第142話 独立
狩人と猟兵との違いは何か?
狩人は小規模のチームを組み、主に巣の攻略に勤しむ。
自然と屋内活動が多くなるため、従属している機械種の中量級までが多い。
遺跡を探索する冒険者をイメージすると分かりやすい。
対して猟兵は中~大規模の軍団を組織することから、猟兵団と言われる。
相手は重量級以上の機械種を野外で相手にすることが多い。
当然従属している機械種も重量級以上が多くなる。
また、戦車や装甲車を多数保有しており、街の防衛や、機械種支配圏への侵攻を任されることもある。
こちらは傭兵団、私兵団に近いイメージだ。
「狩人は小物狙い、猟兵は大物狙いって言ったところさ」
ジャネットは愛用している銃・ラージ下級の砲身を磨きながら、そんなことを教えてくれた。
「じゃあ、稼ぎは猟兵の方が多いってことですか?」
「うーん。これが難しいところでね。猟兵の方がコンスタントに稼げるだろううが、狩人は巣の探索で発掘品なんかを発見できるチャンスがあるからね」
定期収入は猟兵の方が多くて、臨時ボーナスが出れば狩人の方が儲かるということか。
「まあ、私らも超重量級を倒せば、同じことなんだろうけどね」
「え、それって最低でも高さ10m以上の機械種なんでしょ。時には山くらいある大きなのもいるって聞くんですけど、どうやって倒すんですか?」
「ヒロが棍を振り回したら、倒せるんじゃないか?」
「あははは、そんな無茶な・・・」
多分、当たればなんとかなるかもしれないが。
「よいしょ、これで終わり。あ、そうだ、ヒロ。これをやるよ」
砲身を拭き終わったジャネットさんが俺にくれたのは、薄い金属の板のような物。
ちょうど単行本くらいの大きさだ。
「これは・・・」
「超合金の装甲板みたいなものさ。できたら胸の中央辺りに入れておけ。弾丸も通さないところか、衝撃もある程度吸収してくれる。お守りみたいなもんさ」
「ジャネットさん・・・」
「がんばれよ。パーティはバラバラになってしまうが、また一緒に戦う時もあるだろう。お前との戦場はなかなか面白かった」
グシグシとかき混ぜるように俺の頭を撫でるジャネットさん。
白狼団と合流した『魔弾の射手』。当然、今までのようなパーティ単位の活動ではなくなり、それぞれのポジションに応じた任務が与えられるようになる。
1年以上一緒に活動したアテリナ師匠のパーティはここで解散することになったのだ。
「・・・ジャネットさん。頭を撫でるのは・・・ちょっと・・・」
なんで、アテリナ師匠といい、ドーラさんといい、皆、俺の頭を撫でたがるのか?
・・・アテリナ師匠は『ヒロの髪質が信じられないくらいに柔らかでサラサラしてるから』って言ってたけど。
「ああ、すまない。ヒロはもう一人前の戦士だったな。ならこっちだ」
右手を差し出して、俺の右手をぎゅっと握ってくれる。
ちょっと固くて、ザラザラしているところもあるけど、暖かな手・・・
「ヒロの活躍を期待している。ただし、無理はするな。怪我には気を付けろ」
「はい、今までありがとうございました」
ちなみにこの後、ドーラさんから水筒、アテリナ師匠から大型ナイフを貰った。
それを記念品として、このハーレムパーティから卒業となり、戦場へと向かうこととなる。
まあ、ハーレムパーティといっても周りからそう揶揄されているだけだ。
俺自身手を出したことは・・・ドーラさんに何回かお世話になったくらいだ。
向こうも本気ではないし、俺みたいな年下はタイプではないそうなので、のめり込むことは無かったけど。
俺の新しい役目は戦車随伴兵。
戦車を護衛し、砲撃を抜けて向かってくる中量級以下の機械種を狩ることがメインとなる。
どうやら俺に指揮官適正はないようで、当面は現場で地道に成果を稼ぐことが必要なんだそうだ。
おかしい。シミュレーションゲーム得意だったのになあ。
中央に来て半年程経った。
今の俺は突撃兵という、あまり猟兵では見ないポジションについている。
役目は巨大な機械種に突っ込んで、足をへし折ること。
この半年間で挙げた俺の功績は、おそらく誰にも破られることは無いだろう。
サイの機械種ライナサラスの突進を受け止め、その角をへし折って捕獲し、
機械種ヒルジャイアントが投げる巨石を掻い潜って、その背骨を叩き割り、
機械種ベアの群れを単独で殲滅する。
これらの戦果は、俺の身体能力もあるが、新たに手に入った武器、宝貝の効果も大きい。
アテリナ師匠たちから貰った物は、全て宝貝に変化させることができたのだ。
ジャネットさんから貰った金属板は『宝貝 金磚』へ。
これは遠距離攻撃宝貝。投げると自動的に相手に命中し、一撃で頭部を破壊する。
ドーラさんから貰った水筒は『宝貝 四海瓶』へ
中に物を収納できるようになる宝貝。だたし、水にぬれてしまう為、入れるのは濡れても構わない武器防具がメインだ。
そして、アテリナ師匠から貰ったナイフは・・・・・・
これらの宝貝を使いこなし、無双の活躍を続ける俺。
すでに俺の名は白狼団にも響き渡り、『ワンアーミー(一人軍隊)』とあだ名されるようになった。
俺のおかげで『魔弾の射手』の立場も鰻登り。
そんな俺を慰労するという意味で、アデットさんとアテリナ師匠の3人で会食することとなった。
目の前には、タキシードでビシッと決めたアデットさん。隣には珍しくドレス姿のアテリナ師匠。
