第43話 イベント?


「素晴らしいな。ヒロの剣の腕は。ここまでの達人は見たことが無い」



 瓦礫の上に座りながら向かい合っている俺とカラン。


 カランは今までの俺を若干下に見ていた態度とは打って変わって手放しに俺を褒めちぎり、やや興奮気味で俺の剣の腕を称えてくる。



「昔、両親に剣の達人について聞いたことがある。達人には相手のほんの一瞬の死角をついて、相手との距離を詰める歩法があるとか。正しく瞬間移動のようだったぞ」



 正しく瞬間移動です。



「それに、木刀で木刀を切断する斬撃。ヒロなら金床打ちの剣でも機械種の装甲を切り裂けるんじゃないか?」



 俺もここまで剣の威力が上がっているとは思わなかった。

 さすが「闘神」スキルといったところか。



「ヒロも人が悪いな。剣の達人なのに素人の振りをして。それとも自分の実力を隠す為なのか? 一定以上の達人になれば、立ち振る舞いも常人と変わらなくなると聞いたことがあるが。ヒロのそれは、剣の素人が知識だけで達人の真似をしている素振りにしかみえなかった」



 正しくその通りです。中学の授業と漫画のうろ覚えです。



「私は運がいい。こんな身近に達人がいるなんて。ぜひ私に稽古をつけてほしいな」



 いや、それは勘弁してください。ボロが出ちゃうから。


 イカンな。カランは目をキラキラさせている。

 ちょっと失礼だが似合わない。


 さあ、なんと言って断るか。



「あー。俺の剣術は秘伝なんだ。勝手に教えるわけにはいかない類でね。悪いけど。でも、カランの剣術もなかなかだったよ。特にあの初太刀の変化と、突きの猛攻はヒヤッてしたし。誰かに習うんじゃなくて、もう少し自分の剣術をそのまま突き詰めた方がいいと思う」



 どうだ。わりかし最もらしい断り方だろう。


 カランは俺の返事を聞いて、少しだけ残念そうな素振りをみせる。



「そうか。仕方が無いな。ヒロの言う通り、今は自分の剣術を突き詰めていこう。さて、今日の素振りの続きをせねば」



 もう切り替えが終わったのか、カランは立ち上がり、木刀を拾い上げて、素振りをし始める。


 その様子を見て、俺もこれ以上厄介ごとを抱え込まないようする為、駐車場から出ていこうとする。



「ああ、そうだ。ヒロ」


「ん?」



 素振りしながら俺に声をかけてくるカラン。

 思わず振り返る俺。



「一回でいい。もう一度立ち会ってほしい。それまでにもっと腕を上げておくから」



 実にイイ笑顔でお願いしてくる。

 あれは目指すものを見つけた顔だ。

 よくスポーツ選手なんかが見せるやつだ。



 ……クソ、その清々しい表情にちょっとだけ見惚れてしまった。

 前の世界では俺が一番嫌いな表情だったのに。


 文系帰宅部の俺としては、体育会系の青春の一ページは、嫉妬と羨望とが入り混じる感情を最も刺激するんだ。

 得られなかった、いや、得ようともしなかった貴重なものを見るたびに焼けつくような心の痛みを感じてしまう。


 まあ、一言で言うと青春コンプレックスだけど。


 さて、なんて返すのがカッコイイんだろ。

 いや、言葉にすれば余計にうさん臭くなるから……


 カランのお願いには言葉で返さず、拳を突きつけてポーズで返すにとどまった。


 一応、カランは満足そうだったので、これでいいか。











 駐車場を出て、1階通路に出る。


 とりあえず、カラン回はこれで終了。次はナル回がいいなあ。

 流石に今日はこれ以上イベントはないだろうけど。(ピコン)



「だから、いいっていってるだろ!」


「なんでだよ。絶対に必要だって!」

「そうだ! いつまで砂遊びやってんだ!」

「お前も男だろ。根性みせろよ!」




 通路に出た所で喧噪に出くわした。

 フラグ回収早すぎませんかね。


 思わず駐車場に引き返そうと思ったが、久しぶりのデップ達3人の声に思いとどまる。


 見ると、通路の端っこでザイードとデップ達が揉めているようだ。



「僕はお前たちと違って整備の腕があるから、そんなことしなくてもいいんだよ!」


「なにおう。お前、虫取りしている俺等を馬鹿にしたのか!」

「整備ったって、そのガラクタいじってるだけだろ!」

「そうだ! 何の役に立つんだよ、それ!」



 ああ、内容はだいたい分かりましたけどね。


 しかし、どうするかなあ。


 ザイードの整備の腕は貴重らしいから、虫取りで手でも怪我をしたら、チームの大きな損失だ。

 でも、虫取りに文字通り命とプライドをかけているデップ達にそれを言っても通じるか。

 

 デップ達にとっては自分より年長の男のくせに、子供達と混じって安全な砂さらいしているのが我慢ならないんだろうなあ。


 とにかく話しかけてみるか。





「先輩! お久しぶりですね。お体の具合はどうですか?」

 


