第131話 女戦士


 結局、女戦士系ヒロイン候補がいると思われる方向へと進むことにした。


 こんなダンジョンで出会うかもしれない距離にいるということは、出会いなさいという運命の導きなのであろう。


 その女戦士系ヒロインがどのような立場なのかは分からないが、俺はこの街を今日も合わせて3日で出ていくと決めている。

 仲良くなるくらいまでの交流はできないかもしれないが、顔くらい合わせておいて損は無いはずだ。


 

 先ほどまでとは違い、かなりの速足で矢印の方向へと足を進めていく。

 

 危険なダンジョンなんだ。

 辿り着いた時には、すでに死体となっていたなんて目も当てられない。


 矢印の方向を見るに、どうやら同じ階層にいるようだ。

 では、その女戦士系ヒロインはオークの群れを相手にしている可能性がある。



 駄目だ!

 オークに女戦士の組み合わせ何て相性最悪だ!



 これは助けに行った方が良いだろう。ヒロインということは別にしても、女の子の危機は放っておけない!


 体にまとわりつく地中世界の抵抗を力づくで跳ね除けながら駆け出していく。








 ドプン



 目の前に出現した黒い壁、地中世界との境界線を突き抜けて、現実世界へと帰還する。


「ここは?俺が入ってきた所とは違う場所か・・・」


 見覚えのない通路だ。このダンジョンにはかなりの数のルートがあるそうだから、この通路もそれらの中の一本なのであろう。

 

 視界の矢印はまだ方向を示し続けている。


 ここからは敵に遭遇する可能性がある。

 流石にダッシュで進むわけにはいかないが・・・


 今更オークに傷つけられるとは思えないが、それでも群れに飛び込めばタコ殴りにされるだろう。それでも無傷だろうけど。


 あ、そうだ。

 七宝袋に収納しているナップサックも出しておこう。

 ダンジョンに手ぶらでいるなんて、明らかに不審者だ。

 人間に遭遇する可能性がある階層なら、こういったことにも気を遣わないと。


 ささっと準備を済ませて、さあ出陣だ。


「無事でいてくれよ!」









 俺が女戦士系ヒロインを見つけたのは、そこから数百メートル進んだ先であった。


 比較的大きめの部屋で、オーク1体を相手に戦闘中だ。



 年の頃は今の俺より1、2歳上のように見える。16、7歳くらいだろうか。

 背中辺りまである茶髪を邪魔にならない様にポニーテールしているのが印象的だ。

 顔は可愛いというより、凛々しいといった感じ。

 意志の強そうな鳶色の瞳、力強さを感じさせる眉、鼻筋の通った白人系の美少女。

 なんとなく北欧のテニスプレーヤーのイメージが浮かぶ。


 深緑色のコンバットスーツを着ているが、その上からでも分かるくらいのプロポーションの良さ。特に胸は確実にサラヤやナルよりも大きい。

 

