第46話 鈍感男子とツンデレ……ヤンデレ?女子

 ソードが消えたアレは、『ご招待』だったんだそうだ。

 知らないよそんなこと!

 そしてその【血みどろ魔女】さん、ソードの元カノとかなのかな?

 ソードは麻痺させられてたようだけど怒ってないし、さらわれたその割に気を遣ってるし。

 さらうってことは向こうはまだ未練がある、みたいな?

 ここにきて、冒険活劇から恋愛ストーリーに変わるのか⁈

 ……それに血みどろさん、見た目は確実にソードの好みだ、具体的にはおっぱいが。

 なんだろ、あんな大きなおっぱい見たことねーぞ。

 別世界の私もアレの半分……よりはもうちょいあったと思うけど、アレ、Iカップとかいってねーか?

 腕立て伏せ頑張らないと将来垂れたときとんでもないことになりそうだな。

 つーか胸が邪魔で腕立て伏せ出来ないかもしれない。


 廊下に出て階下を眺めたソードが額を手で打った。

「……殺してないって本当か?」

 廃墟みたいにしちゃったからか?

「陽動を行ってたので派手に壊したが、人には当ててないぞ? 向こうも麻痺とか睡眠とかの攻撃だったからな、私も手加減したんだ」

 女性が何人も出てきて、血みどろさんに泣きついた。

 抱き合って無事を祝うその光景はとっても百合百合しい。

 ……んん? 血みどろさん、百合属性?

 ソードの元カノで、百合属性? よくわからない。

「……ちょっと! ソード、降りてきなさいよ! この有り様どう落とし前つけてく気⁉」

 階下のエントランスから血みどろさん、青筋立てて怒鳴ってきた。

 ソードは頭をかくと、階下に降りていくのでついてった。

「むしろお前が落とし前つけられたんだぜ?」

「どういうことよ⁉」

「だからー、俺のパートナーに黙ってさらってくから、救出に来たんだって。Sランクの救出作業なら、これくらいの惨状になって当たり前だろーが。むしろ死人が出なかったって喜べよ」

 血みどろさん、ポカーンとした。

「…………パートナー? って、言った?」

「おう、俺のパートナーになった、インドラだ。今後は俺たち二人……とゴーレムでパーティを組んでこなしてく」

 血みどろさん、自失してる。

 なぜだ。

「インドラだ、よろしく頼む。今後ソードに用があるときは、一言私に言ってくれ。急に消えたから驚き慌てて救出してしまったぞ。手加減されてたからこちらも手加減したが、そうじゃなければ全員殺すところだった」

