第6話 戦場
到着した時にはもうほとんど終わりかけであった。
森の中の少し開けた場所で戦闘は行われていた。
一言でいうと、人間パーティーとメカ熊のバトル。
ただし、人間パーティーの方は半壊状態。
6、7人パーティーだっただろうが、おそらく3人はすでにやられている。
なぜ「おそらく」なのかは、倒れている死体は手足が吹き飛んでいて、辺りには肉片が散乱しているため、何人分なのかが正確に分からないからだ。
グロい!
30メートルくらい離れたところの茂みに身を隠し、覗き見ているが、もし近距離だったら吐いていたかもしれない。
対するメカ熊は、先ほど出会った人型よりも二回り以上大きく、身長6,7メートル以上、黒い装甲に覆われた熊タイプのロボットのようだ。
特徴的なのは、ここまで離れていてもはっきりとわかる赤く光る目であろう。
両目に当たる部分の間の中央に目と思われる機関が備わっており、一つ目と言われるものだった。
ロボットであるのに、その目からは人間に対する悪意のようなものが感じられる。
丸太のような腕を振り回し、爪の先から弾丸のようなものを発射、たまに口からレーザーのような閃光を吐き出している。
人間側は残り3名で、前衛2、後衛1と陣形を構え、メカ熊からの攻撃を辛うじて凌いでいるようだ。
前衛2のうち、一人は大型の盾を構え防御に徹し、残り1人が持つ、長柄のハンマーで隙を伺いながら攻撃をしている。あまり効いていないようだが。
後衛1はライフル銃のようなものを構え、メカ熊の頭を狙って撃ち続けている。が、これもあまり効果をあげていない様子。弾が頭に当たっても、火花が散ってはじかれている。
装備は3人とも野戦服にプロテクターのようなものを付けている。
顔は分からない。みんな顔を覆うタイプのヘルメットを装着しているからな。
だが、おそらく体格から男であろうと思われる。
いや、別に男だから助けに行かないで隠れているというわけでもないんだが……
あ、ハンマーを持った前衛が一人、メカ熊の振り回した腕に巻き込まれて吹っ飛んだ。
これは即死だな。首が変な方向に折れ曲がっている。
残り2名でどれだけ善戦できるのだろうか。
そして俺はどうすべきなのか……
少し想像してみる。
数あるネット小説の主人公達がそうであったように。
危機に陥った人達を助ける為に飛び込む姿。
それを自分に重ね合わせ、あのメカ熊に向かって突撃する俺の姿を……
無理だ!
あのメカ熊に立ち向かうということを想像するだけで、震えが止まらない!
この戦闘に介入するということは、明らかに命を失うかもしれないというリスクを負う必要がある。
本当に「闘神」と「仙術」のスキルは自分に備わっているのか?
備わっていたとしてもそれはあのメカ熊に対応できるのか?
命を失う可能性は何パーセントくらいだ。1%か?10%か?50%か?
せめて自分のレベルと相手のレベルが分かっていれば、その確率もある程度想像できたが、今は自分の戦闘力も相手の戦闘力も全く分からない状況だ。
ここで飛び出してメカ熊と戦いになった場合、勝てる確率が実は1%以下なんてことだってありうる。そんなの自殺と変わらない。
もちろん、楽に勝つかもしれない。
その場合に得られるのは救助した人間からの感謝と助けたことへの報酬、この世界の情報提供くらいか。
やっぱり無理だ。
助けたいという思いはあるが、俺には命の危険に対する恐怖を乗り越えられるだけの度胸がない。
元の世界で命を失うかもしれないという状況に陥ったことなんてない。
喧嘩だってほとんどしたことがない。
それなのに銃弾が飛び交う戦場へ飛び込むなんて、できるはずがない!