アデットさんの印象は普段とあまり変わりは無いけれど、いつもポニーテールをしているアテリナ師匠が、髪をほどいてストレートにしている姿は新鮮だ。
こうしてみると、この場に相応しい上流階級の紳士淑女といった風情。
・・・やっぱり俺だけ浮いているような気がするんだけど。
ここは中央寄りの割と栄えている街。
そこのレストランの一室を貸し切っての会食だった。
まあ、出てくるのはブロックなんだけど。
「うーん。久しぶり。ワギュウブロックなんて、何年ぶりかなあ?」
「もっと中央に行けば、これより美味しい肉系ブロックがあるそうですよ。確かコウベギュウブロックといったかな」
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」
思わず喉を詰まらせる俺。
いや、これは驚くでしょ。
「大丈夫?ヒロ。美味しいからってあんまりがっついたら駄目よ」
「ゴホッ・・・すみません。気を付けます」
「ふふ、あんまり変わってないわね。ヒロは」
やっぱりアテリナ師匠には頭が上がらない。俺の恩人だということもあるが、最初に植え付けられた印象というのが大きい。
「アテリナ師匠。最近、どうなんですか?そちらの司令部は?」
「まあ、いつも会議ばっかりね。いい加減、私も戦場に戻りたいんだけど」
「駄目ですよ。アテリナ。貴方の能力は私には必要なんです」
「いーだ!」
お行儀悪く、口を指で左右に引っ張って舌を出すアテリナ師匠。
そろそろ20才近いんだから、もう少し落ち着きましょうよ。
「アテリナ。もう少しなんです。あともう少しで『魔弾の射手』は白狼団から独立できるんです。ようやく、父と母に託された願いを叶えることができる」
「父さんも母さんも、別に猟兵団の再興なんて望んでいないと思うけどね」
アテリナ師匠のその発言に、視線を強くするアデットさん。
アテリナ師匠も負けずに睨み返す。
そして、しばらくにらみ合いが続き・・・
「・・・少し頭を冷やしてきますよ」
と言ってアデットさんが席を立つ。
いやあ、兄妹喧嘩なんか見せられても困るんだけど。
「もう、兄貴は。そればっか」
「・・・あの?アテリナ師匠?」
「ああ、ごめんなさい。空気を悪くしちゃったわね」
確かに空気が悪くなりましたね。何か話題を変えなきゃ。
「いえ、その・・・最近どうです?気になっていた彼は?」
なんで俺もアイツのことなんか話題に出すかなあ。
聞いてしまったことは、もう仕方が無いけど。
「ジュードね。最近頑張っているわよ。あともう少しで身請けするマテリアルが貯まりそうなんだって。今は遊撃チームのリーダーをやっているわ」
「いや、アテリナ師匠との関係のことなんですけど・・・」
「今の話で察しないさいよ!」
「もう諦めましょうよ。他にもイイ男がいますって。わざわざ彼女持ちを狙わなくても・・・」
「イヤ!別に彼女がいてもいいじゃない。私は2番目でもいいって言ってるのに・・・」
ああ、もう駄目だ。末期症状だ。もう取り返しがつかない。
「それよりヒロはどうなのよ。誰かと付き合ったとは聞いていないけど」
「あはははは、藪蛇でしたね。これは」
モテないわけじゃないんだよな。お金・・・マテリアルもたくさん持っているし。
言い寄ってくる女の子には困っていない・・・そういうお店の子ばっかりだけど。
そう言えば、ヒロインを探さなきゃって、思ってたんだよな。最初の方は。
一応、好みのタイプであるピレを何回か誘ってみたんだけど、全く良い反応がなかった。そもそも今の立場だとあんまり接点がないから、しょうがないのかもしれないが。
もっと積極的にいかないと駄目なのかな。
でも、嫌われてしまうと元も子もないし。
「早く見つけた方が良いわ。白狼団から独立すれば忙しくなるでしょうし」
「さっきも話題で出てましたけど、何で独立する必要があるんです。今のままで特に問題は無いと思うのですけど・・・」
言い方には気を付けないと、リーダーであるアデットさんへの反抗と取られかねない。仲良し小好しのサークル活動ではないのだ。上官には絶対の軍隊組織という程ではないが、それでもリーダーの権限は不可侵のものとなっている。それに意を唱えるのは軽々しくできることではない。
でも、アテリナ師匠には俺の不満は御見通しのようだ。
まあまあといいながら、俺のグラスに飲み物を注いでくれる。
「ヒロは相変わらず、周りの環境が変化するのが嫌いなのね。でも、兄貴は止まらないわ。ヒロとは正反対で進むことでしか生きていけないの。私からすれば、もう少し歩む速度を落としてもいいのにと思うけどね」
そう言って、手に持った自分のグラスを軽く傾け、オレンジ色の液体で喉を湿らせるアテリナ師匠。
飲み終えた後、俺に軽くウインクをしてくる。
この話はこれで終わりという合図だろう。
ここはチームの行く末を話すような場所じゃないから。
俺も自分のグラスを持ち上げて、中の液体を一気に飲み干す。
口の中に広がるのは、柑橘系のさっぱりとした香りと、酸っぱさが残る甘味。
確かにここは議論する場ではない。
久々の元の世界に迫る美味しい料理が並んでいるのだ・・・ブロックだけど。
今は英気を養う為、この会食を楽しむことにしよう。
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