第49話 え、男子ってエロトーク好きじゃないの?

 で、寝室も一緒と相成った。

 ベッドに腰掛けて語られる。

 ……ここでも酒飲んでるし。

 寝酒ってヤツ?

「俺はね、割と名が売れてて、しかもお金持ってるの。自慢でも自称でもないからね? Sランクってのはそれだけのことをしたって証しなの。さらに、お弟子さんとかも取ってないし、拠点も今までなくて、独りモンで流浪の旅してたから、他のSランク冒険者より金持ってるの。でね、金があって名が売れてる身軽な独身男って、お金がほしい独身女性にとってはターゲットなの、獲物なの。わかる?」

「わかる」

 うなずいた。

 別世界でもそれは常識。

「それはもー、はめられそうで大変なのよ。裏に後ろ暗い商売やってる男とかいる女とかにも目を付けられて、うっかり油断すると変な薬飲まされたり魔術使われたりするのよ。もう、数え切れないほど。ここでも、血みどろ魔女を筆頭に、どうにか俺と既成事実を作って、あるいはでっち上げて、ここに閉じ込めて金を搾り取る、って考えてるのよ。連中、魔術バカだから、お高い古書とかガンガン買ってるから、お金ないの。俺、格好の餌食なの。わかる?」

「まぁ、それも理由の一つだろうが……」

 チラッと上目遣いで見てやった。

 ソード、怯む。

「な、なんだよ?」

「気付いているんだろう?」

「…………」

 ソード、目をそらす。

 ……やっぱりな、鈍感なフリをしてるだけか。

「血みどろさん、お前が好きだぞ?」

「…………言うな」

「お前だって、好みのタイプだろう?」

「は? それは違うって」

「だって、あんな大きいおっぱい見たことないぞ? 前世の私よりずっとデカかった! あのおっぱいで挟んでしゴハッ‼」

 顔面掌底打ちされたぞ!

 しかも本気打ちだぞ!

 苦悶した。

「おい? オッサン? 俺はエロトーク好きじゃないんだ。控えてくれるか?」

「……なんで男なのにエロトーク好きじゃないんだよ……」

 ソードっておかしいぞ?

 私の別世界で知ってる男は大抵好きだったぞ?

 少なくとも張り手されるほど嫌いなやつはいなかったぞ?

 ソードが頭をかいた。

「あー、だから俺ってボッチだったから。男同士のネタとかって疎いんだよ。商売女の相手もしたことねーし、お前の恐ろしいまでの技巧の知識なんてついてけねーんだよ」

 ふーん。

 確かに、ネットもない情報が口コミみたいな世界で、技を知るとしたら専門業者からしかないのか。

「わかった、控える」

 嫌いな男もいる。理解した。

 私、学習する女。

「で、血みどろ魔女が俺の好みのタイプって言うのはやめてくれ。向こうが本気にしたらどうすんだ」

 真剣に言われた。

 え。そこまでダメなの?

「わかった……そうか、ダメなのか」

「お前にも言っただろ、俺は……誰かと結婚する気なんてない。本気になられても、気持ちに応えられない。ハッキリ言われたら伝えられるが、アイツ、俺をさらって既成事実作ってどうにかしようとするからやっかいなんだよ……」

 あ、これはホントに受け入れられないっぽい。

「そうか。……まぁ、お前の気持ちだ、アレコレ言わん」

「お前だってわかるだろ? お前も誰とも結婚しないっつってただろうが」

 言ったけどさ。

「それとは違うぞ? 私は、この世界が嫌いなんだ。だから、この世界の人間も嫌いなんだ」

 ソードの顔がこわ張った。

「ついでに言うなら今の〝私〟も嫌いだ。産んだ女とあの男が嫌いで、その血脈を持つこの肉体が嫌いなんだ。誰かと結婚なんて冗談じゃない、この身体もこの星も残らず消し去りたいくらいなのに」

