第372話 潜伏する敵を探します




「まさかそのような事が……申し訳ありません殿下、一大事に御身の傍にいられなかった事、恥じ入るばかりでございます」

 セレナはかなりショックを受けていた。

 明らかに並みの魔物ではない個体の侵入と危険を僕に近づけさせてしまった事に、准将時代に培った将官気質から、自分の責任と感じているのだろう。




 だけどセレナには何の責任もない。この離宮の警備体制は僕が手配しているし、何よりセレナは僕の命を受けて出かけていたんだから。


「頭をあげて、さぁ立ってくださいセレナ。貴女に責任なんてありません。恥じ入る必要は1つもないんです―――今は将軍ではなく、僕のお妃の一人なんですからね?」

 そう、僕のハーレムがちょっと特殊なだけで本来ならセレナも守られる側の立場にある人間だ。とはいえまだ立場が変わって日も浅い。軍人的な性格や気質が抜けないのは仕方のないことだ。


 なので……


「それよりもセレナ。貴女が掴んできたことを僕たちにお話してください」

 こういう時は新しい仕事を与えたり、仕事の報告をしてもらったりするのが一番だ。そうする事で、相手は汚名をそそぐ機会を与えられた事になるから、ヘンに “ 気にするな ” で終わるより、よっぽど喜ぶ。


「はい、かしこまりました殿下」

 少しだけ立ち直ったのが表情の変化で分かった。

 うーん……セレナも僕のお嫁さんの一人になったんだから、もっと砕けてくれていいんだけどなぁ。



「まず、クルシューマ伯爵家所有の商店のいくつかを回りましたが、どうも裏手で怪しい物の流れを感じられました。こちらは恐らく、魔物の潜伏先というよりはその関連での物品の差配を行っているのではないかと思われます」

 なるほど―――確かに魔物が伯爵家に潜入し、そこを拠点にあれこれ活動をしてるとして、その仕事が情報収集だけとは限らない。王都で何か物を入手し、親玉や仲間のところに送ったり、あるいはその逆もあるかもしれない。


「それは綺麗に抑えることが出来ましたら、色々と分かりそうですね」

「はい、ですが抑えに走った途端に察知され、尻尾切りで途絶える可能性が高いでしょうから、本命と同時にかかる必要があるでしょう」

 徐々にセレナの調子が戻って来た。この辺はさすが、僕のハーレム最年長者だ。



「そして、クルシューマ伯爵家の王都の端に所有している土地があるのですが……以前は小さな借家が数件立っており、住人から一定の居住料を得ていたようですが、この3~4年ほど前に邸宅へと突然、変えたらしいのです」

「! それはまた……」

 貴族の中には、所有する土地や物件を持て余し、賃貸住宅など自分が利用する以外の方法で活用し、多少の財を得る運用をしている者が少なからずいる。

 クルシューマ伯爵もおそらくそうしていたんだろう。


「当時の住人を探して話を聞きましたらどうやら、突然立ち退きを強要され、追い出されたそうです。その後すぐに住居の取り壊しと邸宅の建設が始まった、と……あまりにも急で、住人の方々は茫然とした事を覚えていると言っておられましたから」

「慌てて建て替える必要があった、という事ですね。なるほど……」

 僕がクララを見ると、クララも話の流れから分かっているとばかりに頷き、王都の該当する区画の地図をメイドさんに選ばせ、テーブル上に広げるよう素早く指示を出す。



「セレナ様のお話から致しますと……場所はここ、で間違いないですわ」

 チェスのポーンみたいな形をした木製のコマをとある場所に置く。


 僕とセレナ、アイリーンがその位置を確かめるように地図を覗いた。


「んー、この場所……外部と行き来しやすくて、外から来た者が潜伏するのに適してますね」

 アイリーンの言う通り、駒が置かれた場所は王都の端も端、外部と隔てる外壁から50mほどの場所だった。


「はい、私もそう思い、近くの外壁を軽くチェックしてみましたところ……」

 セレナが、スーッと指で図上をなぞり、外壁部分のとある箇所で止めた。


「……ここに、密かに隠し通路が作られておりました。すぐ近くには近隣の治安維持のための兵の駐在所がありますが、だからこその場所でしょう」

「駐在所があるから、おかしな人が行き来するわけがない……思い込みを利用した隠れ蓑、というワケですわね。なかなか考え方が狡猾ですわ」

 兵士の駐在所といっても外壁沿いなので配置されている兵士さんの数は2、3人だけ、管轄範囲は住宅地ばかりで大通りからも遠い―――普段は大あくびをかきながら暇を持て余している勤務兵士さんの姿が簡単に想像できる。


 緩んだ兵士の目を盗んで行き来するなど楽勝だろう。




「となると、まずますその新築の邸宅が怪しいですね。魔物の潜伏場所でなかったとしても、外部とのやり取りのための場として利用されてる可能性が高そうです」

 さて、二人のおかげでおおよその所は見えてきた。


 絶対に逃すわけにはいかないから、潜伏している魔物は100%捉えた上で、行動したいところ。


 一番は、クルシューマ伯爵家関連の建物全てに戦力を同時投入できたらなんだけど、ドルシモンやボザンシゲラのような魔物と出くわした場合、アイリーン以外では対処不可能だ。




「(確実かつ絶対を期すなら、ハイレベルな戦闘能力持ちが複数欲しいところだけど、うーん……)」

 考えられるところとしては、ヴァウザーさんに協力願えればとも思う―――半魔人の彼は普通に強い。

 だけど王都内でのミッションで彼を用いるには、ちょっとリスクが高い。


「(さて、これはどうアプローチしたものかなぁ……?)」



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