第115話 王城からまたお迎えが来たよ(行ってもいいよ)

 また王城から来た。

「うむ、実力行使に出るしかないな!」

 殺る気でガッツポーズしたら、ソードと王城の使いの人に止められた。

「私は、非公式の使いです」

 は?

「……お前が出てくる、ってことは、なんか内緒の話か?」

 ん? お使いの人、ソードの知り合い?

「初めまして、ソードのパートナーになられた方。私は、シャドと申します。王の側近でして、非公式の場合、私が出向いてお話をさせていただいております」

「私はインドラと申します。お初にお目にかかります」

 男子貴族式礼をしてきたので、返した。

 ら、笑われた。

「女性でおられるのに、男子貴族式礼をされるのですか?」

「ドレスを着ていないと格好が付かん。男と女と差があるのは、衣装の差だろうが。ならば、衣装に合った礼をするべきだろう」

 クスリ、と笑うお使いの人。

「左様でございますね。では、王城においでの際は是非ドレスをご着用されて、女子貴族式礼をお見せ下さいませ」

「王城を殲滅することになった際、せっかくメイド嬢たちが作ってくれたドレスを汚すのは忍びない。なのでお断りする」

 ソードが深いため息をついたので、首をかしげた。

「なんだ?」

「お前のその率直さって、スゲー尊敬する、って思ったの」

 ふーん。

 お使いの人、固まったけどすぐ笑顔を取り戻した。

 流石だね、たぶん上位貴族だ。

「そんなことにはなりませんので、どうぞご安心を」

「そんなもの、私の気分次第でどうとでもなるだろう。私が気分で殲滅したくなったら、お前がどう足掻こうとも殲滅されるのだ。安心できないのはお前だな」

 とうとうお使いの人の笑顔がこわ張った。

「……だから、俺は、再三言っただろうが! 万事こんな調子だから、王城に連れて行くのは無理だ。それこそ激高した騎士団と戦争して、死屍累々になるぞ?」

「行っても良いぞ。押しかけられるのもいい加減迷惑だ。行って、もう二度と来てほしくないと思わせてやる。いっそ、何も思えないような身体にしてやろう」

 お使いの人、フルフルと細かく震えてるけど。

「ん? どうした? 急に寒気がしたのか?」

「お前が煽ったから、怒りのあまり、鉄面皮のコイツですら感情の制御ができなくなってるんだよ」

 そこまで言ってないけどなぁ。

「……本気で仰られてるのですか?」

 振り絞ったように聞いてきた。

「当たり前だ。それとも冗談に聞こえたか? 私はあまり冗談は言わない方なのだ。社交辞令は通用しないしな!」

「あ、だから何でも額面通りに受け止めるんだ?」

 今更ソードが気付いたらしい。

「お前も、いっちいち悪意を拾わず相手の裏の言葉や感情など読み取らず、額面通りに受け止めておけ! 言った通りの解釈でいいんだ! 裏を読み取ったところで、どうせ相手は「そんなことは一言も言ってない」と言い逃れしてくるに決まってる。ならば、面倒だからそのまま受け止めれば良い」

「今度からそうする」

 うむ!

 うなずいたところで、さらに怒りが募ったらしいお使いの人とまた相対。

「お前等が望んだのだろう? ならば、私が応えてやろう。悪いが、私は自分より上の存在を認めない性質だ。私が認めた強者はソードのみ、だが、ソードは私の味方をする。だから、お前等が私の上に立っていると思い込み何を言い何をしてこようが、私には蟻……はこの世界の蟻は巨大で脅威だったな、じゃあ、スライム! スライムくらいの脅威だ!」

 ……ん? スライムも、割と脅威かな?

 しかも、役に立つな。

 ……ま、いっか。

 ちょっと締まらなかったけど、言いたいことは伝わったらしい。

「……なるほど、聞きしに勝る傲慢さと尊大さ。これが、【迅雷白牙】のパートナーか」

「そうだ。これが俺のパートナー、そして俺たちは【オールラウンダーズ】だ。次にドラゴンと魔族が現れても、もう脅威でも何でもないな。コイツとなら瞬殺出来るよ」

 ソードが私をかばうように一歩前に立った。

「ふふふ……そうですか。確かに今は【救国の英雄】ですが、一転して【世界の悪】となり得ることもありますよ?」

 ソードが目を細めた。

 まーた、相手の悪意を汲み取ったな?

「そうだな。その通りだ」

 私がうなずくと、二人が私を見た。

 肯定されると思わなかったのか、お使いの人は、ちょっと顔を青ざめさせている。

「ソードが気分でドラゴンを撃退し、私が気分でこの世界の人間を皆殺しにしてやろうか。大言壮語を吐く、と思うなら、そう言ってみろ。お前だけ残して、お前のいた王城を滅ぼして証明してやる。で、私はお前に言うんだ「どうだ! 見たか! 大言壮語じゃなかっただろう!」とな!」

 しゃべってたら気分が良くなってきた!

「……うん、興が乗ってきたぞ! 言ってみろ! お前! さぁ言え! まぁ、言わなくてもいいか! よーし、今からちょっと行って皆殺しにしてく……ぎゃー!」

 アイアンクローだ!!

「ちょっと、お前等の組み合わせ、ダメ。劇薬、混ぜたら危険。――コイツ、拷問とか超好きなドSだから、陰険ドSのお前と組み合わせるととんでもない事態が引き起こるから。お願いだから帰ってくれない? コイツ、ホンットーにやるから」

 ぎゃーぎゃー言ってる私を青ざめて見つめてるお使いの人は、我に返ると息を吐いて、首元を緩めた。

「…………誤解を招く発言をしてしまい、申し訳ありません。もちろん、ソード様とインドラ様の言葉を夢にも大言壮語だと思ってなどおりませんので、ご容赦下さい」

 ソードがようやく手を離した。

 ヒリヒリするー。

「……そうなのか? 別に大言壮語って思ってもいいぞ? その方が面白いし」

「いいえ? まったく、毛ほども思っておりません」

「…………そうか」

 つまらないなー。

 ちょっとフラストレーション溜まってきたから、またダンジョンコア様のところに行こうかな?

 あの精神界の者と遊んでもらおうかなー。

「お前、ダンジョン潜って、あのデーモンに遊んでもらってこい。やつなら何度滅ぼされても復活するし、痛みもないだろうから構ってもらえ」

 ってソードも言ってきた。

「そうだな。あるいはダンジョンコア様にお会いして、もっと凶悪なダンジョンのフロアを一緒に作ってもいいかな。私ですらチートしないと無理そうな、すごいヤツを作ってこようかな?」

「「…………」」

 二人が黙って、怖い笑顔で私を見た。

「……なぁ、ソレ、たぶん、俺行ったら死んじゃうよね?」

「大丈夫だ! お前なら楽勝…ぎゃー!」

 またアイアンクローされた!!

「お前! いい加減買い被りやめろ! 俺は、普通の人間なの! マグマに当たっても死ぬし、猛毒の沼には片足突っ込んだだけで死ぬの! 最深部なんて、俺だけだったら入ったら死んじゃうの! ねぇ、わかってくれるかなぁ!」

「わ、わかった! お前なら死なないくらいのぎゃー!」

 圧がさらにかかる。

「だから! わかってねーだろが!」

 ソードがいつになくキレた。

 なんでぇ!?

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