第106話 ラスボスと会話しよう

 最下層へ降りる。

 ソードにも、ここではアイグラスをかけるように言った。

 超感覚のみとか、縛りで出し惜しみしてる場合じゃない。

 電磁波を駆使しても、この階の壁や床が見つからないのだ。

 いや、ないならないでいいんだけど。

 突進して激突したら嫌じゃん?

 壊れるのは相手の方だとは思うけど! 思うけど!


 下に降りる。

 結構な時間、降りた気がする。

 いざとなればシャールで休憩すればいいのだが、なんとなくエンドが見られない映像を見てる気分になってるので、最下層まで行きたい。

 帰りはシャールでゆっくり過ごそーっと。

 ダンジョンドロップで手に入れた素材で玩具を作りながら帰っても面白いだろうしー。


 って考えてながら下降してたら

「……下に何かいるな」

 って超感覚の超人が言ってきた。

 リョークは望遠で見たらしい。

「ボスみたいですー。人型ですー」

 と報告してきた。

 私も見たら…………あ、目が合った。

 笑いかけられたぞ?

 手を振ってみた。

「おい、どーした」

「笑いかけられたので、手を振ってみた。……そうだな、言い表すと、愛想を振りまいた」

「うーわ。どーでもいい報告ありがとう」

 お前が聞いてきたんだろうがぁ!


 ようやく、恐らくラスボス、のところまで到達した。

 残念、エンシェントドラゴンではなかったか。

 だが、人型だ!

 つまり、会話出来る!

「知と勇ある者たちよ、よくぞここまで到達した」

 って、先に話し掛けられた。

「こんにちは。勇はさほどでもありませんが、知は欲していますし、ある方だとも自覚しています。あなたは、いつからここにいらっしゃいますか?」

 ソードが、「また始まった」とか思念飛ばして来たけど、聞こえなーい。

「さてな。ここは時間の感覚がない場所だ。そして、私にとっても、時間とは気にするべきものではないものだ」

「では、質問を変えます。ここにいらっしゃる前はどちらにいらっしゃいましたか?」

「ここによく似た、時間のない場所だ」

 と、いうことは……。

「つまり、精神界に近い場所なのですか、ここは」

「ほう。……知ある者よ、お主はどうして其処を知っている?」

「以前に精神界から現れた方と、ほんの少しお話ししました」

「……なるほど。面白い」

「私も面白い。ここは……私は、宇宙に近いと思ったが、精神界もこんな感じなのか。時間がない世界は私には知識として蓄えられていても、理解は出来ない現象だ。過去と未来がない世界って、どのようなものなのだろう?」

「一瞬が永遠に続く世界だ。お前が来ればいい」

 無茶言うな。

「私は物質界が好きなので。一瞬が永遠でない世界だから、終わりがある世界だからこそ、そこに美しさがある。同じ暗闇でも、ブラックホールより、その存在を許すエネルギーに満ちた宇宙の方が、私は好きだ」

 化学発光魔術で、星のように光を散らせる。

 星……というか、蛍だな。

 蛍は、実際見ると結構かわいくないんだよね……。

 でも、暗闇で光る蛍は幻想的。

 アレも、一瞬の命を燃やし輝く光だと思う。


 ――化学発光の光に照らされたその人型は、随分と美しい造形をしていた。

 白磁の肌、黒絹の長い髪、紅玉の唇。

 …………とか、表現したっけ?

 ただ、人間味のない、作り物っぽい造形美だな。

 でも、自分の姿も他人の姿も関係ない精神界の者には、意味のないことなんだろう。

「……知らないということは、良いことなのか悪いことなのか。お前の造形は、美しいと表現されるものだが、精神界の者においてはどうでもいいことなんだろうな。知っていれば、そこに感情が発生する。が、知らなければそれで終わる話だな」

 そう考えたら、その者が笑った。

「貴殿の魂も美しい。精神の欲望のまま欲し貪欲に貪ろうとするその輝きは、精神界には決してないものだ」

 うーわ。ソレ、褒めてませんから!

