第21話 求愛?
サラヤにパルデアのことを聞くと、ようするにバーナー商会へ就職した元チームメンバー。
OBみたいなものか。だから無駄に偉そうだったのか。
1年程前に狩りの腕を見込まれて狩猟班に配属となったようだ。
これもバーナー商会にとってはまだ使いパシリのような扱いで、よく連絡役でチームに来ることも多いそうだ。
今回のハイエナの頭部を納品する際もパルデアが警護兼立会をしたらしい。
「ごめんね。ヒロ。パルデアも昔はあんなことする人じゃなかったんだけど。バーナー商会へ就職してから、やたら私たちチームを見下すようになったの。職場で新人だからってイビられているのかしら? その憂さを晴らす為だっととしたら、ちょっと情けなくて笑えるわよねえ」
先輩だというのにあんまり敬意とかないんですね。サラヤさん。
「ん? ………ああ。パルデアの方が年上だけど、チームに入ったのは私の方が先なのよ。だから私の方が先輩ね」
ふふんっ! といった感じで、先輩面をするサラヤさん。
なんか、トルネラとのやり取りを見てから、サラヤのことは「さん」づけしたくなったな。もちろん敬意からではない。
「私とカランとナル、この3人は結構古株なの。チームに入ってからもう10年以上経つわ。尊敬してくれてもいいのよ」
わあ、あこがれちゃうなあ。すごーい。
「む!。あんまり尊敬の念を感じないわね。いいもん。これから私のできる女っぷりをたっぷり見せてあげるんだから!」
ちょっとすねた感じでむくれるサラヤさん。
さっきから精神年齢下がり過ぎでは? いや、15,6歳ってこんなものかもしれないが。
出会った時から大分印象が変わったなあ。俺に気を許してくれているのかな?
「じゃあ、ヒロ。もう少ししたら夕食だから。もうそろそろ他の子達も帰ってくるだろうし。準備できたら呼ぶね」
サラヤは俺と別れて3階へ上がっていく。
ふう………、今日も色々あったなあ。
とりあえず1階のロビーに戻ってみるか。
「ちょっと待ってくださらない?あなた、ヒロでしたわよね」
1階に降りようとすると、後ろから声がかかった。
何? このお嬢様言葉は。
マジでこんなしゃべり方するの、アニメくらいしか聞いたことないぞ。
振り返るとそこにいたのは11、2歳くらいの女の子だった。
軽くウェーブがかかった淡い色の金髪を伸ばしている。
服装がもうちょっと小奇麗だったらお嬢様っぽく見えたであろう。
残念ながらこのチームの女の子がみんな着ている安っぽいブラウスだ。
ちょっと無理している感が否めない。
顔立ちは可愛いというより整っているといった感じか。
ちょっと吊り上がり気味の細目がいわゆる悪役令嬢っぽい。
おー! これが有名な庶民落ちした悪役令嬢か!
と、まあ、つい勝手な印象で決めつけてしまいそうになる。
「ねえ。あなた。ヒロなんでしょ。答えてくださらないの?」
「ああ、すみません。ヒロです。何か御用ですか?」
悪役令嬢という先入観で、つい、敬語で答えてしまう。
俺が名乗ったことで、女の子はバッと俺に近づいてきた。
「ああ、やっぱり。良かった。ここで会えて。単刀直入に言います。私と組みませんか?」
「へ?」
突然の申し入れに思わず変な声で返してしまう。
俺の返答が気に入らなかったのか、吊り上がり気味の目をさらに吊り上がらせて、俺に詰め寄ってくる。
「へ? じゃありません。私と組まないかと申し上げているんです」
「え、いや、いったいなんのことだか。突然言われても困るんですが……」
「私じゃ不足ですか? もう誰かと組んでいるのですか?」
「べ、別に誰とも組んでいないけど……、そもそも組むって何? 君って誰?」
女の子はそこまで言ってようやく自分が名乗ってもいないことに気が付いたのか、改めて名乗りだす。
「わたくし、ピアンテと申します。元は違う街で暮らしていました。父の商売の失敗でここに流れてきましたの。このチームに入って1年経ちますが、わたくしはずっとこのスラムから抜け出す為のパートナーを探していました。そして、ようやくわたくしのお眼鏡にかないそうな貴方を見つけたんです」
一気に自己紹介までされてしまった。だいだい趣旨は理解でいたけど。
「貴方はチームに入って間もないのに、大きな成果を上げたと聞きましたわ。貴方とならきっと上手くやれるとわたくしは確信しましたの。さあ、わたくしのパートナーとなって、このスラムから抜け出しましょう!」
