第87話 ベン君と合流したよ

 ギルドマスターから接待ぽいお誘いを受けたがバッサリとソードが断り、ベン君たちと合流する場所へ向かう。

 ベン君が、街の外れに一軒家を借りてくれたそうだ。

 目的地に向かうと、ベン君が、それらしき屋敷の前に立ってた。

「あ! お待ちしておりましたー!」

 手をブンブン振られる。

「よぉ。無事だったか?」

「おかげさまで何とか、ってカンジッスねー! とにかく、襲われまくりでした! いやー、大変でしたけどでも、シャールなら問題なく撃退出来たッスよ!」

「そうか、それは楽しそうだったな」

 う、羨ましすぎ!

 私もシャールで撃退してみたい!

 って考えてたら、ベン君から白い目で見られた。

「インドラ様って天才ですけど、頭のネジ外れまくってるんスね」

 とか……。

「あ、そうそう、ブロンコの防犯機能、すごいッスねー。俺、夜中に飛び起きました」

 そう、バイクとは盗まれるもの。

 別世界の私も盗まれた。

 なので、防犯機能をつけたのだ。

 レンタル登録なしの人間が、ハンドルを触って動かそうとした場合、大爆音でアラームが鳴り、且つ、ハンドルを握った者を電気魔術でスタンさせる仕様だ。

 攻撃魔術じゃないよ? 防犯魔術だからね!

 これで盗人を何人も捕まえたそうだ。

 なぜだろう、私にはそんな楽しそうなイベントは無かったんだが……。

 まぁ、リョークが見回ってたせいもあるのだろうけど。




 中に入る前に、まず掃除。

「うわっ!」

 ベン君が驚いてるが、殺菌、洗浄、乾燥及びホコリの吐き出し、の魔術を行い、終了。

 ベン君、呆けた。

「……今の、なんだったんスか?」

「だから、インドラの潔癖性を甘く見るなって。町の宿屋に泊まるくらいなら野宿の方がマシ、って言い放つやつだからな? 今のは、インドラが宿屋の部屋や借りた家に住む際の、お決まりの掃除魔術だ。貴族もびっくりの綺麗な部屋になる」

 ソードが疲れたように言ってる。

「私は野宿でいいんだ。でも、ソードは落ち着かないらしいんだ。正直、金の無駄だと思うんだけどな……」

 私もため息。

 ベン君が私の横に立って、ソードに宣言した。

「俺も今回ばかりはインドラ様の味方ッス!」

 ソードが驚いてベン君を見る。

「正直、俺は体裁があるからホテル泊まってますけどね? アイツらって、今、宿代浮かすとか尤もらしいこと言って、シャールで寝泊まりしてるんスよ? そのために、魔石買い漁ったり魔石取りに魔物狩りに行ってるんスよ? それなら宿屋に泊まった方が安上がり、ってなモンなんスけど、シャールの快適さを覚えちゃったら、下手な宿屋に泊まれないッスよ」

 だそうだ。

 まーね、車じゃないので車中泊しようがバッテリーが上がる心配は無いし、中のソファは背もたれが倒せて寝れる仕様になっている。

 魔物の素材でウレタンぽいのがあり、それを使ってるので、低反発素材だから寝心地もいいはず。

 頑張れば四人なら寝れるだろう。

「まぁ、そうなんだけどな……。でも、俺も体裁がなぁ。Sランク冒険者が野宿するって、宿代ケチってるみたいだろ?」

 そういう理由なんだ。

 だからやたらお高めのところを狙うのか。


 中に入り、ベン君からオークションの報告を受ける。

「いやぁ、もう、聞いてびっくり! つーか、俺もびっくりしたッス!」

 まず、出品物は鑑定される。

 あの、ファンタジー定番の〝鑑定魔術〟があるらしいのだ。

 何ソレファンタジー!

 私も覚えたい!

 ……の、鑑定魔術で、商品にうそ偽りがないことがわかったら、紹介文を作ってもらう。

 ベン君が用意したウリと押しとキーワードで、絢爛な紹介文が作成された。

 そのとき、私の名前〝インドラ〟〝元貴族〟で、スプリンコート伯爵の娘だった、のが調べ上げられたらしい。

 むかーし昔に私が吹聴した噂話(事実だけど)も調べ上げられて『悲劇の天才伯爵令嬢』として紹介され、それだけでも食いつかれたのに、現在Sランク冒険者【迅雷白牙】のパートナーとなり成功を収めている、と紹介されてますます白熱。

 葡萄酒一本金貨六十枚、ウイスキー一本金貨八十枚、ブランデー一本金貨九十枚、最終日に売り出したシードル、エールも加えた五種セットは一セット金貨三百二十枚いったそうだ。

 私が手製で作った『リョーク君の、おいしい飲み方!』という紙を添えて、保冷箱に入れて受け渡し。

 そして、買った人たちの誰かが試飲会(金を取ったらしいぞ?)を開催し、評判がうなぎ上りになったそうで。

 ベン君、一躍商人のスターになり、あらゆる人から引っ張りだこ、取引の要望が殺到しているそうだ。

 ……の、割に、ノコノコこの家の前で立ってたけどな?


「麦蜜はすぐ完売だったッス。酒の問い合わせは凄くて、でも、この味にするのにすっげー高等魔術と時間と繊細な保管方法が必要だって説明して、諦めてもらえたッス」

 聞きつけた貴族が自分の持ってるワイナリーや酒蔵で試そうと、ベン君にあの手この手で聞き出そうとしたけれど、ベン君が知ってるわけもなく、

「保管が超大変で、輸送した方が手っ取り早い、としか聞いてない……あ! インドラ様、すっげー大魔術師で、大魔導師なんスよ! 自分じゃなけりゃ作れない、って豪語してたッス!」

 とか、答えになってるようでなってないことを言ってはぐらかしたそうだ。

「そうか、それは大変だったな。疲れただろう、今日はここで慰労会でもしようか」

「やったーーー!」

 断らないベン君。

 通常運転だね、君はある意味好青年だよ。

「アイツらにも声かけていいッスか?」

「もちろん。ちょっと、試したい料理もあるので、感想を聞かせてくれ」

 ソードは苦笑してるけど何も言わない。

 うん、人体実験の被検体は必要だって、ソードもわかってくれたんだね。

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