第14話 召喚


 『サラヤにとっての将来性のある男の子ってジュードのこと?』


 とは、流石に聞くことはできなかった。


 それを除いても今回は突っ込んだことを聞きすぎたように思う。

 知りたいことはまだまだあるが、向こうも忙しい中、時間を割いてくれているわけだし、今回はこの辺りで質問を切り上げる。



 一日のノルマは達成したが、更なる成果を求めて狩りにいくことをサラヤに話すと、昼ご飯のビーンズブロックと、虫を捌くための長さ15cm程のナイフを渡された。



「朝渡そうと思ったらもう出かけていたから。戻ってきてくれてちょうど良かったわ」



 ビーンズブロックはまだ食べたことがなかったな。さてどんな味だろう。



「日が暮れる前には戻ってきてね。あまり遅くなると危なくなるから気を付けて」


「了解!」



 サラヤに見送られて、再度狩場に向けて出発する。


 狩場に向かいながらビーンズブロックを齧る。


 う、青臭い生の豆の味だ。ゆで損ねた枝豆っぽい。食べている感触はピーナッツバーのようだが、好んで食べたい味ではない。

 しかし、一度口をつけた以上、最後まで食べることにする。



「ふう。この世界に美味しいものは期待できないような気がするなあ」



 食べなくても良い体だが、前の世界の俺は美味しいものを食べるのが好きだった。

 この異世界の食生活に俺は耐えられるのだろうか?

 



 狩場に着くと、辺りに誰もいないことを確認する。

 狩場に来たのは虫を狩る為ではなく、「闘神」スキルと「仙術」スキルの効果を再度確かめるためだ。



「まずは体の頑丈さからかな」



 サラヤからもらったばかりのナイフを取り出す。

 巻かれた布をほどき、右手でもって、刃を左手の薬指の腹に当てる。


 この異世界に来て全く怪我をしていない。

 メカ熊には銃撃されたし、挟み虫にはハサミで挟まれた。

 それなのに傷一つないというのは偶然とは考えにくい。



 ひょっとして、俺の体は無敵なのかもしれない。

 そうであれば、怖いものなんてほとんどなくなるだろう。



 それを証明するために、ナイフで自分の体に傷をつけてみる。

 少しずつナイフに力を入れていく、



 ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり


 …………


 ぷつっ ぷく

 


 血が出た。


 薬指を口にくわえて消毒する。

 ………う、口の中に血の匂い。


 痛いよ。これ。くっそ!

 傷が無いのは偶然だったか。



 ただのナイフで傷がついてしまった。

 ナイフで傷がつくってことは、銃とか耐えられるわけがない。



 残念。無敵ではなかった。

 これが分かった以上、無謀な行動は極力控えるべきだな。


 俺の中でとれる選択肢が随分減ってしまった。

 当分、チームトルネラからは離れられないだろう。


 やはり、今だ効果のはっきりしない「仙術」スキルに望みを託すしかないか。


 「闘神」スキルは身体能力を向上させてくれてはいるが、いかんせん、銃や機械種相手には力不足。

 「仙術」スキルに爆発的な力がなければ、俺の将来はサラヤが言ったようなバーナー商会での護衛や用心棒が精々だろう。


 しかし、これも俺が殴り合いや喧嘩ができればの話だ。

 今まで生きてきた中で、ガチの殴り合いなんてやったことが無い。相手が刃物や銃を出すかもしれないのに、喧嘩なんてできるのだろうか。

 最悪、荷役夫や鉱夫くらいに落ち着いてしまう可能性がある。


 商売関係? 

 一応前職は会社員だが、この世界の常識も分からないのに商売なんてできるわけがない。

 しっかり学ばせてくれれば覚えることもできるかもしれないが、そんな元の世界の教育制度みたいなものなんかないだろうし。

 求められるのは即戦力のみか。嫌な言葉だ。



 ややブルーになってしまったが、こんなところで元の世界でのように全てを諦めてしまう訳にはいかない。

 なんとしても「仙術」スキルを開眼せねば。



 まずは「仙術」スキルの発動方法を検証していこう。

 今まで行ったやり方を記録して、虱潰しに試していくしかないだろう。



 『そうだ! メモをとっていかねば!』 と思い立ってパーカーの胸ポケットに指を突っ込み、中からペンを取り出す。

 