ドヤッ! とした自信満々な顔で手を差し出して来るピアンテ。
微塵も断られるなんて考えてい無さそうな表情。
だけど、ここで俺が返せる言葉は1つしかない。
「え、嫌だけど」
「へ?」
ピアンテと名乗った女の子は、先ほどの俺と同じ反応を返す。
悪役令嬢顔が呆気に取られていると、ちょっと間抜けな感じだな。
いつかはここから抜け出すつもりだが、なぜコイツをパートナーにしなくちゃいけないんだ。
お嬢様キャラ、お姫様ムーブ、高貴で高飛車なヒロインは、漫画やアニメならばあんまり気にならないが、実際目にすると苛立ち感が半端ない。
顔もタイプじゃなければ、上から目線もいただけない。
そもそも年下過ぎて食指が動かない。
もっと可愛い系なら小動物を愛でる感じで可愛がったかもしれないが。
おお、ピアンテが俺の返答が気に入らなかったのか、思いがけない怒りに震えている様子。
両手を腰の横でぎゅっと握ってプルプルしている様は、少しだけ可愛いとも言えなくも無い。
「な、なぜですか? このわたくしがパートナーに選んでやっていますのに!」
「君は何ができるの?君がパートナーになることによっての俺のメリットは?」
「わたくしがパートナーでは不満なんですの?」
「だから、そのパートナーになって君は何ができるのかを聞いているんだ」
もし、俺が求める知識に深い造詣があるなら、パートナーに選ぶメリットも少しはあるかもしれない。
たとえば、この世界の商売や経営、若しくは機械種についての知識とか。
「わ、わたくしはデルテ商会の一人娘ですわ」
「いや、その商会、潰れたんでしょ」
そうじゃなきゃ、その商会の一人娘がスラムにいるわけがない。
つーか、スラムで1年過ごして、まだその認識のままって、相当精神力が強いのか。
「父からはいずれ絶世の美女になると……」
「それ、親の欲目だから。7割くらい割り引いときなよ」
「上流階級のマナーなら一通り修めています」
「それ何の役に立つの?お金を稼げるくらいなの?」
「…………」
これ以上、出てこないかな。
ちょっと意地悪し過ぎたかも。
小さい子なんだからもう少し手加減してあげるべきか。
そう思い、なんて声をかけるか考えていると、顔を真っ赤にしたピアンテが声を絞り出す。
「も、もし、スラムを抜け出せて、生活が安定したら……わたくしの体を自由にしてもらっても……」
赤面しながら絞り出したセリフは直球ストレート。
だが俺にとってはバットを振る気にもなれない大暴投。
おい! 前払いですらないのか!
しかも生活が安定したらって、随分抜け道ありそうな条件言いやがって!
まあ、別にコイツの体に興味はないが。
しかし、ここまで言われたら、断り方も気を付けないといけないな。
下手にプライドを傷つける言い方をしてしまうと、チームの女の子を一気に敵に回してしまうだろう。
女の子達の情報共有を舐めたらいけない。ソースは元の世界の俺。
「悪いけど、俺は当分このチームを離れるつもりはないんだ。拾ってもらった恩を返していないしね。だからスラムを抜け出すという君の要望には応えられない。女の子にここまで言わせちゃってごめんね」
俺の言葉にピアンテはうつむいたままだ。
あともう少しフォローしとくか。
「あと、俺は君が言うほど凄い人間じゃないよ。たまたま運が良かっただけさ。だから君も会って間もない人間をいきなりパートナーなんかに選ばない方がいい。賭けているのは自分の人生なんだからもっと慎重にならないといけないよ」
見たか! この大人ムーブを。
やはり子供を諭すのは大人の仕事だ。
と、まあ、久々に大人の義務を果たすことができて満足していると、
「もういいです!」
ピアンテはうつむいた顔を上げ、半泣きの顔で俺をギッっと睨むと、一目散に3階へ駆け上がっていく。
意外なくらいに軽やかな身のこなし。
タタッっと駆けていくさまは、悪役令嬢には似つかわしくない電光石火の退却劇。
おーい。
俺が泣かしたみたいだから、そのまま女子部屋に駆け込むのはやめてほしいなあ……もう、遅いか。
夕食時に女子から吊るし上げにならないことを祈るばかりだ。
1階のロビーで待機していると、ジュードが帰ってくる。
ジュードは獲物らしき鼠の機械種を2匹ぶら下げていた。
機械種:ラットってとこか。あれはいつもの狩場では見たことないなあ。
どこで狩っているんだろう?
