第389話 浮上する新たな敵勢力の影は耳長です
魔法陣の
そして一度、敷設された魔法陣を完全に解除するのも相当な面倒である。
「やはり時間はかかりますか」
「はい、殿下。どうやらかなり古いタイプの魔術による陣のようでして……残念ですが、今は無力化させておくだけで精一杯になるかと思います」
――――――クルシューマ伯爵の別荘地下。
数少ない魔術兵の兵長を務めているルワンマさんが難しい表情のまま、そう述べた。
僕達のすぐ横では、魔法陣を掘り出すため、地下室を広げるように壁を掘削している工務兵さん達が
「(無力化できただけでも良しかな。だけど完璧に消し去ってしまわないと……)」
広域爆発魔術である<ヴァリウス・ドゥーメイガス>をここに施した者は、間違いなくこの王都への攻撃の意思を持っている。
いかに発動を阻止し、無効化できていると言っても、このまま魔法陣を残しておくわけにはいかない。再び修復して発動しようとされたら困る。
「時間がかかるのは致し方ありません。ですがコレは絶対に残しておいてはならない類のモノです。今日よりこの別荘地は完全封鎖させますので、この魔法陣の消去作業に取り掛かってください」
「かしこまりました、殿下。お任せください……ところで殿下は、よくこの魔法陣の魔法と効力をご存知でしたね? 相当に古い書物に僅かな記載しかない、古代の魔術でしたのに……我々も、言われて調べるまで知らなかったくらいです」
ルワンマさんにそう言われてハタと気付き、そう言えば……と自分でも思う。
「小さな頃から書物を読み漁っていましたし、そのおかげでしょうか。嫌な予感や魔物が潜伏している場所という緊張感が、不意に得ていた知識を引き出させてくれたのかもしれません」
「なるほど、さすがでございます。やはり日々の勉学は重要ですね、我々も精進してまいります」
咄嗟に答え、ルワンマさんも納得してる。
けど僕は、自分で発した答えにしっくりしていなかった。
「(何だろう……僕はどこで……<ヴァリウス・ドゥーメイガス>なんて知識を得たんだっけ??)」
確かに古い魔術の書かれていた書物を昔、何冊か読んだ記憶はある。確認のためにもう一度読みたいので、記載されていた書物を特定しようと思い返してみようとしても、何年も前のことだからか上手く思い出せない。
「(……お城に帰ったら、片っ端から当たってみよう。それよりも今は)」
まだ問題が残ってる。
この魔法陣のことを、コイザンらこの別荘に潜伏していた魔物達や、別荘の所有者のクルシューマ伯爵もまったく知らなかったのが、一番の問題なんだ。
「(状況から考えると、コイザンの言っていた彼らの上司、“ あの方 ” がいざという時の口封じか、もろとも王都にダメージを与えるために設置していた、って考えたくなるけれど……)」
それにしては仕掛けが雑に感じる。
この王都に来て活動していたのは、コイザン達だけじゃない。あのドルシモンのように、他にも潜入および活動している魔物はいた。
(※「第367話 一触即発の対話です」あたり参照)
にも関わらず、手下である魔物達が複数暗躍させている王都に、こんな物騒な魔法陣を仕掛けるだろうか?
仮に捨て駒としか見ていなかったと仮定しても、捨て駒もろともにしては、強力過ぎる爆発の魔術……しかも、僕達が見つけた時の、あの魔法陣の輝きからして、発動一歩手前の状態だった。
(※「第378話 敵地で爆発処理です」あたり参照)
「(仕掛けてるモノも、発動しようとするタイミングも、あまりにも雑だ。高度な企みの一環って言うより、感情で敵意むき出しにしてとにかく敵地を攻撃しようっていう意図を感じる……)」
もしかすると魔物達およびそれを率いている “ あの方 ” の仕業じゃないかもしれない。
するとそこで、僕にふと思い出させる
「……そういえば、以前ルクートヴァーリング地方の―――」
―― まさか、
(※「第51話 思わぬ秘密を連れ込みました」参照)
結局、あの売国されようとしていた件の黒幕は不明なままだ。当初はヴェオスか、彼と繋がっていた貴族あたりがそうだった可能性を考えていたけれど、兄上様達が内々に貴族達を調べ尽くしても、黒幕に繋がるであろう線は途中で切れていたらしい。
「(そうだ、そうだよ……他の国に売るって……一体どこの国に売るっていうんだろう?)」
ルクートヴァーリング地方が王国外と接しているのは最北端の厚い山脈の先だけだ。けどその先には
そこはかつて魔物達によって蹂躙されたルート、その途上だ。今や人なんて住んじゃいないし、その魔物達の進路上にあったエルフの大国フェーレハルテスでさえ滅んで―――……
(※「第109話 大いなる危険に気付きました」参照)
「!! ……まさかいや、でも……?」
東の魔物達とは異なる勢力が存在する可能性。
そう、それはすなわち―――今は亡き大国フェーレハルテスの残党のエルフ達だ。
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