 ソードが私の肩をたたく。

「つーことだから、いきなりさらうなよ? ま、依頼こなしたらすぐこの地を去るから、じゃーな」

 促したのでそのまま歩き出すと、血みどろさん、我に返った。

「ちょ、ちょちょちょっと! パートナーって何よ⁉ パーティ組んだ⁉ Sランクトップのあなたが⁉ 釣り合うやつなんているわけないじゃない⁉」

 慌てて引き留めるように通せんぼされたし。

 ソードを見上げたら、肩をすくめた。

「釣り合う、ね。……っつーか、俺が釣り合うか?」

「そもそも釣り合いでパートナーを組むのか? 釣り合ったとしても、こないだ救出したような性格の娘と組みたくないぞ」

「俺も同感。〝仲間〟って思えるやつじゃないと無理だ」

 血みどろさん、がく然としてる。

「……だって、そんな小さい子と、組むの? アンタが?」

 確かに小さいな、見た目はな。

 中身は大人の女性だけどな。

「確かにぱっと見少年だけどな、大丈夫、中身はオッサンだ」

「オッサン言うな」

 どうして女要素が入らないのだ。

「…………Sランクが、アンタがどれだけ危険な依頼こなしてるかって、わかって連れてくワケ⁉ その子を死なせる気⁉」

 あ、そういうことか。

 人さらいするけど、よく知らない少女の心配までをするとは、優しいのですな。

「冒険に危険はつきものだ。生死の責任は自分で取る、ソードに取らせることはない」

 キッパリ言ったら血みどろさん、私を見てあんぐり口を開けた。

 ソードがおどけるように言ってきた。

「お前って、ホント男らしいよな」

「何を言ってるのかわからないぞ? むしろ女らしいと思うが? 大体この世界だって、生死の責任を他人に押しつけがちなのは男だった気がするが?」

 ソード、思い返したようだ。

「……そーかもしれねーな。じゃ、女らしいって言い直しておくよ、お嬢ちゃん」

 うなずいた。

「確かに、俺が受ける依頼は危険なのが多いけどな、コイツに限って言えば『俺を救出出来る』力量があるから俺の横に立ってるんだぜ? 経験不足は否めないし、どうも物事を軽く見てる節があるけど、そこは俺がカバーする。俺も、コイツにカバーされてる。……たとえ力量がなくとも、コイツの性格なら、俺の横に並び立つよ。だからこそ〝仲間〟なんだよ」

 私の肩に手を置く力が篭もった。

 そうね、男って、仲間とか友情とか好きだものね。

 少年マンガはソレ典型だし。

 でもね、私、女なんだけど? ソードは男女の友情アリ派なのかな? 男なのに珍しいよね。

 私を女だって失念してる、なんてことは決してないはずだぞー。

「まぁ、私は『天は人の上に人を作らず』と考えているからな。私は誰の横にも並び立つ。ソードも、万が一にも私を〝足手纏い〟などと考えることはないだろうしな。まだ死にたくはないだろう」

「大丈夫だ、思うワケねーから、禁呪の大魔術で俺を殺そうなんて思うなよ?」

 ぐりぐりと頭をなで回す。

 落ち着かせてるつもりなのか、それは。

「…………どういうつもりよ!」

 血みどろさん、なんかものすごく怒ってるぞ?

「私は拒否したくせに! なんでそんな小僧と組むのよ⁉」

 やっぱ元カノだ、決定!

 面白そうにソードを見たら、ソード、キョトンとしてた。

「は? 拒否、ってお前、引きこもりのもやしっ子魔術オタクだろうが。よっぽどの依頼がねーとここに引き籠もってんのに、なんで拒否とかって話が出てんだよ? そもそも『組もうぜ』なんて話すら出てねーだろが」

 ん?

 元カレは気付いてないぽいぞ? ここでいきなりモテ要素〝鈍感男子〟が発動するのか?

「た、確かに言ってないわよ! 思ってもいないし! だけど、誰とも組んでなかったのに、なんで急に誰かと組もうなんて思うのよ⁉」

 おおぅ、血みどろさんはツンデレだ!

 ツンデレ女子と鈍感男子って、テンプレじゃん。

 鈍感男子のソード、鈍感なだけにボーッと血みどろさんを見てる。

「…………俺が誰と組もうとお前には関係ないと思うけどよ…………。そもそも、別に誰とも組んでなかった、つーか、俺と本気でパーティ組みたいやつがいなかった、つーか」

 ……パーティ組むのに「本気」ってなんだろう?

 てか、毎度思うけど、ソードが考える冒険者ってハードモードだよね。

 ガチ戦争に駆り出される戦闘員みたいなー。

 冒険者って冒険するんだよ?

「……か、か、関係、ない、って…………」

 ツンデレ血みどろさん、口をパクパクした後急激に頭に血を上らせた。

 確かに関係ないはヒドイよね。

「ソード、元カノに『関係ない』はひどくないか?」

「は?」

「え?」

 空気が固まった。

 ……えっと?

 言ってはいけなかったかな?

「……昔、付き合ってたんだよな? 彼女はソードの好みのタイプだし、会話の端々にそんな雰囲気が感じられたんだが……」

 わかってるぞ? 的にサムズアップした途端、アイアンクローを受けた‼

「ぎゃー!」

「付き合ってたワケねーだろ! そんな雰囲気これっぽっちもねーわ! つーか、俺の好みって何⁈」

「て、照れるなよ……」

「照れてんじゃねーよ! 困ってんだよ!」

 だが、血みどろさんは照れてるぞ?

 両手で両頬を押さえてくねくねしてるぞ?

「ちょ、ちょっとそんな……。勘違い、されて、迷惑……。じゃないけど……」

 デレた!

