第146話 運命


 まさか未来視から宝貝の情報が得られるとは思わなかった。


 占い以上の情報収集能力と言えるだろう。

 乱用は禁物だが、必要において使用していけば、もっと他の情報も手に入れられるかもしれない。

 

 倚天の剣を七宝袋に収納しながら、そんなことを考える。

 



 そう言えば、『魔弾の射手』には、他にも宝貝候補のアイテムがあったな。


 マッソさんが倉庫に仕舞っている『金属の棒』


 ドーラさんがプレゼントしてくれた『水筒』


 ジャネットさんが持っている『超合金の装甲版』


 これ等はそれぞれ、『如意棒』、『四海瓶』、『金磚』という宝貝に変化させることができるはず。


 しかし、今からこれを手に入れるのは至難の業だろう。

 

 今から『魔弾の射手』に戻って倉庫に忍び込む?

 

 ジャネットさんに超合金の装甲版をおねだりしてみる?


 ドーラさんなら、ひょっとして頼めば渡してくれるかもしれないが・・・



 これらの宝貝の効果は魅力的だが、絶対に欲しいという程のものではない。



 まずは『如意棒』。

 伸縮自在は便利だが、近接戦では破格の性能を持つ莫邪宝剣がある。目立たない近接武器と言う意味では有用なのだろうが。



 そして、『四海瓶』

 未来視での俺は『四海瓶』を収納袋として利用していたが、本来は無限とも入れる水をため込んでいる異界空間の出入り口だ。ひっくり返せば、街全体を水没させるほどの水量を放つことができるだろう。


 ・・・ちょっとだけ、ダンジョンや巣に水を流し込むという戦術をやってみたいと思ってしまうが。


 しかし、収納袋としては、俺には上位互換の七宝袋がある。

 それに、未来視の俺にくれた水筒を、ドーラさんが今持っているかどうかは分からない。俺にプレゼントする為に買ってきてくれた物という可能性があるからだ。



 最後の『金磚』。

 実は『倚天の剣』の次にほしかったのが、この『金磚』だ。

 投げるだけで機械種の脳天を一撃で砕く宝貝。その単体遠距離攻撃能力とともに、目立たないという意味で非常に魅力的だと言える。


 だが、いくら和解したとはいえ、ジャネットさんのお守りである超合金の装甲版を、今の俺が貰える可能性は少ないだろう。

 このキマイラの晶石と交換を持ちかけたのなら、一考してくれるのかもしれないが、逆になぜこのようなものを欲しがるのかについて疑われるのは避けられない。



 

 しばらくメリットとリスクを天秤にかけ、出てきた答えは・・・



「まあ、そこまで無理をする必要はないか・・・」


 最も欲しかった倚天の剣が手に入ったのだ。

 これ以上の求めるのは欲のかきすぎだろう。








 あと、未来視の俺が使用していた術についても検証せねば。



 まずは三味真火の術。

 未来視での俺は、これをドラゴンブレスのように炎を吐き出す形で使用していた。

 もちろん人の目のあるところでは使用することができないから、実際に実戦で使用したのは数えるほどだ。

 口訣も、宝貝を取り出す必要もないシングルアクションの範囲攻撃は、なかなか有用そうに見えるんだけど・・・


 たしかこうやって、仙骨からのエネルギーを腹に溜めて、口から出すような感じで・・・



 ボウッ


 俺の口から飛び出る真っ赤な炎の息吹。


 軽く息を吹いただけで、数メートル先まで届く勢いだ。


 周りの温度が一瞬で上昇し、肌を焦がすような熱気が俺に襲いかかる。


 これは紅姫カーリーの死力の一撃で放たれた熱線でも感じなかった痛みを伴う熱さ。



 これはヤバい!

 多分、この術は俺でも火傷は避けられない。


 しかも、この術は水でも消すことができない永遠に燃え盛る炎なのだ。

 下手に使用すれば、自分ごと焼き尽くしてしまう可能性がある。


 この術は使わない方が良さそうだ。

 



 もう一つは治癒力を高める気功術だが、これは今試す必要はない。


 俺にはもっと便利な仙丹があるし、効果を試す為に自分を傷つけるのも馬鹿らしい。





 



 さて、このくらいでいいか。

 そろそろ、いい加減にチームトルネラの拠点へ帰るとしよう。


 体感的にはもう何年も帰っていないような感覚だ。


 未来視での体験だとはいえ、『魔弾の射手』『魔風団』の一員として、5年近く戦ってきたのだ。

 

 すでにチームトルネラの皆よりも、アテリナ師匠や、ジャネットさん、ドーラさん達への愛着の方が強くなってしまっている。


 しかし、俺はチームトルネラの課題を解決すると決めているし、今更反故にするつもりはないけど。


 

 さあ、戻るとしよう。今から帰ればギリギリ深夜までには到着するだろう・・・




 ザザッ


 


「あ、これは・・・」




 隠蔽陣を解除し、スラムに向けて一歩足を踏み出した途端、俺に襲いかかる異様な感覚。


 これは以前感じたことのある・・・運命が分岐する瞬間。



 え、このタイミングでか!

