(9)王国側の決着
リンドワーグ王国において『王国の友』と呼ばれる存在は複数いるが、その中で魔法に長けている者は一人しかいない。
それは、初代国王が良き友として建国する際に大いに助けになったとされている初代『王国の友』だ。
王国の歴史において複数存在するので初代が付いているのだが、実は初代の情報(人となり)についてはほとんど現代まで伝わっていることがない。
現在まで伝わっているのは、歴史上でも最高の魔法使いとされている初代国王がもっとも頼りにしていた魔法使いであるということくらいでしかない。
それでも歴代のリンドワーグ国王たちが、その初代『王国の友』を初代国王と共に敬愛の念を抱いてきたことから、リンドワーグ国内では広く知られた存在となっている。
その事実からリンドワーグ王国において『王国の友』という称号を与えられてきた者は、名誉称号とはいえ国内において国王に次いで地位が高いとされてきた。
ただ、代々の王がむやみやたらに『王国の友』の称号を与えてこなかったということもあり、リンドワーグ王国の歴史においてその称号を得た者は両手で数えるほどしかいない。
そんな『王国の友』の称号ができるきっかけとなった初代『王国の友』が目の前にいるのだから、王国側の人間が驚くのは無理もないことなのである。
「――特に王家は、初代に対して感謝するように刷り込まれているといってもいい状態なのよ」
「それは、|あいつ≪初代≫がそうするように仕向けたってこと?」
「さすがにそれはないわよ。どちらかといえば、初代と二代目で三代目を『教育』した結果、そこから自然とそうなっていった感じね」
アリシアの説明を聞いた伸広は、父親と祖父の連係プレーのお陰かと内心で肩を落としていた。
伸広としては、そんな目立ち方をしたくなくというのが本音だったりする。
……するのだが、こうなることを予想して初代に釘を刺したりしなかったのは詰めが甘かったとも言える。
そんなことを考えつつ伸広が心の中で反省していると、カルロスが大きく頷いていた。
「そうですな。もっと言えば、代々の王には初代から今までの王たちが書いてきた日記やら手記のようなものが伝わっておりましてな。その中にある初代に日記には、あなたのことがよく触れられていますよ」
「お、王……! そのことは……!?」
「何だ、宰相。今言ったことは、別に隠すようなことではあるまい。そもそも、そなたたちが普通に知っている時点で隠す意味もあるまい」
リンドワーグ王国の王が先代から引き継いでいる物があるということは、国内の貴族に広く知られている。
さらに言えば、その一部が先ほどカルロスが言ったような日記や手記の類であることもだ。
それらのものは、王になる者以外にはほとんど役に立たないとされていて、だからこそ広く知られていても変な輩に狙われることもなくこれまで無事に引き継がれてきたのである。
カルロスに諫められて少しだけ力の入っていた宰相が力を抜くと、今度はフールが興味を示したような表情になって伸広を見た。
「私としては、今の現象がとても気になるのですが……?」
あからさまに説明をしてもらってもいいかと続けそうな言い方に、伸広は困ったような表情になった。
「……私がそれをここで口にしていいかは、判断ができませんよ」
伸広がそう答えながらちらりとアリシアへと向け、アリシアはそのままその視線を|父王≪カルロス≫へ投げた。
「フール」
アリシアからの視線を受けたカルロスはそれだけをフールに言い、言われた当人は「そうですか」とだけ答える。
先ほどの魔法は城の防衛に関わるものである事だけは知っていただけに、フールとしても王からダメと言われれば無理は押し通せないと判断したのだ。
もっとも、王族だけではなく国そのものの防衛を担っている元帥や宰相は、それでも何かを言いたげな雰囲気になっていた。
「――さて、|あなた≪伸広≫が初代であったことは予想外でしたが、王家としてはこれ以上ないほどのお相手ともいえる。そなたたちに反論は?」
カルロスがそう言いながら元帥と宰相に視線を向けると、両者はすぐに首を左右に振った。
リンドワーグ王国の歴史の中でも五本の指の中に数えられるような英雄の一人に対して、文句など出るはずがない。
ちなみに、元帥と宰相はもともとアリシアが自分で選んだどこの生まれかもわからないような男と一緒になることに反対していた者たちだった。
それは彼らの立場を考えれば当然のことであって、カルロスもにこやかな笑顔(外向けの笑顔ともいう)を二人に向けているアリシアもそのこと自体に疑いを持っていたわけではない。
むしろ彼らがそう考えるとわかっていたからこそアリシアは、最初に神域に逃げ込むという選択肢を選んだのだ。
元帥と宰相の反応を見たカルロスは、続いてその視線をアリシアへと向ける。
「初代の存在を公にするかはともかくとして、そもそもどこまで進んでいるのだ?」
「父上。私が伸広と一緒に過ごしてきた時間などひと月もないことなどよくご存じでしょう?」
「む。それは確かにそうだが……」
「ですので、今のところは暖かく見守っていてくださいとしか言いようがありません」
「……なるほど。そう来るか」
カルロスは、アリシアの言葉にそう答えつつ何かを考えるような表情になった。
それは別に「恋愛をしたい」というアリシアの言葉を反故にするためのものではなく、むしろ逆にどうやって周り(主に貴族)の意見を抑えるかということを考えるためのものだった。
カルロスの中では既に、アリシアに頑張って伸広を捕まえていてほしいという考えにシフトしている。
ここで口にすることはしないが、伸広の存在を公にしなかったとしても変わらない。
それほどまでに、リンドワーグ王国の王族(特に王)にとって初代『王国の友』という存在は重いのだ。
「――ふむ。となると、アリシア。今一度確認するが、神殿は問題ないのだな?」
「そうですね。そろそろ中央からこちらにも連絡が届いている頃かと。それでも止まらないようであれば、正式に抗議すればいいでしょう。今の中央は神からの直接の神託を無視するほどさほど腐ってはおりませんから」
この場合の中央というのは、神殿の総本山のことを指している。
「なるほど。では、こちらができる提案としては、アリシアが住むための離宮を用意するといったところか」
「よろしいのでしょうか?」
考えていた中では一番いい回答を得たアリシアは、念を押すようにそう確認をした。
「構わない。ただ、一つだけ注文を付けるとすれば、できればアリシアがどこにいても連絡を付けられる手段はほしいな。いちいち神域にまで使者を出向かせるのは骨だからな」
「あら。私が神域に出入りする前提なのですね」
「それはそうだ。転移で簡単に神域を出入りできるノブヒロ殿がいらっしゃるのだぞ」
「まあ、それは確かにそうですね。ですが、連絡を取る手段ですか……。――もう一度甘えてもいいかしら?」
そう言いながら確認するような視線を向けてきたアリシアに、伸広は少し考えるような顔になってから頷いた。
「それはいいけれど、どの程度のものを用意すればいいのかな?」
「細かい仕様は後で話し合いましょう。今は、連絡手段を用意してもらえると約束してもらえればいいわ」
アリシアの答えを聞いた伸広は「わかった」とだけ短く答える。
「――というわけです、お父様。私としては、あとは外野の声を止めてもらえれば、普段は離宮に住むくらいは問題ありません」
「よろしい。では、大筋はその方向で話を進めよう。離宮は――これから見繕うとして、多少時間はかかるが?」
「大丈夫ですよ。それくらいの期間は今までの部屋で構わないでしょう?」
「それもそうだな。では、そうするとしようか」
カルロスが宣言するようにそう言うと、王国側の四人は納得した表情で頷いた。
この決定で、一国の王女が謎の魔法使いに連れ去られるという事件(?)は、一応の決着を迎えるのであった。
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