 鈍感男子、無視してアイアンクローしたまま私を連れ出そうとする。

 が、ローブを着た女性たちがわらわらと現れて通せんぼしてきた。

「せっかくお招き致しましたので、よろしければお泊まりになってはいかがでしょう?」

「よろしくねーから帰るんだよ」

 ソード、不機嫌な顔をして唸ってる。

 え? なんで「昔付き合ってたでしょ?」くらいで怒るんだろ?

 過去に何があったの?

「まぁまぁ、せっかくここまでいらっしゃった方をそのままお返しするのは主人の流儀に反しますから」

「ざけんな、帰るっつってんだろが。無理やり押しとどめると半壊の屋敷が全壊するぜ?」

 ソードの不機嫌さと、是が非でも帰ろうとしてるのが、謎だ。

「何かあるのか?」

「あるから帰るっつってんだよ。毎度ひどい目に遭わされてんだよ!」

 そうなんだ。

「確かに、ひどい目に遭わされるのは嫌だな。

 ちなみに、どんなひどい目に遭ったんだ?」

「ハニートラップだよ‼」

「えっ」

 ハニートラップとな⁉

「とにっかく、ここにいたら、一切飲食厳禁、一睡もしないで油断せずに脱出する算段を見つけねーと、何されっかわかんねーんだ!」

 ちょっと呆れた。

 そんなに責任取りたくないの?

「そんな、生娘みたいなこと言い出して警戒してるのか? いいじゃないか、合意の上なら食い散らかし放題だぞ、相手してやれいたいいたいいたい!」

 ギューッと指が食い込むよ!

「やったら最後、それこそ責任取らされて、一生ここに閉じ込められるんだぞ?」

「何ソレコワイ。脱出しよう」

 まさしく魔女の……いや喪女の館。むしろ絡新婦の巣?

 血みどろさんはツンデレに見せかけたヤンデレさんだったとは!

「ちょ、ちょっと待ってよ! 油断させて帰るなんて卑怯よ!」

 血みどろさん、駆け寄ってきた。

「いっくら一緒にいたいからといって、閉じ込めるのは良くないぞ? お前の人生はお前のものだが、ソードの人生はソードのものだろう。お互いやりたいことが違って別の道を歩むのなら、互いを尊重して、己の道をまっすぐ進むべきだぞ? と、いうことで、帰る。私は冒険したい、依頼もまだこなしてないしな」

「俺もまだまだ冒険したりないんでね。つーか、まだ始まってなかったのに気がついた。じゃーな。ここに引き籠もって魔術の研さん頑張れよ」

 ソードが振り返りもせず手を振った。

 気を遣ってる割には邪険にしてるなぁ。

 まぁ、確かに、閉じ込められるのは嫌だな。

 今となってはリョークいるから脱出は容易だろうけど。

 …………と。

 血みどろさん、ぶるぶる震えて、見る間に涙を溜めた。

「わぁあ~ん! せっかく会えたのに~!」

 あらら、泣いちゃった。

「俺に泣き落としが効くか。第一アレも罠だ」

 ソード、言い捨ててるよ。

 ……どんだけひどい目に遭ったんだろう?

「私は割と効く方だ。かわいそうだから一泊くらいしてやろう」

 ソードが目をむいた。

「お前は帰れ。私が相手する」

 ソード、口をパクパクさせた。

「いや、だって、お前…………。何? お前、どうやって相手する気?」

「女同士でもやりようがあるが、今回はしない。それよりも、お前が脅えるほどの罠が仕掛けられてるなんてワクワクする」

 ソードが唖然とした。

 手が緩んだので、くるっと振り向き宣誓した。

「楽しみだな! ……悪いが、今回の相手は私だ! かかってこい!」

「お前が何するかが怖くて帰れないっつーの!」

 喪女たち、顔を見合わせた。

「おい、俺たちを大人しく帰した方がいいぞ? コイツは常識は無いがエロ知識はハンパなくある。お前等、嫁に行けないような身体にされるぞ!」

 失礼な!

 喪女たち、どうしようか悩んでいたが、血みどろさんは残ってほしいとすがりついてきたので、ソードが諦めた。

「お前は帰ってもいいぞ?」

 ソードがため息をついた。

「お前だけ残すなんて怖くて無理だっつーの。お前のそのワクワク感、ってある意味羨ましいぜ。でも、俺の貞操守ってね?」

「わかったわかった」

 全く、乙女男子じゃあるまいし。

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