閑話 サラヤ2
次にヒロに驚かされたのはヒロがチームに入った2日目の夜。
いつまでたっても帰って来ないヒロにひどく落胆したのを覚えている。
よくいるのだ。調子に乗って格上の機械種に挑んで帰って来ない子が。
ヒロはその辺りのリスクを十分に分かった上で行動してくれると思っていたが。
飛び出そうとするジュードを何とか引き留めている時に、ヒロは帰ってきた。
それも飛び切りの獲物を抱えて。
初めは狩人の獲物を横取りしたのかと肝を冷やした。
でも、ジュードが後から言っていたが、狩人相手に獲物を盗むのは、ハイエナと直接戦うより難しいらしい。
もちろん、狩人だって人間である以上、絶対ではない。
しかし、狩人は獲物を狩ったらすぐに晶石と晶冠を取ってしまう。
だから、晶石と晶冠のついているハイエナの頭を盗もうと思うと、狩った直後くらいしかチャンスが無く、遮蔽物の無い草原ではそれは不可能だということらしい。
ヒロの拾ったという理由は到底納得のいくものではなかったが、獲物としてここにある以上、それで納得するしかない。
これ以上の情報をヒロから聞き出すには、私の体を使う必要があるかもしれない。
どうせヒロは報酬に私の体を求めてくるはずだ。
精々寝物語で語ってもらうことにしよう。
そう思っていたが、意外なことにヒロの求めた報酬はゼロだった。
このハイエナの頭をバーナー商会に降ろせば6000Mにはなるだろう。
これはチーム全体の収入の1ヶ月半~2ヶ月分に相当する。
ヒロがマテリアルで報酬を求めてきたら渡せるのは2000Mくらいだろうか。
3分の2が手数料なんて、酷い搾取のように思えるが、通常、機械種の素材からマテリアルに交換してくれる秤屋は個人からの新規の取引を受け入れることはほとんどない。
だから、取引のある団体を通す必要があるが、これの手数料は、一般的なもので、3分の2から5分の4くらいが多いらしい。
もっとひどい所だと10分の9持っていくところもあると聞く。
ヒロはそこまでの報酬を返上してチームの為に使ってくれと言い出した。
何を考えているのだろう? この人は………
まず最初に私の中で生まれたのは彼に対する不信だった。
彼は明らかに私に欲情しているように見える。
ここで私の体を要求しても、誰も文句を言わないだろう。
ジュードだって渋々ながら納得するしかない。
次に考えたのは、彼の狙いがボスではないかということだ。
このチームにおいて、最も価値があるのが、何十年も稼働している源種ドワーフの機械種であるボスだ。
機体こそボロボロだが、未だにそのスキルは有用であり、戦闘力ではこのスラムにおいては最上位だろう。
雪姫のウルフやキキーモラにだって負けはしない。
ヒロは初めからボスに会うことを目的にしてきたのかと疑いの目を持ったが、それと同時にそうではないことも願った。
もし、本当に狙いがボスでもなく、彼が言うようにチームの為と思って報酬を返上したのであれば、彼は非常にお人よしだということになる。
そうだとしたら、チームにとって本当にありがたいことだ。
たとえ報酬が低くても、これからもチームの為に働いてくれるだろうから。
私の体だったらいくらでも報酬として払うつもり。
今更純情を気取るつもりはないし、体を差し出すことで、チームメンバーが美味しい物を食べられるようになり、自分の将来について考えられる余裕が生まれるなら安い物。
しかし、こういう時に自分から体を報酬として言い出すのは良くない。
それは自分から価値を下げることになってしまう。
先輩からの教えでは、男から求めてきて、女が恥じらいながら差し出すことで、初めて意味を持つそうだ。
これがなかなか上手くいかなかった。
報酬の話をしている時に何度かアピールしてみるも、目線は釘付けになるが、それ以上手を出してこない。
どうやら胸に興味があるようなので、際どいポーズを取ってみるが、やはり目だけで手をださない。
ひょっとして不能? それとも自信がないのかな?
ここまでくると私の方も意地になってしまう。
最後は直接的に胸を触らせようとしたが、振りほどかれ、体よく断られてしまう。
おまけにおかしいと思われたようで、気遣いの言葉までかけられた。
これには非常にショックを受けてしまった。
え、私がおかしいの?
呆然としている私を他所に応接間を出ていくヒロ。
なんなの? この人。
私はヒロのことが理解できず、しばらくしてジュードが応接間に入ってくるまで立ち尽くしてしまった。
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