第147話 実力
ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ
「んん!!ああ、もう朝か・・・」
近くに置いた携帯に手を伸ばして、アラームを止める。
「おはようございます。主様」
・・・主様?ああ、そうだ。ヨシツネを見張りに立てておいたんだっけ。
ヨシツネは俺から少し離れた所で、片膝をついて待機していた様子。
レジェンドタイプの機械種を夜番の見張りだなんて、随分贅沢なことをしていると思う。
携帯を見ると、朝の6時。
いつも俺が起きていた時間帯。
胸ポケットに携帯を戻すと、自然と充電されているようで、今のところバッテリーが切れそうなことは無い。
取り出す度に新しいものになっているのか、それとも、俺の部屋に戻った時に誰かが充電してくれているのか。
この不可思議な現象がなければ、俺の目的の中に携帯を充電する方法を探すが追加されていただろう。
胸ポケットから飲み物とパンを召喚して、手早く朝ごはんを済ます。
そう言えば、未来視での俺は、このパーカーを大事にしまっていたから、現代物召喚を利用できなかったんだよな。
俺がこの能力に気づいたのも、偶然に近かったから、そういう可能性もあるだろう。
流石に何年もこのパーカーを着っぱなしだったら、気づいただろうが、手元にないのだったら気づきようが無い。
「主様、質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ん?なんだ?ヨシツネ」
「先ほど、服の懐から食料を取り出されていたようですが、それは空間拡張機能によるものでしょうか?」
ほう。ヨシツネはこれが気になるのか。
機械種から見れば、俺の能力はどのように感じられるのかということには興味あるな。
「質問を質問で返して悪いが、先にヨシツネの推測を教えてくれ」
「・・・主様が物を取り出した時に、マテリアル空間器の発動を感じられませんでした。しかし、拙者の知識データではマテリアル空間器を利用した空間拡張機能以外に考られません」
「ふむふむ。それで?」
「極めて隠密性の高い空間拡張機能が備わっている服ではないかというのが、最も確率の高い推測になります」
「具体的にそういった物があるのか?」
「私の空間制御スキルで見抜けない程の物となりますと・・・白色文明時代の物をかき集めれば、数点くらいはあるではないかと思われます」
「なるほど・・・で、ヨシツネの結論として、俺はどういった存在だ?」
「主様のご素性を詮索するのは不敬に当たりますが、それをご容赦いただけるのであれば」
「よい。許す」
なんか時代劇じみたやり取りになってきたな。
でも、これで俺が能力を明らかにした時の、客観的な評価が分かる・・・
まあ、従属している機械種からの評価が、どれだけ参考になるか分からないけど。
「主様は白色文明の遺産を多数相続された、若しくは、遺跡にて発掘されたのでは」
片膝をついたまま、推測を述べるヨシツネ。
そんなものところだろうな。結局、行きつくところはそこしかない。
意味が分からないものは、全て白色文明の発掘品と一括りにされてしまうのだろう。
それだけ白色文明という時代が、とんでもなかったということか。
世間一般的には、俺が規格外の能力を振るった場合、白色文明の遺産である発掘品を多数手に入れた、運の良い少年とみられる可能性が高いということが分かった。
しかし、世間一般的に良くても、従属している機械種からそう思われるのは、あまり面白くないな。
俺はジーパンの埃を落としながら立ち上がって、ヨシツネに声をかける。
「よし。ヨシツネ。腹ごなしに一度勝負でもしてみるか」
ちょうど地面に円形のリングを描くように、大きな隠蔽陣を展開する。
「これでよし。さあ、ヨシツネ。お前の実力を見せてもらおうか」
柔軟体操をしながら気軽に声をかける俺に対して、ヨシツネは困惑をしている様子。
「・・・主様、いくら主様がダンジョンを単独で脱出できる程のお方でも、流石にレジェンドタイプの機械種相手に、生身の身体では真っ向勝負は厳しいと思われますが」
まあ、そうだろうな。
では、まずヨシツネに俺が普通ではないことを分かってもらってからにしよう。
「じゃあ、ヨシツネ。俺の手を握れ。少しずつ力を入れて、俺が我慢できなくなるまで握り潰してみろ」
「はっ、承知いたしました・・・我慢できなくなりましたら、早めにおっしゃってください」
差し出した俺の右手を、ガシッと握りしめるヨシツネ。
ニヤリと挑戦的な笑みを浮かべる俺。
ヨシツネは俺の顔色を窺いながら、右手にゆっくり力を入れていくようだが・・・
「どうした?それで全力か?」
「・・・はっ、拙者の全力で握りしめております」
戸惑いを隠せていないヨシツネ。
右腕からギギギッと軋むような音が鳴り続けており、本当に力を振り絞っているようだが、俺の右手はビクともしていない。
このくらいでいいか。俺の頑丈さを知ってもらえれば十分だ。
ここで俺の全力を見せてやりたいが、コイツの手を握りつぶすわけにもいかないし。
「では、次。俺の手の平に、思いっきり拳を打ちつけてくれ」
「・・・主様。それは流石に・・・下手をすれば手が吹き飛びます」
「さっきのお前の全力でも握りつぶせなかった右手だぞ。遠慮は無用だ」
数秒躊躇していたようだが、俺の意思が翻ることは無いと判断したヨシツネは、右拳を腰に下ろして、中腰の状態で構える。
「主様、よろしいですか?」
「ああ、いつでもこい」
これで俺の右手が吹っ飛んだら笑い物だな。
「では、参ります!」
そうヨシツネが宣言した瞬間、ヨシツネの姿は掻き消え・・・
バン!!!
