第147話 桜舞う
スカウト完了。いやー、大漁だった!
さすがに「お前達だけで拠点に向かえ」などと誘っておいて鬼畜なことは言わない。さぁ! みんなでいざ! 拠点へ!
少年ドワーフサハド君は、道々粘土や石を集めて行きたい、とのことで、美少女エルフプラナヴァーユちゃんは、作るのが鉱物を使うのなら、やはり鉱物を集めて行きたいとのことで、山に寄り道しつつ拠点へ。
私は、プラナの作った舞い踊る紙吹雪をより芸術性を高めるべく、まず花びらの形にチョキチョキ。
「わぁ、これだけでも随分綺麗になった!」
「フフフ、まだまだぁ!」
プラナが麗しい顔を火照らせて褒めてくれたが、私の目指すのはもっと先だ!
「ちょっと、また虫作る気じゃないよね? 見慣れてないと、プラナが泣くんじゃない?」
とか失礼なことを言ったけど。
「あ、ボク、森育ちだから虫は平気。シャールもリョークもとっても可愛いと思うよ?」
という返事を聞いたソードがガックリと肩を落とした。
虫が駄目なのはソードじゃないのか?
花びらを染めていく。
そして、染め終わったら、今度は土台作り。
ここはサハド君の協力で行った。というか、ソードそっちのけで三人寄り集まってずっと作ってた。
「できたーーーー‼」
「わぁ、すごい!」
「インドラ様、すごいです! 腕利きのドワーフだって、こんなの作れません‼」
二人が褒めてくれて、ソードもやってきた。
「何が出来上がっ……。………………すげーなコレ」
ミニ盆栽みたいな、桜の木を作ったの。花びらを貼り、花も作った。
若干貼り合わせの弱い花びらや、地面も、ちゃんと土で固め、花びらを敷いた。
「さぁ、さぁさぁ! スイッチオン!」
フォン、と風が起きて、花びらが舞った。
桜の木からも、花びらが舞い飛ぶ。
————それは、私の記憶にある光景。
春、桜が咲き、春の嵐で舞い散る桜のイメージそのもの。
「お前、こんなのも作れるの……か…………」
ソードが私を見て、言葉を詰まらせた。
たぶん、私が泣いているからだろう。
——そう。この景色は、この光景は、私を感動させた。
実際の私はこの光景を見たわけではない。知識として知っているだけだ。それなのに、感動した。
この景色に巡り会えないことを残念に思い、この景色を美しいと思える自分に、感動して泣いた。
…………いつの間にか、ソードが抱きしめてくれていた。
「………………私は、アマト氏に、これを見せたい。きっと、私と同じように泣く気がする」
「そうか。……これは、お前の記憶にある光景なのか」
頷いた。
「…………石とガラスで出来た巨大な家ばかりが立ち並ぶ、木や森など滅多にない場所なのだが、それでも、この[桜]という木は特別でな、暖かい季節になってくると一斉に咲くんだ。そして、その時期に起きる特有の嵐で散っていく。それは名物で、多くの人は、毎年、その花を愛でつつ、その木の下で酒を飲んだり宴会をしたり、あるいは単に眺めるために散歩したりするのだ。
アマト氏も、奴は奴隷の如く働いていたから毎年見ているかはわからないが、働く前は記憶にあるだろう。
……春の桜、夏の花火、秋の紅葉、冬の雪。私の記憶にある国は、急激な発展を遂げ、昔の面影などないと他の国の人間から言われていたけれど、それでも美しかった」
ソードが優しく撫でてくれる。
「…………この世界にだって、どっかにあるかもしれないだろ? 一緒に観に行こう。探し回れば、あるかもしれないから、二人で探そうぜ?」
「うん。……お前にも見せたいから、探そう。それまでに、その木の下で飲むのに合う酒を造っておくから、拠点に帰って、ベン君が仕入れてきたその穀物で作ってみよう」
「ありがとよ」
そうだ。ソードにも見せたい。
そして、桜の木の下で、緋毛氈を敷いて、リョークと、降り注ぐ桜の花びらを愛でながら、ソードは酒を飲み、私はロゼのジュースでも飲もうか。
お稲荷さんと、ちらし寿司を作ろう。重箱を作ろう。
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