第187話 エピローグ5


 白い輝きを放った白兎は、そのまま白い流星と化して、向こうの戦場に散らばる機械種ロキの群れに突っ込んでいった。


 その速度は音速に近い。

 俺の目の前から一瞬でいなくなり、気がついた時には戦場に白くたなびく線を描きながら、ロキの分身達を貫いていく。


 一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二、十三、十四、十五、十六、十七、十八、十九、二十、二十一、二十二、二十三、二十四、二十五、二十六、二十七、二十八、二十九、三十、三十一、三十二・・・




ゴツンッ!!



「があああぁぁっ!!なんだ!コイツ!!」



 三十三体目でヒット。

 

 ロキの本体らしき機体は、白兎の超高速の体当たりをまともに喰らい、後ろに跳ね飛ばされる。


 どうやら分身達はほとんど質量を持っていないようだ。

 三十二体目までは何の抵抗も無く貫通していたが、本体とみられる三十三体目は流石に一撃とはいかなかった様子。



 よし!今がチャンス!!

 せっかく白兎の作ってくれた隙を、見逃すわけにはいかない! 



「良くやった!白兎!お前はそのままヨシツネの援護に回ってくれ!」



 新たな指示を飛ばすと、白兎は即座に離脱を行い、ヨシツネがいる方向へと飛び去って行く。


 宝貝化したとはいえ、白兎の能力は未知数だ。


 ここまでロキに痛撃を与えた以上、ヘイトが白兎に向いて、攻撃を集中される可能性もある。

 どちらかと言えば、今の白兎のスピードと、的になりにくい身体の小ささからいって、ロキよりもフェンリルの方が組しやすいはず。

 

 まあ、俺が1人の方が戦いやすいということもあるのだけれど・・・





 

 俺は莫邪宝剣を抜き放ち、倒れ込んでいるロキに向かって駆け出す。


 本体と思われるロキまでの距離は約50m程。


 縮地を使ってできるだけ距離を短くしよう。


 一回の縮地では届く距離ではないが、それでも連続して使用すれば、アイツが体勢を整えるまでに届くはず・・・


 

 一歩踏み込み、即座に縮地を発動。


 2歩目でさらにもう一度、


 3歩、4歩、5歩・・・



 そこで、生き残ったロキの分身が2体、縮地を発動し終えたタイミングで襲いかかってくる。



 邪魔だ!


 莫邪宝剣を2回振るって、分身を薙ぎ払う。


 切り裂いた手ごたえから、分身はほとんどガワだけだということが分かる。

 おそらく質量のある部分はほんの少しだけで、その周りを薄いゴムのようなモノを纏わせているだけなのだろう。


 

 イカン、考察は後だ!

 

 即座に頭を切り替えて、立ち上がろうとしているロキへと向かう。


 あと、もう少し・・・

 

 6歩、7歩、8歩・・・


 

「させないよ!」



 ロキは膝を地面につきながらも、こちらに手のひらを向けてくる。



 

 ボフフフウウウウウ!!!




 その手の平から放射されたのは突風。

 

 一瞬、俺の足が地面から完全に離れた所を狙われた!


 ヤバい!

 あ、この場合は!!


 体が宙に浮きあがろうとする瞬間、七宝袋から混天綾を取り出し、正面からの風を薙ぎ払う。


 それだけで突風は勢いを無くし、ただのそよ風と化した。


 そして、地面に足が着いたと同時に縮地を発動。


 次の瞬間には、ロキまであと7,8mの距離。


 もう一回発動で届く!


 その最後の一歩を踏み出した途端・・・



 ズボッ



 足がそのまま地面にめり込み、胸の辺りまで見事にすっぽりと埋まってしまった。








「あははははははっはははははは、引っかかった!引っかかった!ばーか!」


 

 腹を抱えて笑い出すロキ。

 こっちに指まで向けて大笑い。



「あはははっはあっはははっはは。こんな単純な手に引っかかるなんて、マヌケー!今時落とし穴に落ちるヤツなんていないぞ・・・あれ?どこ?」


 さっきまで笑い転げていたロキは、地面に埋まっているはずの俺が居なくなっていることに気づいたようだ。


「え、どこだ?そんな!さっきまで埋まっていたのに?」


 探したところで見つかるはずが無い。


 なぜなら、俺は・・・


 『地行術』によって地中を移動しているから。


 





 落とし穴に落ちたと分かった瞬間、莫邪宝剣を七宝袋へと収納し、地行術を使って地中世界に潜り込んだ。


 そして、そのままロキの所まで移動し、このまま背後から奇襲をかけてやるつもりだ。


 地上のロキは俺を探し回ってキョロキョロしている。

 流石に機械種とはいえ、階層の異なる地中世界まで見通せはしないはず。


 

 よし、今だ!