 俺の呼びかけに振り向く3人。うん、元気そうだな。



「おお、ヒロか! 久しぶり!もう大丈夫だ」

「明日から狩りに出られるくらいだ。あと、ミートブロック旨かったぞ!」

「ごめん、ヒロにも残そうと思ったけど全部食べちゃった」



 最後の人、それには全く期待してませんでしたけど。


 3人は嬉しそうに俺に駆け寄ってくるが、ザイードは気まずさからか、俺から顔を背けるように下を向く。



「先輩達、ロップさんからのナイフ、俺が貰っても良かったんですか?」



 返せと言われても困るけど。

 まあ、最悪、変化の術で変化させたものを渡すしかないが。



 俺の言葉に3人はお互いの顔を見合わせて、微妙な表情。



「あー、それな、うん。ヒロが持っておいていいぞ」

「まあ、しょうがない。ナル姉の言う通りだし」

「うーん。惜しいとは思っていないこともないぞ。だってナル姉が……でっ!」



 最後の人の発言は他の二人からの突っ込みで遮られる。

 何したんですかねナルさん。



「では、ありがたく使わせてもらいます。で、何か揉め事ですか?」


「ああ、聞いてくれよ、ヒロ」

「ザイードを虫取りに誘ったんだけどさ」

「こいつ、断るんだよ。せっかく鍛えてやるって言ってるのに!」


「誰が頼んだんだよ! 俺には必要ないって言ってるだろ!」



 ザイードが我慢ならないとばかりに怒鳴ってくる。

 珍しく感情的になってるな。


 案の定、3人が怒鳴り返して、先ほどの応酬が繰り返される。



 うーん。

 ここは先輩方に引いてもらいたいんだけど、言い方が難しいな。

 先輩の顔を立てながら、引いてもらういい方はないか。



「これはガラクタじゃない! 機械種だ。これが完成すれば、お前らなんて!」


「バーカ、そんな簡単に機械種が動くかよ」

「アイツら、そんな甘いもんじゃないぞ」

「ちっとも完成しないじゃないか。無理に決まってるだろ」



 ふーん。

 ザイードがいつもいじってる機械は機械種か。

 あれを完成させるのがザイードのやりたいことなんだな。

 

 ならばこう持っていくか。



「ザイード、それなんの機械種なの?」



 3人とザイードの間に入って、ザイードの抱える機械の塊を指さす。


 俺が介入したことで、俺の様子を見つめる3人。


 突然割り込んだ俺を不審げに見上げてくるザイード。


 一度、自分の抱える機械の塊に目をやり、ちょっとだけ考え込んでから答えを返してくる。



「……機械種タートルです。軽量級機械種でも防御に優れた警護用です」



 確かによく見れば亀の頭にも見えなくもない。うん、ちょっと卑猥な表現。

 頭の大きさから考えて、完成品はゾウガメくらいの大きさだろうな。



「へえ、頭だけ?胴体はどこにあるの?」


「胴体は整備室、前にヒロさんと話してた部屋にあります。胴体は完成しているんです。あとは頭の部分だけなんです」



 そう言えば、前に見たことがあるな、亀の甲羅。盾なのかと思ったけど。



「何言ってんだ! 頭の部分が一番重要なんだろ!」

「それがいつまでたっても完成しないんじゃ意味ないぞ」

「本当に直るのか? 狩りにいくのが嫌だからそう言ってるんじゃないか」



 3人がここぞとばかりに混ぜっ返す。

 言われたザイードが3人を睨み返す。



「まあまあまあ。先輩方もザイードも落ち着いて。で、ザイード。後どのくらいで完成するの? 何か足りない部品とかあるのかな」


「……足りないのは晶冠です。挟み虫か、鎧虫クラスのものが複数と、できればラビットよりも上位の機械種のものが一つ。前にヒロさんが持って帰ってきたハイエナのを貰えれば良かったのですが」



 いや、それ無理だろう。

 挟み虫や鎧虫のはともかく、ハイエナの晶冠は結構な金額になったはずだ。

 それをザイードの我儘でとり置くのは不可能だったろうな。


 しかし、ラビットよりも上ということはウルフのでもいいのか。

 なら、俺の袋の中に腐る程あるな。



「……あと、蒼石が要ります。これも危険を考えて、できれば7級以上の……」



 ああ、機械種をブルーオーダーする為にいるのか。

 そのまま直してしまったら人間に襲いかかってくるかもしれないからか。



「馬鹿か! 蒼石で7級以上って……どのくらいだっけ?」

「蒼石って高かったよな。1個500Mはしたような」

「それ、一番安い奴だろ。7級以上って……ミートブロック何本分くらいだろ?」



 蒼石には等級があるのか。俺の持ってるのは何級なんだろ?

 初代トルネラの置き土産なんだから一番安いってことはないと思うんだが。

 


 ザイードは俺等の反応から自分の無茶な要望が再認識できたようで、うつむきながら悔しそうに顔を歪めて黙り込む。


 それを見た3人はそれ見たことかと、騒ぎ出す。



「ほらみろ。無理に決まってるだろ!」

「だーかーら、狩りに行こうぜ」

「そんなの捨てちまえよ。」



 涙をこらえるかのように肩を震わせるザイード。

 

 そして、俺の取るべき行動は……





「いや、先輩方。違いますよ」



 ザイードをかばうように前に立つ。


 そして、3人に向かって宣言。



「俺達で完成させましょう。ザイードの機械種タートルを」

 

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