第21話 嘘の意味

言われた住所はアパートだった。

久子に言われた「沢村」という表札を探す。

確かにそこには「沢村」という表札があった。


ちょっと緊張してるけど、ここまで来て会わずに帰る選択肢はさすがにない。

意を決してチャイムを鳴らす。

少しして、ドア越しに『はい?』という返事が聞こえた。


「あの…久保と申しますが沢村さんのお宅で間違いないでしょうか?」

『久保?…どういった御用ですか?』

「沢村…沢村和久さんですか?」


久子の久の字は父親の和久から1文字採ったんだなぁなんて、今は気にしてる場合じゃない。


『違います』


違うの!?と正直思った。

じゃあ沢村宅に居るこの男性は誰なんだ…。


「どちらに居るかご存知ですか?」

『いいえ…今手が離せないのでそれでは』

「待ってください!ここに沢村和久さんが居るって聞いてきたんです、斉藤久子さんに」


斉藤久子の名前を出した時、ひと呼吸あってドアが開いた。


『キミは久子に会ったのか?』

「…はい、彼女にここを聞いて来ました」

『久子は元気にしてるか?』

「……えっと…」

『失礼、私が和久です』


どうして嘘をついたのかは後で聞くとして、

まずは質問に答えようと思った。


「…元気と言うのが正しいのかはわかりません」

『髪はどんなだろうか?』

「…完全に銀髪です。本人は余命ゼロだって言ってました」

『……そうか』


僕は久子のお願いであるを聞いた。彼女のために。


『久保君、娘を…久子を頼む』

「…はい、出来る限り」


別れた後の帰りの電車で、久子にメールをした。

ちゃんと父親に会えたこと、離婚した理由も聞けたこと、今度会って伝えると。


返事が割とすぐに来た。

『ありがとう』と『ごめんね』だった。



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