 いったいどういうことなんだ?



 前回、前々回のことを考えれば、このままスラムに向かうと、俺にとって良くないことが起こるということか。



 前回はピアンテ。

 これを無視すれば、ピアンテは俺の白兎を強奪し、俺に殺されることになる。

 そして、俺はチームトルネラに戻らず、そのまま街を離れてしまうことを選ぶ。

 それが俺にとっても、チームトルネラにとっても悪い事であるのは確実だろう。



 そして、前々回のディックさんを探していた時のこと。

 これを無視したことで、俺は雪姫との友好的な接触の機会を失った。

 おそらく、俺にとっても、チームトルネラにとても最善であったと思われる道。

 それを永遠に閉ざしてしまうこととなってしまった。 


 

 では、今回、この感覚を無視して、チームトルネラに戻るとどうなる?


 俺にとっても、チームトルネラにとっても良くないことが起こってしまうのか?



 ・・・クソッ!

 どうも運命に弄ばれている感が拭えない。


 今日のアテリナとの出会い。

 そして、アデットの手に渡っていたピジョン。


 遡れば雪姫に宝貝を使用するところを見られたことだって、偶然として片づけるには、あまりにも出来過ぎだ。


 偶発的に接触する可能性は、それぞれにあった。


 ディックさんを探していた俺と、ディックさんを助けようとしていた雪姫が、ニアミスするのは分かる。


 その件で雪姫が俺に目をつけ、タイミングを見計らって誘い出してきた。

 

 それが、今日の朝の出来事・・・


 それに連鎖するように、アデットが来るはずだったダンジョン探索を、アテリナが立候補して、俺と出会った。

 それは俺が女戦士ヒロインを探そうかなと思いついたのが原因だ。


 それぞれにもっともな理由があり、単発で見れば不自然でもないが、こうも続いてしまうと逆に不自然極まりない。

 

 まるで、雪姫と、アテリナがヒロインとして用意され、それぞれ偶発的に出会う確率を高められて、今回のように連鎖的に出会いが続いたような・・・


 それじゃまるで、自由度の高い恋愛シミュレーションゲームみたいだ。



 グシャ!!



 足元の石を足で蹴り潰す。


「じゃあ、何か!俺は片っ端からヒロイン攻略に失敗しているとでもいうのか!」



 俺が自分で、ヒロインだ、イベントだ、フラグだとか言っていたけど、まさか本当に存在しているんじゃなかろうな。


 そうだとすれば、俺の運命はすでに捻じ曲げられていて、誰かの手の平ということになってしまう。


 それは非常に気分が良くない。それが神様だったとしても喧嘩を売りたくなってしまうだろう。

 



 苛つく、苛つく、苛つく、苛つく・・・・・・



 今すぐ宝貝を全部取り出して、能力を全開にして暴れまくりたくなる程だ。


 もちろん、こんなところで暴れたって意味が無いことくらいわかるんだが。





 

 ・・・落ち着け、俺。

 まだ、そう決まった訳ではない。

 本当に偶然だってことも考えられるんだ。結論を出すには早いだろう。


 今は、チームトルネラの拠点に帰るのか、帰らないのかを決めないと・・・



 それは考えるまでも無い。

 前例のこともあるから、従った方が良いに決まっている。


 これが誰かの差し金なら、あえて逆らってやろうかとは思ってしまうけど、その代償がチームトルネラの誰かだったり、アテリナ師匠達だったりする可能性がある。



 ここはおとなしく従っておこう。

 その誰かに、いずれ報いはくれてやるとしても。






 ・・・廃墟に向かうか。

 せめて屋根のある所がいい。

 俺の手には白鈴がある。一晩くらいは問題ないだろう。


 今日は色々なことがあり過ぎた。

 今は横になって、何も考えずに眠りたい気分なんだ。



 俺は重い足を引きづって廃墟に向かう。

 

 今日という日は、間違いなく俺の人生で最も長く、最も波乱万丈な日であった。


 せめて明日は平穏な日にしろよ!


 誰とも知れぬ運命の神へ向かって、そう吐き捨てやった。

 

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