 腰には大型のナイフを吊るし、片手に構えたライフル銃をオーク目がけてぶっ放している。


 対するオークはネットに絡められて動きづらそうにしながらも、こん棒を振り回して対抗しているようだが。



「お嬢、もう一発いきますよ!」


「ジャネット、お願い。一旦下がるから」



 どうやら俺のヒロイン候補はお嬢と呼ばれている様子。

 そして、その部屋にはもう2人女性がいたようだ。


 どちらも20歳前後くらいと思われる。

 おそらくヒロイン候補のパーティメンバーなのであろう。

 両方ともかなり鍛えられた体つきをしており、まさしく女性兵士そのものだ。


 1人は黒髪、褐色の肌をした中東系のような女性。

 先ほどヒロイン候補からジャネットと呼ばれていた。

 体形はややおとなしめ。それでも捲り上げられた袖から見える腕は俺よりも太く、血管が浮き出るほど鍛えられている様子。

 黒髪を短めのショートにしているせいか、パッと見、男性に見えてしまう。

 顔立ちもやや男っぽく、整ってはいるものの女性という感じはあまりしない。

 ミドルの銃より大きめの砲を肩に担いでおり、その先端をオークに向けている。


 もう1人は金髪碧眼。間違いなくヒロイン候補を上回ると分かる抜群のプロポーション、そしてたわわに実る巨乳。

 顔はややタレ目で少し厚めの唇と相まって、男好きする美人と表現されそうだ。

 右手に拳銃、左手に短めの槍を構えており、ヒロイン候補を守るような動きを見せている。





 女性の3人パーティか。珍しいな。


 いや、女性だけのパーティなんてネット小説では別に珍しくないんだが、この異世界ではどうも女性の地位が低いような気がしている。

 そのせいか、女性が戦いの場に出るなんて・・・という社会的通念が幅を利かせているように感じられるのだ。


 まあ、元の世界でも女性が戦いの場に出るなんて非常に稀なケースだろう。

 ネット小説で、女戦士が当たり前のように活躍している風潮がおかしいのかもしれない。





 壁から少しだけ顔を出して戦闘の様子を眺めている俺。

 危機的状況だったら助けに入ろうと思っていたが、どうやらかなり接戦を繰り広げているみたいだったから、とりあえず今は様子見だ。


 おそらく、どこかのタイミングで劣勢に追い込まれるのだろう。


 そこへ俺が助けに入って、惚れられるパターンだと思うけど・・・



 ぶっちゃけ、あんまり俺の好みじゃないんだよなあ。

 ああいった気の強そうな女性は。

 なんとなくコミュニケーションを拳とかでやってきそう。


 まあ、話してみたら印象が変わるかもしれないし。

 せっかく運命が俺のヒロイン候補として用意してくれた女性なんだ。

 とにかく好感度を上げてみてから考えることにしよう。


 では、しばらく助けに入るタイミングを待つことにするか。






 ボン!!


 ジャネットと呼ばれた女性の砲から放たれたのは、蜘蛛の巣のように広がる金属製のネット。


 すでにオークに何発か放っており、破られそうになる度に、ああやってネットを追加して動きを封じているようだ。



「ドーラ!足を狙って!」


「オッケー!任せといて」



 ドーラと呼ばれた巨乳の女性は、新たなネットを追加されて、動きの鈍くなったオークへ左手の槍で突きかかる。


 向かってきたドーラに対し、オークはこん棒を振り上げようとするが、ネットに絡まれて上手く振り回せないでいるようだ。


 

 バチィィ!!



 オークの足に突き立てられた槍の穂先から、紫電とともに火花が散る。



「グオオオオオ!!!」



 痛みを表すかのように吼えるオーク。

 いや、機械なんだから痛みはないのだろうけど。


 しかし、穂先から電気を流し込む槍か。

 あれは発掘品なのだろうか。それにしては威力がショボい気もするが。




「ナイス!ドーラ。後は撃ちまくるよ!」



 ドン!、ドン!、ドン!



 足を潰されたオークに畳みかけるように銃を撃ちまくるヒロイン候補。


 

 あれ?

 かなり善戦していない?


 このままじゃ俺の出番が・・・





「ゴアアアアアアア」


 雄たけびとともにオークがヒロイン候補めがけて突進していく。

 片足を潰されているせいか、両手を地面につけての四つん這いだ。

 それでもかなりの勢い。そのままぶつかれば大怪我をしてしまうだろう。




 む、出番か!

 莫邪宝剣・・・は悪目立ち過ぎる。

 金鞭も駄目だ。巻き込んでしまう。降魔杵も同様。


 じゃあ、素手しかないそ。


 え?素手でオークを殴り倒したら、あの女性達にどんな目で見られるんだよ!


 ああ、とりあえず彼女の前に立って庇うとしようか・・・


 


 あっ



 とかなんとか考えているうちに、ヒロイン候補は華麗なステップでオークを危なげなく躱し、さらに銃弾を追加でお見舞いしていた。



 ドン、ドン、ドン、ドン、ドン!




 そのうち、ジャネットも別の銃に持ち替えて銃撃に加わり、ドーラも拳銃で装甲の薄そうな部分を狙い撃ちしていく。


 

 三方から銃弾の嵐を受けまくり、流石のオークもハチの巣にされて、やがて動かなくなっていった。



「やった!!!これで兄貴を見返してやれる!」


「やりましたね。お嬢。流石です」


「これで私達を新参者と見縊る奴もいなくなるね」




 あれれ?

 あっさり勝っちゃったぞ。

 おい!オーク、お前もうちょっとがんばれよ!

 運命がヒロインとの出会いの場をセッティングしてくれたんじゃなかったのかよ!



「これで装備を整えれば、オークくらいなら何とかなるってわかったわね」


「お嬢。ここまで装備を整えるのが至難の業ですよ。今回はテストケースとして、用意してくれただけです。毎回用意してもらえるとは思えません」


「わかっているわよ。ジャネット。兄貴のパーティと違って、こっちには機械種使いがいないから装備に頼るしかないってのは」


「まあ、アテリナの勘も頼りにしてるよ。群れからはぐれた1体を見つけられたのもそうだし、音叉があったとはいえ、ここまでほとんど戦闘を回避できたし」


「ドーラ。あまりお嬢の勘を頼りにするのは良くありません。いつも最善を引くというわけではないんですよ」


「ジャネットの言う通りよ。戦闘力を上げる一番確実な方法は装備の質を上げることなんだから」



 うん、なるほど。色々な装備を駆使してここまで来たということか。

 その装備があれば、ある程度は実力差を埋めることができるのだろう。

 では、彼女らのパーティはかなり裕福ということのようだが・・・




「さて、後は・・・」




 んん?

 なんだ?




 ドン!




 破裂音とともに、俺の顔のすぐ横の壁に拳大の穴が開いた。




「そこの覗き野郎。大人しく出て来な!」



 少女とは思えない凄みの利いた声。

 

 どうやら、俺はまた選択肢を間違えたようだ。



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