第428話 考え行動できる強者なる下っ端です
ペイリーフと別れたバモンドウは、しばらくルヴオンスクの様子を伺っていた。
『……』
別にエルフ側から、バン=ユウロスを助けろと要請されたわけでもない。当然ながら “ あの方 ” に命じられたわけでもない……ここにいるのは彼の独断だ。
『ふム……やはり、手を入れテおくべきカ』
ペイリーフに対して協力するように言われてはいるが、同時にバモンドウら魔物側にとって、なるべくいい方向に状況を持っていくべきと彼は考えていた。
『(王弟に手をダすのハ、
バモンドウ達、魔物側にとってはエルフも人間も、最終的に倒す敵に変わりない。おそらくエルフもそんなところだろう。
唯一、人間だけはエルフの一部を受け入れたり、魔物の一部を保護したりといった動きを見せている。
『(まァ、それを言うナらば、“ あの方 ” も似たヨうナ事ヲしてイるといえばイるが)』
ペイリーフもそうだが、エルフ残党との取引に応じ、気前よく町一つ用意してくれてやるなど、寛大にも程がある。
さらに一方では、とっくの昔に死んだ人間を
バモンドウをしてまだ詳細は聞かされてはいないが、“ あの方 ” の
彼も、主のそういった部分を見習うべきかと思い、独自に考え、そして今回は行動に移してみる事にした。
――――――そして今、ルヴオンスクの町。
「く、う……ぅぐ……と、トチ狂いやがって……この、クソやろ……―――」
「魔物と通じ……そこまで腐ってやが……ったか、バン……」
「て、めぇ……ロクな、死に方……しねぇ、ぞ、……がはっ……」
バン=ユウロスの屋敷前に詰めかけていた人々は、一人残らず惨殺された。もちろんそれをなしたのはバモンドウただ1人で、バン=ユウロスと彼の私兵はただただ戦慄するしかない。
『道は開けタ、行くがイイ』
「お、おうっ、すまねぇなぁ。……おいお前ら、さっさと荷馬車を走らせる準備に入れっ、こうなったら包囲を突破してマンコック領まで突っ切っちまうぞ!」
当初の御者たちすらも自分に反発したことから、荷馬車を動かす人員すら事欠く。バン=ユウロスの手勢は、金で雇った私兵500と執事に側用人数名だけだ。
『(マンコック領へと向かウ……か。確かにアソコはエルフどもと深く通じテいルが……愚かナ選択だナ)』
そもそもバン=ユウロスに王弟を当てたのはマンコック家、そしてその決定は後ろにいるエルフだ。
マンコック領に入ってしまえばエルフの庇護を受けられるとでも思っているんだろうが、相手にしてみれば切るつもりだった輩がすり寄って来るのは迷惑でしかない。
『(積み荷財貨ダケを押収してまんまとセしめ、この男は王弟に突き出ス……分かりやすイ結末ダ)』
この場合、どうなれば自分達にとって最良か? バモンドウは慌てて走りだしていく荷馬車の様子を眺めながら考える。
もっとも簡単なのはここでバン=ユウロスらを殺し、積み荷類を確保してペイリーフやエルフ残党にくれてやるなり、あるいは自分達が横取りするなりだ。
しかし、魔物側としてはエルフに必要以上に施してやるのは嫌いたい。かといって物資の充実している自分達にとってははした金レベルの積み荷を、バモンドウ1人で魔物の領域まで持ち帰るのはさすがに骨が折れるし、大した実入りでもない。
『(フム、王弟にクれてヤルのが一番か。この辺りの人間どモが、エルフに対抗する力をナクしてしまッテは困るシな……)』
そこまで考え終えると、バモンドウはさっそく行動に移る。
惨殺現場から音もなく消え、そして―――
・
・
・
「……」
セレナが不意に、難しい表情を浮かべた。
「? どうかしましたか?」
「殿下、少しご注意を。何か……私の気のせいであるかもしれませんが―――」
『―――イイや、気のせいではナイ。アイリーンほどデハないガ、良イ直感ダ、女』
「!!」
セレナが即座に将剣を引き抜き、振り向きながら振るう。
ギャウ……ンッ!
厚手の金属を打ったような低い音が鳴ったが、刃を受けたソレは微動だにせずにその場に立っていた。
「! ……バモンドウ」
『覚えてイテくれテ光栄ダ。女も悪クない剣筋ダな……我が身が並みの魔物の肉デあったナラ、深手を負わせらレるイイ一撃ダが……』
そう言ってバモンドウは、自分の身体を打ったままのセレナの剣をつまんで離す。
『ソウ、敵意を剥き出シにしなクて良イ。今日は戦イに来たのデはナイのでナ』
「……なら、一体何をしに来たと言うのでしょうか?」
僕は、警戒を解かないようにしながら、
それでいて、対話の姿勢は崩さない。
『ルヴオンスクのバン=ユウロス。ヤツは今、自分の屋敷に押しかけてイた人間たちを
「!? なぜ、そんな事を教えてくれるんです?」
するとバモンドウは、呆れたようにフッと短く笑った。
『あまりにモ、愚かな選択をスル男なのデな……もうここらデ、王弟に上手く料理させテしまっタほうがイイだろウと判断しタまでダ』
「……それは、貴方達にとっても、あの男の好きにさせるのは困る、ということですか」
『まァ、そうイう事ダ。ああイう愚者は、放っておクと後々、厄介ナ事になりかネなイからナ。無駄に状況を引っ掻き回さレても面倒……それだけダ。後はそちらの好きにスルがイイ―――』
そう言い残してバモンドウは姿を消す。
セレナがガクンと態勢を崩したことから、バモンドウがつまんでいた彼女の剣には、相当な力を込めていた事が分かるけど……
「(……セレナの腕前でも、あんな簡単にあしらえるのか)」
バモンドウの強さを、改めて思い知らされて、僕は思わず拳をにぎりしめた。
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