 地中と地上の世界の境目に手を突っ込んだ途端、俺の身体は地上へとはじき出される。


 

「なっ!どこから!」



 ロキの目が驚きで大きく開かれる。

 人間なら何の不思議もない驚愕の表し方だが、機械がそのような表現をわざわざしていると考えると、どこかがおかしいと感じてしまう。


 頭の片隅ではそんな余計なことを考えつつも、莫邪宝剣を再び七宝袋から抜き放ち、無防備なロキの首筋へと斬撃を叩き込む。




 ガジッ



 莫邪宝剣の光の刃は、ロキの首筋ギリギリ辺りで止められた。

 光の波動が火花を散らすも、それ以上進むことはなかった。



 空間障壁か!



「へっ、危なーい。残念だったねー。惜しかったけど、僕の・・・」



「倚天の剣よ!」



 莫邪宝剣を右手に持ちながら、空いていた左手に倚天の剣を呼び出して、逆手で振るう。



 サクッ



 ただ、その一閃で機械種ロキの首は宙を舞うこととなった。 









 流石は天を貫き、空間を引き裂く倚天の剣。

 空間障壁を何の抵抗も無く切り裂くことができる。


 しかし・・・


 俺は役目を果たした倚天の剣を手早く七宝袋へと収納する。

 

 図らずも莫邪宝剣と倚天の剣の二刀を同時に装備してしまったが、これはできるだけ避けた方が良いことが分かったから。



 莫邪宝剣は持ち主の剣の技量をアップさせるが、倚天の剣にはそれがない。

 倚天の剣は空間を切り裂くことができるが、莫邪宝剣はできない。

 だから今のように2刀流なら、お互いの弱点を補えるのではと思いがちだが、そう簡単にはいかない。


 莫邪宝剣の剣の技量をアップさせる効果は、あくまで自身を利用することが前提の能力だ。

 当然ながら、莫邪宝剣を片手に持った状態で戦うことを想定して、剣の技量がアップされる。

 そこへ別の剣を反対の手に持つと、バランスが崩れてしまうのだ。

 

 先ほど一瞬だけだったから良かったものの、莫邪宝剣を持ったままで、反対の手に別の剣を握っているという違和感が俺の身体を駆け巡っていた。

 

 もし、あの一撃で勝負がつかず、そのまま2刀で戦っていたら、その場で転倒してしまうかもしれないほどの違和感だ。



 ひょっとしたら、莫邪宝剣の自分だけを使ってほしいと言う我儘もあったのかもしれない。


 元々、闘争を好む莫邪宝剣だ。

 できれば戦闘において、他の剣を使ってほしくないということもあるのだろう。


 まあ、剣の技量アップは莫邪宝剣の能力だから、その能力を他の剣への使用に使うことは、他人のふんどしで相撲を取ることに等しいだろうな。


 今回のような緊急事態ならともかく、普段から常用するのは止めておいた方が良さそうだ。 








 ドスン




 ロキの胴体が倒れ込む。


 首を失い、身体の制御ができなくなった為だろう。


 そして、気づけばこちらに駆けつけようとしていたロキの分身達の残りもいなくなっている。


 本体が倒れたので体を維持できなくなったのであろうか?




 本体を倒せば、残された分身達も無力化されるタイプで良かった。


 まれに残った分身達が襲ってくるケースや、本体の意識だけが分身に乗り移る等のケースがあるからな。


 安堵のため息を一つ。




 あれ?そう言えば、刎ね飛ばしたロキの首が落ちてこない?


 どこへいった・・・?




 辺りを見回す俺に、空から聞き覚えのある声が降ってくる。



「あはっははははっははは!びっくり。驚いた!凄いね!本当に幾つ発掘品を持っているの?これだけの数を1人で持ってるってなかなかいないよ」


 見上げれば、ロキは首だけになりながら、ふわふわと宙に浮いていて、こちらに満面と言っても良い笑顔を向けていた。



 え、ちょっと待って?

 首だけになっても活動する機械種なんて、聞いたことないぞ!



「あはははっはあっははは、やっぱりびっくりしてる。驚いてくれたんだあ!挑戦してみたかいがあったよー。気合があればなんとかなるモノなんだね!」


 気合でそんなことができるようになってたまるか!