 いつもの癖でペンを一回転させたところで、ふと、手が止まった。




「あ、ペンがあっても手帳がない……………、え、ペン? 持ってたっけ?」




 右手にあるペンを見る。

 いつも愛用していたボールペンだ。


 胸ポケットにペンがあったけど気づいていなかった…………いや、そんなはずはない。

 持ち物検査は異世界に来たばかりの時にやったし、パーカーは何度も脱いだり、洗ったりしている。ペンが入っていたら気づかない訳がない。



 ひょっとして、これは…………



 「シャーペンがほしい」



 と言って、胸ポケットを探るとシャーペンが出てくた。


 これは以前保険申し込みした際に貰ったノベルティのシャーペンだ。


 

「蛍光ペン」黄色の蛍光ペンが出てきた。


「三色ボールペン」出てきた。これも景品でもらったやつだ。


「マジックペン」黒色のマジックが出てきた。


「ボールペン」違う銘柄のボールペンが出てきた。これも良く使ってたやつだ。


「万年筆」これは出てこなかった。




 手には筆記用具が6本並んでいる。



「え、筆記用具を召喚する能力ってことですか?」



 思わず敬語になる。なぜ筆記用具なんだ? 意味が分からない!


 あまりのショックに思考が止まってしまい、我に返ったのはしばらく経ってからのことだった。






 ………いや、この能力で商売をする。

 無限に湧き出すボールペンやシャープペンシル。

 原価がかからない、利益率の高い商品となるだろう。この世界を筆記用具で支配するのだ!



「さあ、ボールペンよ!もっと出て来い!」



 胸ポケットに手を入れる。

 ポケットの中で指を動かすが、先ほどのように物に当たる感触がない。

 思わず胸ポケットの中をのぞき込むが空っぽのままだった。



「出てこねえ!!!」



 ガクッと崩れ落ち、orzの体勢となってしまう。

 頭をよぎった筆記用具無双は一瞬で崩れ去った。

 タイトルまで思いついたのに!



 ………だが、いつまでも落ち込んでいる訳にはいかない。能力の検証を続けねば。



 さて、ボールペンが出てこなくなった原因は何だ? MPか? 


 ………いや、別に何か消費した感じはない。


 それとも回数限定の能力だったのか。「異世界で6回だけ筆記用具を償還できる能力」………


 クソだな。そんな能力だったら神様でも殴ってやる!


 回数限定でも1日の召喚できる個数に限界があるという可能性もある。


 それであれば、1日経てばもう一度召喚できるようになるだろう。


 1日ではなく、1週間や1ヶ月、1年間といった可能性もあるが………




 しかし、本当にこれ以上召喚できないのだろうか?



「蛍光ペン」



 今度はピンクの蛍光ペンが出てきた。



 うーん。

 条件が分からない。

 何か共通点はないか?


 というか、召喚できるのは筆記用具だけなのであろうか?


 頭の中で、筆記用具のペン以外に召喚できそうなものに検討をつける。



「消しゴム」出た。


「定規」出た。


「分度器」これは出なかった。しかし分度器とは懐かしい。なぜ思いついた?


「電卓」出た。胸ポケットに入るサイズのやつ。



 ………ん、電卓が出るならひょっとして………

 現代人が最も必要とするツール、いけるか?



「スマホ」……出た!


 これは俺が使ってたアイフ○ンだ。カバーまで同じだ。

 すぐに親指認証をして、立ち上げる。

 これで現代生活の3割くらいが取り戻せそうだ!

 


 と思ったが、電波がつながらず、当然ながらネットも見れない。

 再びOZLへ。喜びから絶望へ真っ逆さま。さっきから上げては落とされている。

 



 いや、スマホが出たなら、他にも出せるものがあるはずだ。

 もっと試そう。


 文明の利器が出るのであれば、武器はどうだろうか?



