幼女旅立ち編

第15話 旅立った!その後……

「見えてきたな」

「やったー‼ 町だー‼」

 出立してから既に一ヶ月。

 野良修行みたいに山を登り下り、道なき道をかき分け、ようやく人が集い住む場所にやってきた。

 うん、なんかもうね、このまま山で暮らしていけるかも? とか思い始めちゃったよ!

 目指してるのはソコじゃない。

 異世界観光! 異世界観光したいから!

 せっかく金貨をザクザクいただいてきたのに、それこそ宝の持ち腐れじゃんかよー。

「とりあえずギルドに行って冒険者登録をしよう。先の話はそれからだ」

 私の頭をグリグリなでる。

「……? どうかしたのか?」

 ソードが急になんとも言えない顔で私を見ていた。

「いや? ……数十日ぶりの人里だってのに、小綺麗なもんだよな」

「当たり前だろ。不潔は敵だ」

 どこにいようとも必ずシャワーを浴びた。どこか住む場所が得られたら、念願の風呂に入りたい。

「お前、俺にも強制してきたよな」

「臭いオッサンは嫌われるぞ」

「…………。お前、相変わらずかわいくねぇ!」

 頭をつかまれた。アイアンクローだ!

「ぎゃー! お前こそ、レディに何てことするー!」

「どこにレディがいんだよ⁉ レディは紳士に向かって『臭いオッサン』なんざ言わねーんだよ!」


          *


 関所らしきところでソードが役人に宝石をはめ込んだピッカピカの銀色の板を見せる。

 役人が目をむき、何度もソードと板を見比べた後、敬礼した。

「コイツは連れだ。身元は保証する。ギルドで登録する予定だからよろしくな」

「は、はいぃ!」

 私はソードと役人を見比べたよ。

「私に今の常識を教えてくれ」

「大体町の入り口には犯罪者が入り込むのといざって時のために関所が設けられてる。で、検問されんだよ。どこの誰で、何しにここに来て、いついつ出立予定かってのを申告するんだ。ギルドが発行してる冒険者カードは、身元保証も兼ねてるから、見せりゃ大体通してもらえる寸法だよ」

「なるほどな」

 今のやり取りをわかりやすく語られた。

 関所を通り抜けると、そこはファンタジー世界だった。

 ――おぉ! 海外旅行で世界遺産の村に来たみたいだぞ!

 基本土壁の四角い建物だ。似たような建物ばかりなので絶対に迷う。

「ボーッとしてると迷子になるぞ」

 って頭をたたかれた。

「問題ない。冒険者ギルドに行けば落ち合える」

 答えたら、すっごい目を細めて見られた。

「お前のその子供らしさの欠片もねぇ冷静さには、ホンット頭が下がるわ」


 ギルドに行って、登録した。

 冒険者が付き添いにいるとスムーズに発行してもらえるらしい。

 何の問題もなくスムーズに……

「……? お前の持ってるカードと違う?」

「当たり前だろ。俺と登録したての冒険者と同じワケねーだろがコラ」

 周りが笑っている。

「その当たり前を知らないと、お前は知っているだろうが。当たり前って言う前にちゃんと説明しろ」

 言い返したら周りが今度は唖然とした。

 ソードが肩をすくめた。

「基本はお前が持ってるカードだよ。俺が持ってるのは特別製」

 え。

「……お前、犯罪を犯してそれで……」

「おい、非常識。そんなワケ、あるかコラ!」

「ぎゃー! 冗談に決まってるだろー!」

 またアイアンクローだ!


          ***


〈ソード〉

 ――じゃれ合いながら、深呼吸をひそかにした。

 ……これを言ったら、憤り、なじられ、恨まれるだろう。

 だが、このままではコイツのためによくない。

 変に悟りきってるし、天才を自称するだけの才能はあるが、まだ十歳の少女なのだ。大人ばかりに接していたら、年の近い友人も出来ず、ますます孤立してしまう。

 せっかくあの環境から抜け出せたのだから、若い冒険者として様々な経験を積み、信頼し合える仲間を見つけてほしい。……自分のようにはならないでほしい。

 手を離し、一歩離れ向き合って言った。

「じゃあな。これで俺とはお別れだ。俺はこう見えても偉いんでな、登録したてのお前とは天と地ほどの差があって、これ以上お前の相手はしてられない。

 お前はお前に見合った新たな仲間を探して、パーティを作り、最低でもCランクになるまで俺に顔を見せるな」

 気楽な口調に聞こえるように言ったつもりだ。

 だが……案の定、彼女の表情はこわ張り、硬直した。

 意味がわからなかったのか、しばらく俺を見つめた後、急激に目の色を強くし、前髪をかき上げて笑い出した。

 怒ってるな。

 さて、なんと怒鳴ってくるか。

 コイツが泣くとは思えないが、泣かれたらさすがに俺の決心も揺らぎそうだ。

「……なるほどな」

 出てきた最初のセリフはそれだった。

「…………やはり、この世界の人間は誰も信用ならない」

 そうつぶやくと、急激に表情を消し何も言わずに踵を返した。

 それ以上何も言わずにあっさりと去っていく。

 「なじられ恨まれる」以上の、「軽蔑される」ってのがあったか。

 振り返ることもない、まっすぐ伸びた小さな背中を見ながらそう考えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る