第362話 密かな人口減の怪です
僕達が今、メイトリムに滞在したままなのは、王家保養地の側面を持たせるためだといっても過言じゃない。
ここを完璧に整備して、設備や環境だけじゃなく、治安面や活動面を大きく向上させないといけない。
「(事実上、家族を伴っての単身赴任みたいなものかな。単身じゃないけど)」
あともう少しでレイアの1歳の誕生日が来る。
その時は王都に帰ってお祝いの席が設けられるわけだけど、できればそれまでにはメイトリムの方はそれなりに仕上げておきたい。
王弟の僕が滞在することで、より王家直轄の印象を強める狙いもあるけれど、僕は僕で、王都の離宮やルクートヴァーリング地方の事もあるからこのメイトリムにばかり張り付いているのもよろしくないだろう。
「それに……」
僕は机の端に置いた羊皮紙の束を手にとって眺めた。
それはここ数年での王国全体の人口推移のデータを記載した資料だ。
「……。……やっぱり、
閨の際にも感じた妙な違和感―――それは、疲労感が訪れる早さだ。
単純に疲れた、というよりはいきなりこう “ そこまで ” って見えない大きな何かに制止されるかのような、そんな感覚。
それをここ1週間くらい、毎日感じていた。
「(気に留めなければなんて事もないし、気付きもしない。だけど気付かなかったらそれはそれで、無意識のうちにそこで止めてしまうかもしれない。……これが、僕だけに起ってることならまだいいんだけど……)」
あらためて資料を精査すると、見えて来るのは王国全体の人口減という実態。
―― 王国は魔物との戦いがあるため、王様が何を言わずとも国民は子作りに積極的な節がある。
実際、データ上でも人口は何十年と微増傾向が続いていた。魔物による被害や対抗のための戦闘で、日々死者が出ない日はないにも関わらず。
ところが、ちょうどこの1年ほどはその微増傾向から微減傾向へと転じている。
それだけならまだいい、通常は微妙に増減の波が来る方が自然だから。けど……
「(僕が閨での違和感を感じ始めた1週間前ごろから、新生児の出生率が目に見えて低下してる……しかも男児が前週比で2%増なのに女児が23%減?)」
これまで少しずつ減少比率が上がって来た、というわけじゃない。今週分のデータからいきなりドンッと減少比率が上がってるんだ。
しかもこれは王国全体でのデータだから、新生児の実数値でいったら数千レベルの差になる。
「(一時的なもので終わればいいけどもししばらくこの現象が続いたら、これは人口推移の多きな歪みになっちゃう……)」
前世で、いわゆる “ ベビーブーム ” で急に人口が増加したタイミングがあった。
その時はよくっても、その大増加した世代が現役引退のタイミングを迎えると、労働人口が急減し、社会負担が増大するっていう現象が起きる。
これは逆でも同じだ。急激に人口が減少するタイミングが発生すると、その減少した世代の若い時代は、人手不足で社会ともども苦しむことになる。
なので人口推移は基本、常に増減が安定しているのが一番いい。
「……あの違和感が、もしも何か悪意ある明確なモノだったとしたら……」
遥か東、魔物側の実態はいまだその全容を掴めていない。あのバモンドウ達のような存在や、魔物化して暗躍したヴェオスの事などのように、僕達が敵側について知らない何かは当然まだまだいっぱいあるはずだ。
「(魔法か何かで、王国の人間の繁殖行為にブレーキをかけさせる……もしくは、生まれて来る子供の性別を制限する……そんな事が出来るとは―――思いたくないけど)」
あの違和感がただの僕の気のせいで、このデータも単なる一時の偶然……であってほしい。
――――――王都、街角のとある路地裏。
「……やはりいましたか。貴方が
『! ……ちっ、見破ル奴ガいルのか……。だガ!』
ティティスは、逃げようとする男と距離を詰める。
夜の闇の中、建物からこぼれる明かりだけが光源と、何とも頼りない路地を走る2つの影。
だが、後の方が速く、あっという間に追いついた。
ドガッ!!
『グッ!? バカな……コの暗闇デ、オレのスピードについテこれルトハ!?』
「下っ端風情に遅れを取ると思われている方が遺憾です」
ドスドスッ!!
『グァアッ!? な……動ケん…???』
抑えた亜人の魔物に、ティティスが短剣を2本突き刺すと、まるで固められたように魔物は動けなくなった。
「さて、聞こえているかとは思いますし、これだけでも十分 “ あの方 ” の意は伝わるとは思いますが一応メッセージを――― “ 妨げるつもりなら容赦はしない ” だそうです。それでは」
ドグシャァッ!!!
ティティスは、用件を済ませると用済みとばかりに亜人の頭を砕く。
重金属を仕込んだブーツのかかと落としは破壊力十分で、亜人に断末魔を上げさせる暇も与えずに、その命を奪った。
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