「拳銃」出ない。いきなり欲張り過ぎたか。


「ナイフ」出た。しかし、食事用ナイフだ。


「フォーク」出た。つい食事用ナイフつながりで呼んでしまった。


「手榴弾」出ない。ギリギリポケットから出てきそうな大きさだと思ったのに。


「お箸」出た。割りばしだけと。


「手裏剣」出ない。出たらカッコよかったのに。


「スプーン」出た。やはり日用品が出やすいようだ。



 日用品に絞ってみるか。

 

「髭剃り」シェーバーが出た。でも電源が無いから充電できない。


「ドライヤー」これはポケットには大きすぎたのか出てこない。


「歯ブラシ・歯磨き粉」どっちも出てきた。いつも使っているやつだ。

 


 歯磨き粉も出てくるならひょっとして……



「バファ○ン」優しさでできてるやつ。出てきた。


「絆創膏」出てきた。


「オロナ○ンC」疲れた時に良く飲むんだ。出てきた。しかも冷えてる。旨い!



 飲み物がでてきたということは……



「牛乳」ポケットからは出てこない。牛乳は1L紙パックをいつも常備しているくらい好きなんだが。


「缶コーヒー」出てこない。仕事に行く途中でよく買って会社で飲んでたけどなあ。


「ヤク○ト」出てきた。乳製品は好きなんだ。一瞬で飲んだ。



 これは期待できるかも。



「おにぎり」出た。しかもツナマヨ。俺の大好物。すぐにかぶりつく。


「チョコレート」出た。板チョコだ。久しぶりの甘みを堪能。


「飴」出た。ミルキーなやつ。俺の大好物。ちょっと糖分取り過ぎなので、横に置く。


「カロリー○イト」出た!フルーツ味!フルーツ1番、チョコが2番。異論は認める。




 だいたい法則が分かってきたな。

 おそらく俺がよく知ってるものは出てくる可能性が高い。

 あと、ポケットから取り出せる大きさのもの限定といったところか。


 ジーパンのポケットも大きさはそれほど変わらない。

 あまり大きいものは召喚できないであろう。

 そして、この能力に見当もついた。これは異世界に来る前の部屋で最後に書き込んだ欲しい能力「異世界に行っても今の生活環境(衣・食・住と娯楽を含む)を維持したい」で間違いないだろう。


 もし、今着ている服のポケットからしか召喚できないということであれば、この服を破損しないように気をつけなくてはならない。



 パーカーを脱いで状態を確認してみる。

 

 おかしい。傷一つない。

 あれだけ石が当たったり、森を突き抜けたりしたのに、綻び一つない。

 パーカーだけでなく、Tシャツも、ジーパンも、スニーカーにも傷どころか汚れ一つ見当たらない。



 試しで、スニーカーを脱いで地面に擦りつけてみる。

 普通なら土で汚れるし、傷もつくはずだが、土汚れは叩けばすぐに落ち、傷は全くついていなかった。

 


 俺が怪我がなかった理由は、この服が守ってくれたからか。



 今度はTシャツの端をナイフで突いてみる。普通に穴が開いた。



 あれー? これはどういうことか。



 布だから衝撃には強いが、刃物には弱いのかもしれない。



 うーん。

 これも判断は保留にしよう。過信は禁物だな。

 とりあえずはちょっと頑丈な服ということにしておこう。




 さて、随分時間がたってしまった。


 目の前には召喚した物品が転がっている。

 食べ物・飲み物はほとんど消費してしまったが、日用品の扱いについてどうしようかと悩む。


 しかし、その悩みは一瞬で無くなった。

 胸ポケットに入れ直したところ、収納することができたからだ。

 これは所謂アイテムボックスだ!異次元収納だ!


 異世界界隈をブイブイ言わせているチート能力の一角を手にすることができて、テンションが一気にMAXとなる。


 ただし、気を付けなくてはならないのは、収納した物品の詳細が分からないこと。

 何を収納したか覚えておく必要がある。

 また、大きさはポケットに入る大きさに限ってしまう。

 精々手のひらに乗る程度の大きさが限界であろう。




 「闘神」スキルと「仙術」スキルを確認するためだったが、結局分かったのは召喚能力と収納能力だった。

 しかし、これらの能力を使いこなせば、いきなり俺TUEEEEとはいかないものの、ある程度この世界での生活レベルを向上させることができるだろう。


 異世界に来てようやく自分の将来に明るい展望が見えてきた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る