結局、何もできずに戦闘が終了した。
残り2名はメカ熊の銃弾とレーザーでバラバラとなった。
周りに散乱する死体に囲まれた中、メカ熊はしばらく辺りを散策するかのようにウロウロと歩き回っている。
俺はそのまま茂みに隠れた状態で、メカ熊の動きを見張り続ける。
自分でも最低だと思うが、人間パーティーの死体から金品や装備を回収するつもりだ。
現在の自分は身一つしかなく、この世界で生きていかなくてはいけない以上、どうしても金や武器は必要となってくる。
なんと卑しいことか。
ネット小説の主人公であれば、たとえ負けると分かっていても、助けに入ってたであろう。
そして、なんとかこの絶望的な状況に打ち勝ち、それが物語の序章となっていたに違いない。
しかし、俺は主人公ではない。主人公にはなれない。
勇気が無いから。
度胸が無いから。
勝てると絶対の自信がないと命をかけた戦いなんてできないから。
劣等感、罪悪感、その他もろもろのマイナスの感情を纏わせながら、メカ熊が早く立ち去ってくれるのを待ち続ける。
あれ?
見るとメカ熊の周りに散乱している死体のいくつかが、機械の部品らしき残骸がはみ出たりしている。
ひょっとして、人間パーティーの半分くらいはサイボーグだったりしたのであろうか?
詳しく見ようと、少し身を乗り出したところ、突然、メカ熊がこちらの方向に振り向く。
一つしかない赤く光る目が一層輝きを増したような気がした。
ヒュッと自分の血圧が一瞬で下がったのが分かった。
え、見つかった?いや、偶然か?
メカ熊はこちらに顔を向けた状態で、ゆっくりと口を開いていく。
ヤバい!
隠れていた茂みから立ち上がり、メカ熊に背を向けて力一杯ダッシュする。
ボウゥ!!!!!
ピカっと光ったと思った瞬間、一瞬で周りの空気の温度が上昇する。
まるでサウナに入ったかのような熱さが肌を通り抜けた。
さっきのは……レーザーか?
俺の周囲の木々が一瞬で黒焦げとなった。
青々と茂る草花も。
一抱え程もある大木も。
刹那に通り抜けた熱線によってただの黒墨へと変えられた。
しかし、俺自身には何の影響もないようだ。
ちょうど運良く俺の周囲だけが狙いから外れたかのように……
外れたのか?
まるで俺の身体だけを避けたみたいに。
でも、俺を包む空気は一切の水分を失い、カラカラに乾燥……
ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
そんなことを考えていたら、横をすり抜けようとした大木が突然轟音とともに穴だらけになった。
その後を追いかけるように銃声が連続で鳴り響く。
ぎゃああ!!! マシンガンだ!
銃弾の嵐が、周りの木々を粉砕して、地面までえぐり取っていく。
粉塵が舞い上がり、木片や瓦礫が雹のように降り注ぐ。
ガガガガガガガガガガガガガガッ!!
その直後、背中から後ろ頭にかけてダース単位のボールをぶつけられたような衝撃が走った。
「ぐうっ」
思わず呻き声が漏れてしまったが、何か当たったという衝撃は感じたものの、痛みは感じない。
え?
撃たれた?
でも、痛みは無いから……
マシンガンの銃撃によって飛び散った石がぶつかっただけなのであろうか?
しかし、完全に射線上にいて、綺麗に俺だけを避けたなんて偶然あるわけが………
どう考えても直撃コースだったように思える…………
ガガガガガガガガガガガッ!!
再びマシンガンが奏でる爆音が鳴り響く。
方向はやや外れているようだが、それでも近距離で銃弾が飛び交っているに変わりはない。
「ひゃああああ!」
ふと浮かんだ疑念を放り投げ、叫び声を上げながらその場を離脱。
とにかく一心不乱に森を走り抜ける。
通せんぼする枝や茂みを両手でかき分けながらただメカ熊から逃げたい一心で、銃声が遠ざかる方向へひたすら走り続けた。
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