俺が構えた右手付近の空気が破裂した。
生じた風圧で俺の髪や服がはためく。
まるで近くで爆弾が破裂したかのような衝撃。
これは上忍とやり合った時以上の破壊力・・・
いつの間にか俺の右手に収まっているヨシツネの拳を見ながらそう思った。
やはり速さにおいては、ヨシツネの方が上のようだ。
初動から俺の手のひらに拳がぶち当たるまで、ほとんどその動きを認識することができなかった。
これは俺の肉体的な問題なのか、それともレジェンドタイプの機械種という存在が、闘神スキルの効果を上回っているのか。
どちらにせよ、現段階では最高位の機械種相手になると、速度において太刀打ちできない可能性があることを、考慮に入れて戦闘に望むべきであろう。
もし、俺とヨシツネが本気でぶつかり合った場合はどうなるだろうか?
力と耐久力は間違いなく俺がダントツに上。
速度・反射神経においてはヨシツネが俺を上回る。
また、技となると、これも圧倒的にヨシツネが上となるであろう。
ただし、これは俺が宝貝を使わない場合の話だ。
莫邪宝剣を持てば、技においてもヨシツネに引けを取らなくなるだろうし、ある程度ヨシツネのスピードにも対抗できるようになると思う。
そうなれば、俺を傷つけることができないヨシツネは、いずれ俺の攻撃を受けることとなるだろう。
一撃でも与えることができれば、それが致命傷となり、俺の勝利は揺るがない。
従属している機械種より自分の方が強いと分かって、少し安心している自分がいる。
たとえ味方でも、自分より弱いと思えないと安心できないなんて、ちょっと自分で情けなく思ってしまうが・・・
「御見逸れいたしました。流石は我が主様。拙者の完敗でございます」
拳を引いて、俺の前に片膝をつくヨシツネ。
別に俺が勝ったわけではないけれど。
しかし、これで俺の強さを認識してもらうことができただろう。
これから戦場を共にすることになる。
俺の強さをある程度把握してもらわないと、不必要に俺を庇ったり、突撃するのを止めたりする可能性があったから、早いうちに教えておかなくてはならなかった。
「見ての通り、俺の身体は無敵に近い。熱も、電撃も、レーザーすらも俺には通用しない。おそらく俺が傷つく可能性があるのは空間攻撃くらいだろう」
「朱妃の電撃を喰らっていたようですが、あれを防いだのは発掘品の効果ではないのですか?」
「そう思われることが多いが、俺自身の身体が無敵のようなんだ。理由は分からないがね」
闘神スキルの説明をしたって理解できないだろうし。
「では、気をつけるべきは空間攻撃のみと。なるほど。それを防ぐのは拙者の役目なのですね」
「ああ、それは最優先事項と思ってくれ。まあ、そんな上位の機械種と戦うことは少ないとは思うけど」
「承知いたしました。主様。拙者にお任せあれ」
とは言うもの、当分ヨシツネの出番はないだろう。
俺自身まだ、スラムの少年に過ぎない。
そんな奴がレジェンドタイプの機械種なんて連れて歩いたら、どう思われることか。
下手をすると俺から奪おうとする奴が山のように現れかねない。
当分はスリープ状態で七宝袋に入っていてもらうこととなるだろう。
「さあ、そろそろスラムの拠点に戻るとするか」
もう白兎の顔を何年も見ていない気分だ。
早く帰ってモフ・・・はないから、頭を撫でてやろう。
「主様・・・」
「何?」
「主様のような実力者がなぜ、スラムにお住いに?」
「うるせー。俺が知りたいよ!」
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