第4話 発見




 早く人里を見つけなければという焦燥感からついスピードをあげてしまう。


 今まで感じたことがない生身で風を切るような速度感。


 まるで車に乗って走っているようだ。体感的に時速40kmくらい出てそう。




 途中に大人一抱えほどの岩があった為、力試しに蹴りをかましてみる。

 拳だと万が一があるからね。



 ゴスン!!!!



 右足の前蹴りで、目の前の岩は真っ二つとなった。




 やはり「闘神」スキルの効果だろうか。この一撃であれば多少鎧を着こんだ兵士でも倒せるであろう。

 これならば呂布のごとき無双も可能かもしれない。プラス情報に思わず笑みが浮かぶ。


 まあ、この岩が実は非常に脆い性質であったということでもなければ。


 周りに散らばっているピンポン玉くらいの岩の破片を手に取ってみる。



 グギュッ


 握りしめれば岩の破片は粉々となった。



 硬いのか脆いのか分からんなあ。蹴った岩が爆砕でもしたら分かりやすいのに。


 やはりステータスオープンは偉大だ。自分の強さが数値で分かってしまう。

 そして、自分の実力が分からないということがなんと不安なことか。鍛えたわけでもないのにいきなり強くなったから、その実感が相対的に判断できない。


 自分の強さの把握のためには、よくある馬車が強盗に襲われているところを発見(ヒロイン登場)や、神様登場でチートスキルの説明をしてくれる等のイベントが必要だ。


 しかし、神様登場はともかく、強盗との接触は悩みどころだ。力を試したい半面、命の危険は出来るだけ避けたいという思いもある。そもそも命のやり取りなんて、やったことがないのだから、「闘神」スキルがあったとしても対処できるのかも分からない。



 強盗が出れば、捕まえて情報が取れるかもしれない。

 強い強盗、若しくは強盗が大集団で出れば、負けるかもしれない。

 どっちがいいんだろ。



 そんなことを考えながら走り続ける。

 太陽を見ればやや下り気味で、そろそろ夕方になってきているのかもしれない。

 時計が無いから自分が何時間走っているのかも不明。

 おそらく4,5時間は走っていると思うんだが。



 全く息も切れず、体力も減った様子もない。

 時速40kmで4時間走れば160km進んだことになる。マラソン選手も目じゃない。まさしく超人だ。

 もちろん時間も速度も体感だから、かなりずれている可能性もあるが、少なくとも100kmは走破したと思う。


 そろそろ建物や民家が見えてきてほしいものなんだが。


 なんて考えていると、走っている先の地面がやけに整っているのを発見した。



「これは、道か」



 思わず声に出てしまう。今まで走ってきた荒野とは明らかに違う地質。人や馬車等が通ったであろう跡が見受けられる。


 走っていた方向からややずれるが、ここは道に沿って走った方がいいだろう。

 全ての道は人里に通じるはずだ。


 今までより走りやすくなった地面を蹴りながら道に沿って走り続ける。


 そのまま小一時間ほど走っていたところで、ふと気になったことがあって立ち止まる。




 俺、さっきから水を全く飲んでないんだが。




 人は一日2リットルの水が必要だと聞いたことがある。

 この世界に放り出されてから少なくとも8時間以上は経っているはず。


 汗はほとんどかいていないが、普通、咽喉が乾いて飲み物がほしくなる頃だ。

 しかし、今の自分の乾き具合からすると、飲み物があれば、飲むだろうとは思うが、どうしてもほしいという程ではない。


 さらに、空腹もそれほど感じない。

 もちろん食べ物があれば食べるだろうが、これだけ食べていない時間があれば、普通腹にギュウっとくる空腹感がない。



 これはどういった状況か。もしかして「仙術」スキルの影響だろうか。

 仙人は霞を食べて生きていけるという。仙術スキルの効果で飲食不要になってしまったのではないだろうか。

 これは良かったとすべきか。物を食べられないというわけでもないし、多分。


 肉汁したたるステーキや揚げたてのとんかつを思い出してみる。


 

 グウ……


 少しお腹が鳴った気がする。うん、食べたい。大丈夫だ。



 これで「闘神」スキルと「仙術」スキルが備わっている可能性が高くなった。


 三国志でいう呂布の一騎当千と、封神演義の仙人達の仙術(あれは宝貝だったか?)があれば、どのような戦国時代でも潜り抜けることが可能であろう。

 この異世界で生き抜くことができる確率が高くなったことに安堵する。



 ほっと一息ついてところで、ふと道のやや外れに目を向けると、予想外の物体を発見する。




 体長3メートルくらいありそうな長躯。あちこちが破損した鎧っぽいものに包まれた人型のボディ。

 頭から右肩が存在せず、強烈な熱で焼き切られたような跡が残る。

 右足に当たる部分は途中で折曲がっており、膝に当たる部分からコードのようなものがはみ出ている。

 左腕には円形の鉄筒が取り付けられており、まるで弾丸を打ち出すことができるような形状だ。



 いや、これ、メカじゃん。ロボットじゃん。しかも大砲付いているし。



 しかも装甲の破損部分が溶けかかっているって、もしかしてレーザーで撃たれたとかじゃないですかね。



 え、古代中華戦国時代じゃなかったの? 百歩譲ってそこは中世ファンタジー世界にしようよ。



 岩を蹴り砕いたり、飲食不要になったり、ちょっと喜んでいた俺はどうしたらいいんですか?



 呂布は三国志では最強だが、大砲や銃、レーザー相手に勝てるのか。



 仙術ってまだ使えないんですが。



 俺はこの異世界で無双できるんでしょうか?


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