第16話 失敗したな
わかっていた。
この世界の人間は、基本、他者に対しての配慮が全くない。
褒めてほしくて努力し言われたとおりにこなしてもほめ言葉一つ言わず、鞭を振るい、夫が帰ってこないのを子供のせいにして責め続けた母親。
妻が嫌いだからと他所に子を作り、妻が死んだらノコノコ現れ乗っ取り、先に住んでいた妻の娘に心ない言葉を浴びせ続けた父親。
腹違いの姉がいびられ何も与えられていないのを知っていながら父親からもらったプレゼントを見せびらかす妹。
景色を眺めるようにそれを無関心に見ていた使用人たち。
自分に利がなければ指一本動かさないこの世界の人間。
目の前にいた男も、屋敷近くの町にすら行ったことのない世間知らずの貴族の令嬢が、何も知らないまま遠い町に連れて来られてすぐさまほうり出され、一人でやっていくことが出来るのか? なんて、考えたこともないんだろう。
ならばあと二年屋敷にいて、まず近場の町で情報を得たり経験を積んだりと準備を整えてから出て行った方がマシだった。
……失敗したな。
舌打ちした後、営業スマイルを浮かべて受付にいた女性に声をかけた。
「綺麗なお姉さん。少し教えてほしいんだけど、いいかな?」
あどけない感じを出して、そう、プリムローズをお手本に話し掛けたら受付のお姉さんが赤くなった。
……赤くなった? なんで?
……まぁいいや。
お姉さんに、冒険者とは、から、とりあえずはどうすればいいの? ってのを聞いた。
「……つまり、私のランクはGだから、Gで受けられる依頼をまず受けるのか。買い取りはそこで、依頼の品以外でも査定して買い取ってくれる」
ふむふむ、テンプレ。
Gだと採取もしくはゴミ拾いか掃除しかない。
掃除は魔術で簡単にやれるので得意だが、現在この世界の人間に喜ばれるような仕事は絶対に嫌。クレーム言われて殺したくなっても困るし。
「採取受けます。常設だと、期間がないんですよね?」
日付が変わる前までに、だと困る。
「そうよ。でも、あんまり時間がかかっちゃうと、採取した薬草の鮮度が下がっちゃうから依頼失敗になるかもしれないわ」
「わかりました。つみたてがいいんですね!」
「えぇ!」
笑顔大サービスでお姉さんも大サービス!
「……良かったら、私の知っていて安全そうなパーティに連絡を取って、紹介しようか?」
そう言ってきたので驚いた。
なんだ? その現地ガイドの「オススメの店紹介するよ」的袖の下がチラチラ見える声がけは……。
「いえ、私、誰かと組むつもりは〝絶対〟ありません! この世界の人間は信用ならないので!」
ビシ! とお断りした。
お姉さん、鼻白む。
「え……でも……」
お姉さんがチラッと横の方を見た。
…………なるほどな。
「お姉さん、ありがとう。もういいや」
「え? ちょ、ちょっと!」
笑顔を消して冷めた声で礼を言ってその場を後にした。
つまりは、そういう紹介するグループがもう待ち受けてたということだろう。そんな怪しい勧誘は受けたくない。
ギルドを出てもと来た道を引き返し、関所に出た。
「おぉ? 坊主は……」
坊主じゃねぇ。
「坊主じゃなくて、インドラって言うんだ。……ハイコレ、冒険者カード。外に出たい。明日には帰ってくる」
役人は戸惑いながらキョトキョトしてる。
「え? 外? で、戻りは明日? って?」
「薬草をつんでくるから」
「いやあの、今日戻るんだよな? 夜は門が閉まるから、それまでに戻ってくるのは難しいだろう? 止めておいた方がいいぞ?」
「町で寝るなんてこの世界の人間に何されるか怖くて出来ないよ」
朗らかに言ったら呆気にとられた。
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