第8話:VS
「まったく、油断も隙もあらへんわ。」
「ヨギリ姐さんこそ、人の事は言えないのではないですか?」
ハルが部屋を去った後、ヨギリとサラが睨み合っている。
「華憐で純情な少女を演じてるあんたに言われたないわ。」
「だってあの方が男受けいいんですもん。」
サラの清純美少女というのは全て設定。まあ胡蝶の嬢なら誰もが知っている当然の事だ。知らないのはハルくらいだろう。というよりどの嬢も何かしらの演技はしている。男心を擽る為、使える手は何でも使う。それが胡蝶の娼婦だ。
勿論ヨギリだってそうだ。普段の口調は今のようにとある国のとある地方の方言丸出しのヨギリ。だが仕事中は廓詞を使う。優美で気高い自分を演出する為だ。まあこれはさすがにハルも知っている事だが。ただあくまでこれは彼女の演技の1つでしかない。客の前では他にも色々と猫を被っている。ハルが想像もつかないような「ヨギリ」を演じている。
「ほんまええ根性しとるな、あんた。」
「いやいや、ヨギリ姐さん程ではないですよ?」
「う、うちは別に作ったりしてへんし。」
「何言ってるんですか。ハルさんに冷たくあたってるくせに。本当は優しくしたいのに恥ずかしくて出来ないんですよね?」
くすくすと笑いながらヨギリを揶揄うサラ。
「う、うるさいわ!それ以上言ったら許さんで!」
「普段からその姐さんならもっと可愛げがあるのに。」
これ以上サラに言い返すのは不利だと思ったのか、ヨギリはそっぽを向く。
「も、もうええわ!それはそうと、どうせコハルも見てるんやろ。いつまで隠れてんねん。」
「あら、やっぱりバレてたのね。」
コハルが部屋の暗がりから姿を現す。
「当たり前やん。コハルがおらんわけない。今回はうちが担当やったから手を出さんかっただけやろ?」
「そうね、私が担当の時もヨギリも必ずいるものね。アマネもいるんでしょ?」
「当然なのじゃ。」
今度はアマネがどこからともなく姿を見せる。
実はこういったトラブルが起こった時、誰が割って入るか、アマネ達の間で取り決めがある。何故ならハルは魔法を使えないし、荒事が得意ではないからだ。だからコハル、ヨギリ、アマネの誰かがいつでも駆けつけられるようにしている。
「ハルは相変わらず気付いておらんだの。わらわ達が何かやってるとは思っているようじゃが。」
くくく、と楽しそうに笑うアマネ。
「ハルさんは魔法使えないから仕方ないでしょ?」
「そやでアマネ、ハルは普段から色々うちらの為にしてくれてんのやからあまり虐めたらあかんよ?」
「・・・ヨギリがそれ言うの?アマネ以上にハルさんで遊んでるじゃない。」
自分の事を棚にあげて何を言ってるんだと呆れ顔のコハル。
「ちゃうし!あれは・・・あれや!優しさの裏返しや!」
「自分で言ってて恥ずかしくないのそれ?」
「うっさいわ!コハルこそ人のこと言えへんやろ!」
ヨギリが必死に反論している。だが周りから見れば正直どっちもどっちだ。コハルもよくハルを揶揄ったりしているのだから。
「私からしてみれば3人とも一緒ですよ。胡蝶のトップ3が何やってるんですか。普段は男を手玉に取って遊んでるくせに。今更みなさんに乙女とか似合いませんよ。」
サラがほんとくだらないと呟く。
これは他の嬢達も思ってる事だ。アマネ達は国随一の娼婦。男の扱いなんて手慣れたもの。色んな権力者とのパイプもあるし、魔法だって超一流。そんな無敵なアマネ達なのに、何故かハルに対してだけは素直になれず、子供のような悪戯をしたりしている。呆れるのも当然だ。
「姐さん達は全娼婦の憧れなんですからもっとしっかりしてください。そんなんじゃ敬えませんよ?」
ただそう言うサラや他の嬢もハルに対しては強く出られないので、結局は同じ穴の貉なのだが。
娼婦である彼女達が働きやすいよう、いつも全力でフォローしてくれるハル。彼女達が悩んでる時は相談にも乗ってくれる。そんな彼を彼女達が嫌っているわけがない。実際、サラを含め、胡蝶の嬢達全員が、彼を家族のように慕っている。
「もうええやろ、その話は・・・堂々巡りになるだけや。なあコハル?」
「そうね、やめましょ。こんなとこハルさんに見られたら死ぬしかなくなるわ・・・って、何言わせるよの!」
コハルが頬を染めながら叫ぶ。なんだかんだでコハルもコハルだ。
「あんたが油断して勝手に自爆しただけやん・・・それよりあの貴族、どないする?」
記憶を消して帰らせるだけでいいとハルは言ったが、当然それで済むはずがない。胡蝶のルールを破った以上、それ相応の罰がある。
「え?そんなの当然覚悟してもらうわよ。」
「そんなんわかってる。誰がやるんかちゅう話や。」
何よりあの貴族は胡蝶の一員であるハルに手を出した。それをアマネ達が黙って見過ごすわけがない。
「ふむ、なら今回はわらわが動くとするのじゃ。後は任せるがよい。」
アマネが動くのは珍しい。後始末は大抵ヨギリかコハルがする事が多い。
「うちが行こうと思ったんやけど・・・まあアマネに譲るとするわ。」
「そうね、前回は私がやったし、今回は任せるとするわ。」
ヨギリやコハルに異論はない。自分達で動けないのが少々残念だが、アマネが動くのであればそれが一番。胡蝶のトップは伊達じゃない。
「じゃあ私は戻るわね。またね。」
「うちもや。ほなね。」
「はい、ヨギリ姐さん、コハル姐さん、ごきげんよう。」
サラが2人に頭を下げる。
なんだかんだいっても、コハルとヨギリは胡蝶のナンバー2と3。彼女達が寛大だから多少の皮肉などは許して貰えているが、胡蝶に在籍している限り、絶対に逆らってはいけない存在。
当然アマネに対してもそうだ。
サラはアマネの方を向いて頭を下げる。
だが・・・
「アマネさんもありがとうござ・・・ってもういないんですね。いつも急に来て急にいなくなるんですから・・・挨拶くらいさせて欲しいものです。」
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