その場でジュードに聞いてみると、気軽に教えてくれた。さすがイケメン。
廃墟から少し離れたところにある下水道跡が狩場らしい。
聞くと中はダンジョンのようになっているそうだ。
チームの占有ではなく、他のチームも入り込んでいるので、ある程度武力がないと絡まれたり、獲物を横取りされたりするらしい。
「ヒロも銃を貰ったんだろ。それならそう簡単には襲われないさ。銃は機械種用というより、人間に襲われない為の威圧用だからね」
一番危険なのは人間か。やはり世知辛い世界だな。
「銃の扱いに慣れたら、僕と一緒に行ってみるかい。君ならすぐに成果を上げてくれそうだ」
まだ新しいことにチャレンジするのは抵抗があるな。
もう少し狩りに慣れたらお願いすることにしよう。
他にもジュードに狩りについて注意点なんかを聞いていると、トールが子供たちを引率して帰ってきたので、話を一旦終わらせる。
子供たちの手には、今日の成果が入っているであろう袋が握られている。それを互いに自慢し合いながら騒いでいた。
トールがジュードに今日の成果について、話し合っている。
そうだ。念のため、さっきの件を2人に相談しておくか。
「ちょっと、ごめん。ジュード、トール。いいかな」
さっきのピアンテとのやり取りを2人に報告。
もし、俺が夕食時に女の子を泣かせたと糾弾されたら弁護をしてもらえるようお願いしておく。
「ははは、ピアンテかい。あの子いいとこの出だから、何とかしてスラムから抜け出そうと焦っているんだ。あんまり周りとも上手くいっていないみたいだし。しかし、ヒロもモテモテだなあ。多少は皆から責められてもいいんじゃない」
完全に他人事だな、トール。
タイプじゃない子から好かれても仕方ないだろ。
「僕も前にピアンテに同じようなこと言われたことあるよ。『貴方はわたくしの王子さまです」って。もちろん断ったけど」
俺はそれ言われてない。
クソッ、ジュードと違ってイケメンじゃないからか。
しかし、アイツ、ずっと探してたって言ってたくせに。
だから女は信用できないんだ。
「でも、もし、ヒロの手が空いているようなら、手を差し伸べてあげてみたらどうだい?。彼女達の未来はあんまり明るい物じゃないから、希望くらい見せてあげないと可愛そうだ」
「希望?」
「そう、いつか迎えに来てもらえるかもっていう希望だよ。それだけで女の子はどんなつらい状況でも耐えられるんだって」
ジュードが少し表情に陰りを見せながら、そんなことを言う。
絶対、サラヤから聞いたんだろうなあ。コイツも覚悟を決めているのか。
だけど、俺にはそんな覚悟を決める度胸はないぞ。
「あ、でも、複数の子に手を差し伸べるのはお勧めしないよ。何せ3階の女の子部屋では毎夜、男子との仲の進捗状況の報告会をやっているみたいだから。二股をかけたら確実にバレるよ」
先ほどの表情を一変させ、ニコニコしながら恐ろしいことを言いやがる。
それもサラヤから聞いてんだろ。
「だから、僕ら男子もある程度情報を共有しないと女子に後れを取るばかりだからね。今後もこういう情報はお互い交換しよう」
「分かった。何かあったらまた相談するよ。それから、吊るしあげられたら弁護をお願い。マジで」
「モテる男は違うな。まるで別世界の話のようだよ」
ジュードと俺との会話に、拗ねた様にトールが呟く
気持ちはわかる。本来俺もそっち側だからな。
「おや、トールも面倒をみている女の子から、随分モテてるじゃないか」
「まだ、子供だからな。引率者が頼りがいあるように見えるんだろ。もう少ししたら現実を見るようになるさ」
「ロリか、ロリだな。貴様!」
「なんで急に生き生きするんだよ、ヒロ! 誰がロリなのさ!」
しばし、3人で馬鹿話をする。
なんかこういうのは久しぶりだ。前の世界では友人と疎遠になってから、気の置けない会話をする機会がなくなったからな。
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