろう。両親に甘やかされて、自身を鍛える努力を怠った己の怠慢が原因だな。……なるほどな、我が妹と仲良くなれるはずだったワケだ」
カイン君改めスミス君が顔を上げて私を見た。
「…………え?」
「我が妹プリムローズもな、スプリンコート伯爵の愛人だった母親から、それはもう甘やかされて育てられたのだ。我が母親の財産を使ってスプリンコート伯爵は遊び歩き、気前よく愛人に仕送りし、その財貨を使い、平民なのに市井で贅沢をして暮らしてきたのがプリムローズとその母親だ。だが、我が母親が死に、プリムローズの母も同時期くらいに死に、クズの父親は屋敷に乗り込んできた。プリムローズを連れてな。屋敷の使用人及びメイドは、プリムローズの我がままな平民娘の傍若無人っぷりにカルチャーショックを受けマナーを教えようとするが、甘やかされたバカの鳥頭には土台無理な話で、プリムローズの父親はそんな娘の暴挙を私のせいにする」
スミス君に向かって指を一本立てた。
「つまり、プリムローズから見た出来事としては、平民で躾なんか知ったことかという甘やかされっぷりで楽しく過ごしていたのに、急に貴族界にほうり込まれ父親以外の周りに冷たくされた。父親の言葉を信じて姉が諸悪の根源だと嘆き、もういない優しい母親を嘆き、自身の不遇を嘆いた。そのプリムローズからすれば、お前の身の上話はさぞかし共感して、自分もそうだった、と訴えるであろうな、と察することが出来たのだ」
うむうむ。
なかなかに、プリムローズは甘ったれたクズ男を見抜く目があるようだ。
…………待て待て。それってことは? ソード教官に目を付けた、ってことは? ソード教官もそういう部分があるのか?
ソード教官を見たら、途端にグリグリされた。
「まーたおかしなこと考えてねーか?」
ブルブル首を振った。
スミス君を見れば、ショックを受けたような顔をしている。
私はスミス君にニッコリと微笑んだ。
「産みの親でもない両親に優しく育てられて良かったな? 私は産みの母親から虐待まがいの躾をされ、父親らしき男からは『相手の男は誰だかわからないだろうから、自分が父親とは限らないぞ』と言われたぞ? まぁ別に、五歳以降は居場所がないなどとは思わず、悠々自適に過ごしていたがな。コツは、とっとと他人への期待を捨てることだ。自分が他人を思うとおりに動かしたいと思うから、いつかどこか居場所があるところに帰りたいなどという愚にもつかない妄想を抱くのだ。他人は他人で生きているのだ、そいつらはそいつらで勝手に動く、自分は自分で勝手に動け」
スミス君、ぼう然と聞いていた。
「さて、スミス君は大した努力もしてない甘ったれたボウヤで大した力はないと確信したところで、ソード、お祓いだ。任せた」
「……お前ってホンット、相手の心をバッキバキに折ってくるよな。俺、泣きそうになっちゃったよ」
なんでだよ?
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