 急にソードが抱きしめた。

「…………わかったよ。そこまでは思ってないけど、たぶん、俺も俺が嫌いなんだよ」

 え。

 うそ。

「ついでに、他人も嫌いかもな。気楽に女と付き合うのなんて絶対無理だし、はめられるかと思うと近寄ってももらいたくないし。……お前って、ちょっと俺に似てる。そう思うから、一緒に行こうって誘ったんだし、だけど俺みたいになってほしくなくて突き放してみたりもした。でも、やっぱ手放せなくて、お前が俺をもう何とも思ってないって、俺を殺そうとしたとき感じて、悲しくなりすぎて、すがって謝った。お前が怒ってるってわかって、何も感じてなかったわけじゃないってわかって、うれしかった。…………仲間が、ほしかったんだ。旅をしてたのはそのせいだ。だから、お前って仲間が出来て、うれしい」

 …………酔ってるんじゃ無かろうか。

 そういえば、最初に造った酒は良質ではないから悪酔いするかもしれなかった。

 ポンポンと背中をたたいて慰めてやった。

「……しょうがないやつだな、結婚はしないが、一緒に冒険しよう。お前はどうも私を女だと思ってないかもしれないが、私もお前を異性だと意識できん。いつか私が艶めかしい美女に成長してもお前の理性が保たれるなら、一緒に冒険してやろう」

 ブハッと笑われた。

 ブハッて‼

「……無理だろ。小僧のままだろ。お前、微乳とか言い張ってるけど無乳じゃんかよ。身体が【直線】を描く完全無欠の小僧体形じゃねーか! しかも、中身がエロオヤジ! 別に男だって思ってるワケじゃねーけど、コッチだって異性の意識が出来ねーわ。つか、誰しもが無理だろ、お前、女だって名乗っても男だと頑なに思われてるだろうが。素っ裸で横に並んで身体洗っても、お前を女だって認識出来ねーくらいに無理だわ」

 って!

 慰めて励ましたのに、ヒドイ!


          *


 …………いつの間にか眠ってしまった。

 気付いたら、掛け布団をめくった血みどろさんが覗き込んで固まっていた。

「…………コレ、どーーゆーー、コト?」

 どーーゆーーコトってどういうコト?

 私とソードがコトに及んだというコトなのか?

 確かに一緒に寝ていたが。

 いやしかし、服を着ているのですが。

 着衣プレイにしたって、乱れすらないだろうに。

「つまり、そーーゆーー、コト。悪いな、俺はコイツで手一杯だ」

 あ、尻馬に乗ってソードがさりげなくお断りしてる。

「ソードは無乳派に転向したそうだ。てっきり巨乳派だと勘違いしてつまらないことを言ってしまったな、すまん」

 血みどろさんはタイプじゃないそうなのでお断りを私も入れた。

 血みどろさん、ぶるぶる震えて、

「……浮気者ぉ~~!」

 って殴りかかってきた。

 二人で飛び退く。

「さて、どちらに向かって発せられた言葉だろうか?」

「たぶんお前、きっとお前、絶対お前」

 ソードが必死に押しつけてくる。

「いや、冗談で言ったんだぞ?」

 私のワケがなかろうが。

 血みどろさん、結構な怪力で、殴りかかったベッドが破壊された。

「やはり、この世界だと私は『普通に強い』くらいなのかな」

「おい、血みどろ魔女だってSランク冒険者だぞ。あとな、なんで〝血みどろ〟なんて物騒な二つ名付いてるかつーと、コイツは数々のフッた男を拳で血みどろにしてきたって逸話から来てるんだ」

 ソードが冷静にツッコんだ。

 そして解説ありがとう。

「じゃあ、今度はソードが血みどろになる番か!」

 朗らかに言ったら、

「フラれたことにするなぁ~~~!」

 って切り返された。


 血みどろさん、残念ながら剛力だけど体力がないらしい。

 すぐにへばってしまった。

「体力作りをした方がいいぞ? 魔術師だからといって、仮にも冒険者でもあるなら冒険できるだけの体力が無いと困るだろう」

「いや、下手に体力つけられて追いかけられたら困るから」

 ソードがビシ! とツッコんだ。

「それはそれで私は面白いからいいな。貞操だけは守ってやるから安心しろ。でもワクワク感はほしい」

 血みどろさん、ワンワン泣き出した。

「じゃ、世話になったな。行くか」

 それなのにガン無視で爽やかに挨拶してとっととトンズラする気のソード。

「最後はちょっとだけワクワクしたけど、大したことがなかったな。まぁ、仕方ない、名残惜しいが依頼もまだ片付けてないのでこれでお暇させていただく。では、機会があったらまた会おう」

 窓を開け、飛び降りた。

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