 ってことを言われた。

「そして、私は今、精神界ではない、物質界にいることを思い知らされた。……なるほど、物質界は、それはそれで美しい。これを『幻想的』と表現するのかと、今知った」

 フワフワと舞う蛍のような化学発光を見ながら言う。

「まぁ、見た目はそうだろうがな。物質界においては、それなりに理論があって、こうなるんだぞ? 物質界は、物質におけるエネルギーが……」

「ちょーっと、話が盛り上がってるのはわかるけど、小難しい話はやめてよ。そもそも精神界の住人に、物質界の小難しい話聞かせて理論がわかると思う?」

 ソードがツッコんできた。

 ……確かに、私が精神界の小難しい話を聞いてもわからないと思う。

 それは、そこに生きてないから。

「確かに、理解しがたい。が、お前は美しい。物質界の、短い生を燃焼して燃えるそれが美しいと、お前が教え、私は理解した。……ならば、お前のその燃焼を見届けたい」

「来るぞ」

 第六感がある超人が警告してきた。

 魔素が膨らんだからかな?

 でも、殺る気を感じないんだけど。

「……最後に質問だ。私たちが来る前に、ここを訪れる者はいたのか?」

「いた。……が、このエリアに入ってすぐ死んだ。物質界の者は、この精神界に似た場所に耐えられないようだ」

 まぁ、無の部屋って予備知識ないとパニクるよね。

 ソードはすっごい落ち着いてたけど。

 私は見えてるからなぁ。


「では、いきます」

 木刀を構える。

 ソードも、最初からレーザー剣を出してきた。

 ちなみに、ソードのレーザー剣は白の柄に蛍光緑のレーザーにしてる。

 蛍光緑の色は消せるけど、見えないと怖いから。

 私のは、もちろん青緑の柄にマゼンダのレーザー!

 使いどころがないけど!

 木刀でなんとかなっちゃうんだもん!

 この敵が斬れなかったら使ってみよう、そうしよう。

 ソードと斬りかかった。

 その者は、微動だにせず、攻撃を受け、そのまま切り裂かれた。

「…………なんで、避けなかった」

 ソードがつぶやいた。

「テメェは俺たちの攻撃が見えていた。避けようと思えば避けれたはずだ。なんで避けなかった」

 その者は笑う。

「『私がここを訪れる者に負ける未来が視えていた』からだ」

 絶句。

 私とソードは顔を見合わせた。

「物質界には未来がある。精神界には未来がない。あるのは、永遠の一瞬。その、永遠の一瞬の中に、私がここを訪れる者に負ける出来事は決定されていた。――一度、精神界に戻ろう。楽しかったぞ、知と勇ある者たちよ」

「待て、私の名は、インドラだ。そして、そいつはソード。物質界において、名は重要だ。物質を物質たらしめる要素だ、覚えておけ。これは、リョークだ」

「わかった、インドラ、ソード、リョーク。…………また、会えるだろうか」

 うなずいた。

「望むなら、また来よう」

 次からは、ソードのショートカットの道具を使って、その後ぶっ飛ばしてまっすぐ走れば一日くらいで着けそうだし。

「では、またな」

 粒子となって消える。

「…………なんか、寂しそうなやつだったな」

 ボソリとソードが言った。

 まぁ、こんなところでずっと一人でいれば寂しいんじゃ…………。

「……精神界の者が『寂しい』という感情が解るかは謎だが」

 好き好んでこの状態を作ってたぽいぞ?

 でも、この蛍の飛び交うような、光景を綺麗だと言ってたから、そうでもないのかな?


「宝箱、なんだろなー?」

 ってつぶやいたら、ソードが呆れた。

「ホンット、お前って冷静だよな! 感傷に浸ることもなく、宝箱へ興味を移すとか!」

 なんだよう。

 ソードは楽しみじゃないのか?

 それに、さっきのやつは、いったん精神界に里帰りしたじゃないか。

 別に感傷に浸ることなんて何もない……

  ギィイーーーー。

 って考えてたら、音がして、先の扉が開いた。

 え。 ……やつが、ラスボスでは、ない?

 ソードと顔を見合わせ、ソードは急激に警戒した顔になり、扉へ向かった。

 その先には、人がいた。

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