第338話 気になる待ちぼうけな一日です
ウェルトローエルの件も気になるけれど、もう一つ気になる戦況があった。
「……静か、ですか」
「は、調べによりますとここ数か月、小競り合いすら行われていないとのことです」
シャーロットの "
長きに渡って王国が魔物の軍勢と対峙し続けている戦場―――史書には直近100年の間に、ひと月と平穏が続いた事はないと書かれている、僕達の王国にとって最大の戦地だ。
それが
「(直近数か月っていうと……一連のヴェオスの件だよね、やっぱり。可能性としては、ヴェオスと僕達の戦いの結果待ちで大人しくしてた、ってセンが一番ありそうだけど……)」
だけどその場合、ヴェオスが滅んだあとも大人しいのはおかしい。
王国の東、魔物の軍勢はとにかく規模が大きくて数が多いという話だけど、その全貌は長年明らかになっていない。
「(こうも状況にあわせて攻めてくる来ないを変えてるんだから、確実に
それこそ単なる魔物の大群じゃなく、魔王とその軍勢って形があるのかもしれない。
ただ解せないのは、もし魔王に相当する親玉がいたとして、存在がまったく気配も感じられないっていうのが奇妙なんだ。
「……。シャーロットに伝えてください。 "
「は、承りました。では」
母上様に助力をお願いする手紙を持たせ、陰に消える構成員を見送る。
宰相の兄上様が、第一子誕生にかこつけて色々と準備してくれてるらしいけど、僕達はまだメイトリムから王城へ帰れずにいた。
「(今日でお産から一週間。難産だったからまだ1ヵ月はこのメイトリムでキュートロース夫人と赤ちゃんの経過を見る感じだけど……)」
レイア1歳の誕生日までには皆でお城に帰り、盛大に祝う予定になってる。
さらにクララとセレナが僕と結婚し、シェスクルーナとリジュムアータとの婚約も発表と、祝辞がたくさん控えてる。
近い内に一度、僕と彼女達4人は王城へ出向いて細かい打ち合わせをしなくちゃいけない。
「(宰相の兄上からは、“ もうしばし待て ” って言ってきてるけど、珍しいんだよね、兄上様がそういう言い回しをするのって)」
宰相の兄上様はクールイケメンの仕事人間タイプだ。スケジュールごとはきっかり日付時刻を決める人で、それを言ってこない曖昧な物言いをするのはあまり見たことがない。
「……何か難しい案件とか発生してなきゃいいけど」
・
・
・
翌日、僕はシェスクルーナとリジュムアータの元を訪れた。
メイトリムの賓館はかなり整備が進んで、いかなる要人の滞在にも応じられるレベルに底上げされている。
メイトリム自体も発展させているとはいえ、一般の村とは違ってハイソサエティが集まるに相応しいような方向性での発展だ。
そんな、高位の貴婦人が護衛をつけずにのんびり村内を散策しても似合いそうな、村の景観を窓から眺めてから、室内に視界を戻す。すると―――
「……んしょ、……と」
「やったよ、リジュちゃん! 歩けた歩けたっ」
シェスカが自分のことのように喜びながら妹に抱き着いてた。
かなり体に健康が戻って来たリジュムアータは、数日前からリハビリを始め、歩行の練習をしていた。
相変わらずけた違いの毛量なので、こっちを向いていないと髪の毛の塊が動いてるようにしか見えないけど、2本の手すりの間で動いてる。
「……ふぅ、やっぱりすぐに疲れるね。たったの数歩でもう両脚が悲鳴をあげてる。まぁ、生き延びても一生ベッドの上って覚悟してたから、歩けるだけ遥かにマシだね」
1度は皮と骨だけのレベルまでやせ細ったその身体は、ようやく最低限の肉が戻りつつあるといった感じだ。
まだまだ筋肉なんてないのも同然だろう。
「無理はいけませんよ、リジュ。身体の方もまだ十分ではないでしょうから」
「フフ、ありがとう殿下、心配してくれて。……けど、本当は宰相閣下がボク達をなかなか王都に呼ばないことに、ヤキモキしてるんでしょう?」
「! ……かないませんね、リジュには」
そう、二人をたずねた本音は、リジュムアータの考えを聞いてみたいって気持ちがあったからだ。
でもヴェオスのことが終わった後で、リジュムアータもまだ健康を取り戻すべく闘病中の最中―――なのでなんだか気が引けて、僕はそのままリハビリの様子を眺めるにとどめてた。
けど見透かされてたみたいだ。
「手短にボクの考えを述べるなら、心配はいらないと思うよ。のんびり構えているのがいいんじゃないかな、王子サマ……フフフッ」
「? リジュは何か分かるのですか?」
「さあ、どうだろうね。ある程度の予想予測はつくけれど、そうだって言えるだけの確証はボクにもないよ。でも、そんなに難しく考えなくていい―――それがボクから殿下に言えることかな」
そういうと、椅子から立ち上がろうとし、手すりにつかまり、態勢を整え、歩行練習に戻るリジュムアータ。
僕はシェスクルーナに視線で問いかけるけど、彼女も妹の言葉の意図するところは分からないみたいで、小首をひねっていた。
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