「おい、非常識にも程があるぞ!降りて来い!」


「やなこったー!そっちから来てみなよー!飛べるもんなら飛んでみなー!」



 思いっきり馬鹿にしたような口調で茶化し始めるロキ。

 

 上空10m程上にいるから、流石にジャンプでは届きそうにない。


 火竜鏢や降魔杵で撃ち落としてやろうか・・・んん?


 そうだ。どうせなら、コイツを使ってみるか。






「銃があるなら撃ってみなよー。上手く当たったら褒めてやるよー・・・えええ!!なにそれー!!」



 バクッ



 ロキの首を丸ごと飲み込んだ九竜神火罩。


 火竜鏢では空間障壁に弾かれる可能性があるし、降魔杵のスピードでは避けられるかもしれない。


 その点誘導性が高い九竜神火罩は持ってこいだ。

 その上、投擲すると巨大化すると言うどう考えても理屈に合わない仕様の為、相手の動揺を誘うという効果もある。


 ひょっとしたらバルドルも、これを使っていれば捕獲できたかもしれないな。

 

 手元に戻ってきた九竜神火罩を見ながら、ついそう考えてしまう。


 まあ、過ぎたことは仕方が無い。

 このロキを捕まえただけでも良しとしよう。


 さて、コイツはどうしてやろうか。

 もちろん、尋問も行うし、散々馬鹿にしてくれたから、その仕返しもしてやりたい。

 散々喚いて口汚く罵ってくると思うが・・・

 


 ・・・やけに大人しいな。


 九竜神火罩に捕らわれたとはいえ、もっと中で騒ぎ立てるのかと思っていたが?



 巨大化した九竜神火罩は、一応外から中の様子が確認できる覗き穴のような物もついている。

 

 その穴に片眼を近づけて覗いて見ると・・・


 


 九竜神火罩の中の機械種ロキの首は活動を停止していた。

 

 その目は機械種がスリープしたかように、赤い光が薄く灯っているだけの状態。

 先ほどまで百面相化と思うくらいの様々な表情を見せていた顔は、能面のように感情を無くしてしまっている。


 え、死んでしまった・・・

 いや、単に動力源からのエネルギーが尽きてしまっただけなのかも。


 普通、首を切り離されたらそうなるのだから、今まで良く持ったというところだろう。


 なんでさっさと逃げなかったんだ、コイツ?


 幾分疑問は残るものの、九竜神火罩に入っている以上は逃げ出せるはずが無い。

 ここからの脱出は仙人すら不可能なのだから。

 

 巨大化したままの九竜神火罩をそのまま七宝袋へ収納する。

 こうやって七宝袋へ収納してしまえば、何の問題も無くなるはず。







 

 さて、最後は超重量級のフェンリルの番だな。

 ヨシツネと白兎が相手をしてくれているはず。


 早く駆け付けねば。 


 久しぶりの超重量級との戦闘。

 俺の戦闘力を思いっきりぶつけられる相手だ。

 はっきり言って、機動力に長けた中量級以下の上位機械種より、防御力、耐久力、攻撃力に特化した超重量級の方が俺にとってはやり易いのだ。


 そして、初めてとなる白兎、ヨシツネと組んでの集団戦。

 我が悠久の刃の初チーム戦と言える戦場だ。



「白兎、ヨシツネ。今行くぞ!」


 俺は最後の戦場に向かって走り出そうとした時、







 ザザッ







 唐突に発生した違和感。


 それは幾度も俺の危機を救った運命の分岐点の合図・・・




 え、なぜ?

 なんでここで運命が分岐するんだ?


 


 立ち止まって、運命が分岐する原因について頭を捻らせる。



 俺がヨシツネや白兎を加勢しに行くと、悪いことが起こる?

 それとも、俺がここに居ないといけない理由がある?


 運命の分岐点に対する俺の信頼性は高い。

 今まで何度も救われてきているから。


 しかし、はっきりとした答えを用意してくれるわけではないので、いつもある程度考えを巡らせる必要がある。


 ヨシツネや白兎を早く加勢しなければという焦りはあるが、ここで選択肢を間違えて、不幸なルートへ突入することは避けなければならない。



 何が原因だ?


 俺の知識を総動員して探り出せ!

 俺の経験を掘り起こしてみろ!

 今まで読んだ物語や小説も参考にするんだ!



 そして、俺の出した答えは・・・

 




※申し訳ありませんが、明日の投稿はございません。

 スラム編最終話 188話エピローグ6は6月20日に投稿致します。

 ご了承ください。

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