第2話 昼間の三日月 湾岸の夢

 昼間に三日月が、真っ青な空のなかに見える。

 半分が消えてなくなっている。誰にも見られないように、薄い白色である。

  美宇みうはソファーに赤ん坊を寝かしつけて、広いリビングの片隅に置かれたベットのある方に向かった。

 男はいないが、白いタオル地のバスローブが2着置かれていた。シャワーの音がしたので、美宇はバスルームに向かった。

 バスルームの手前の洗面所 兼 脱衣所?で、美宇は全てを脱いだ。そして、ちゃんと用意されていたタオルを、髪の毛を包むようにターバンの要領で頭に巻き、バスタオルを身体に巻いて、身体を隠した。そして、バスルームの扉をノックをする。男は、

 もうすぐ上がります。そこに、タオルと、バスタオルを出しておきましたので、使ってください。

と、扉を少し開けて、毛深く筋肉質な腕を出して、あらかじめ用意してあったもう一つのブルーのバスタオルを握り、バスルームで身体を拭き始めた。そして、バスタオルを腰に巻きバスルームから出てきた。

胸板は厚く、筋肉が少しついた身体、細マッチョとでも言える身体つきである。肌色は全体的に浅黒い。女性に必死にアピールしたい叔父さんたちの、ゴルフ焼け、海リゾート焼け、南国焼けではない。普通の女であれば、ぞくぞく、むらむらしてくる身体つきである。しかし、不思議に、この中年といえる男の部屋には女っけがないのだ。もしかして、オッサンラブ系?

美宇はこれから自分は何をされるのか?身震いがしてきた。

 自分は、女としての魅力はあるほうであると思っている。叔父さんなど、自分の女の魅力とテクニックで手玉に取ってやろうと思っていた。

 美宇は、簡単に身体を洗い、手短にシャワーを済ませ、頭にタオルを巻いたままそして裸のままバスローブをひっかけ男の待つベットに向かう。

待っているはずであった。いない?

男はベットにはいない。?美宇は、少し不思議な気がして、東京湾岸を見渡せる部屋を見回した。そして、再び身震いがした。男はソファーに寝かしつけた赤ん坊を、微笑みながら眺めているのだ。バスルームを出たままの美宇は、男に声をかけようとしたが、なんて声をかければよいのか、少しの間、迷った。

 あの・・・ から声が続かなかったのであるが、男は気が付いた。

男は、少し微笑んだと思う。じゃ・・・とかいったとも取れた。

 兎に角、男はバスローブ姿で、ベットに向かった。美宇は、少女や小娘ではない。やることは分かっている。美宇はそれに従った。

 あとは、ベットに寝転がって、相手が何をするのか勝手にさせておき、時間が過ぎるのを待つのみ。

 男は美宇に重なり美宇のバスローブの前を開け、そして覆い被おおいかぶさった。

ペッティングは、美宇の好ましい物である。しつこく、あちこちを、もみほぐし、なめ回らない。こちらのどこが、性感帯かを執拗に探ろうとはしない。こちらが感じるのをみて征服欲と、性欲を満たそうとはしない。

 ことは、思ったよりもアッサリと終わった。男は、タバコをふかすこともなかった。ことを終えて、征服感を満喫する男のそれはなかった。

ただ、じゃ、と言って一緒にバスルームにつれていかれ、シャワーを浴びながら後ろから攻められたのである。良くあることとは言えなくはないのであるが、このシチュエーションでは想像していなかったので、燃えてしまった。男は体を拭き、また先ほどのバスローブ姿でキッチンに向かった。

 美宇も同じように部屋に戻った時には、なんとも甘いずっぱく、苦みのある珈琲の香りが漂ってきた。男は、二つのカップのコーヒーのひとつを美宇に差し出したのである。そして、キッチンのイスに腰かけ、美宇にも勧めた。二人は、キッチンのテーブルでほてった、満足し疲れ切った顔をしてコーヒーをすする。

男が先に口を開いた。

私も独り身なので、時々利用します。仕事として、ソープとか、ファッションヘルスとか、キャバクラとか、デリヘルとか、あっという間にお金など稼げるでしょうに・・・と美宇に質問するでも教授するでもなくつぶやいた。

美宇は、即答する。

あ・・・私、子供いるし、キャバクラとかクラブは、知った人間がたくさん来るんですよね・・・その度に店の奥に逃げていると、直ぐに首にされて、それと、デリヘルは、部屋に入ったら、男が次から次に出てきて回された感じで、それを店の人に言うとすぐに乗り込んで、乱闘の末、4~5人分の料金を取りつけてくれましたけれど、どうにも屈辱的くつじょくてきで、なんとも・・・

男は、すこし間を置き

それで、いきなり男に身を売ろうとしたんですか?

と不思議そうに聞いてきた。

いや、身を売ろうとしたんじゃなくて、お金がないのを、どうしたらよいのか考えていたら、すみません、目の前に裕福そうなあなたがいて、何にも考えずに声かけてしまって・・・

美宇は消え入るように答えた。男は、

ま、これ、と銀行名の印刷された封筒を渡してきた。

やはり部屋には10万しかなかったです。ちかくの、CD《キャッシュディスペンサー》で後、20万おろしますから、準備が出来次第、外に出ましょうか?

男は、素早くセーターと、綿地のチノパンに着替えた。バックスキンのジャンバーを羽織る。美宇は、バギーに載せた我が子とともに部屋を出る。

コンビニから出てきた男から、20万の入った封筒を渡された。

美宇は受け取り、俯き加減うつむきかげん

近々お返ししますので・・

携帯の番号とか・・・と、言った時、男は、美宇にさとしてくれた。

無理に早く返そうなんて思わないでくださいね、無理すると貴方、何するかわからない、危なっかしいですから。時々、お子さん連れて遊びに来てください。私、故あって独身ですが、決してBL(どうせいあい)ではないですから。子供も、家族も大好きなほうですから。時給五千円ということで、気が向けば来てください。ということで。

と、名刺を渡された。マンション入口のパスワード番号がメモってある。

昼間に三日月が、真っ青な空のなかに見える。

半分が消えてなくなっている。誰にも見られないように、薄い白色である。

 空は、雲一つない青である。月は、恥ずかしく、誰にも見られたくないように、薄くぼんやりと白を浮きだたせている。静かに静かに騒がずに。

 美宇にとって、これからが、人生で最も活躍かつやくする時がおとずれる予感がした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます