第336話 メイトリムの道をチェックです
キュートロース夫人と赤ちゃんの容態の無事が確認され、3日間経過を見た後、静養が必要なれど命の危険はないだろうと、助産師オンパレアさんが判断。
ようやく安堵と、ひと歓びの時がメイトリムの村内全体に訪れる中、僕はセレナに兵士さん100人を借りてクララとエイミーを伴い、王都方面へと道を進んでいた。
「やはりこの辺りの道と周辺整備は必須ですね。まだまだ山賊などが襲撃に利する箇所が多い……しかと記録を」
「はっ、かしこまりました殿下」
目的は王都への帰還じゃない。街道のさらなる安全確保と整備だ。
メイトリムが王家直轄になった以上、その治安は並みでは済まされない。特にその存在意義を考えた際、王都との間の道も、相当に整備しなくちゃいけない。
「クララはどう思いますか?」
「そう……ですわね……、規模が違いますので、大街道と比べるのは間違っているとは思いますけれども、やはり街道脇の見通しが気になりますわ。以前、この道で
(※「第200話 駆け抜ける王室の女性達です」辺りを参照)
それは間違いない。道幅は多少狭くとも、問題なく通れさえすれば整備の優先度は低い。
早急に手をつけるべきは治安向上のための、街道の両脇の見通し確保だ。
「エイミー、メイトリムに戻りましたら特に見通しの悪い箇所の茂みや樹木の伐採の計画を立てます。そのために動員可能な兵士さんを見繕ってもらえるよう、セレナにお話を通しておいてくれますか?」
「お任せなのです、殿下」
今回、クララとエイミーを伴ったのは今後の事も考え、こういう現場での実務的な経験を積ませようと思ったからだ。
アイリーンやセレナは武門の人間なので、必然的に現場経験が豊富だけど、二人はその辺りが少し弱い。
先のvsヴェオス戦では、後方でリジュムアータの保護と世話をしてくれてたけど、王弟である僕の近くにいる以上、いつどんな目に晒されるかも分からない。
「(実際、王都からメイトリムに移動する際に襲われてるわけだしね)」
対応できるようになる、というよりはイザという時に慌てず素早く判断と行動が出来るよう、経験値を高めておく、という感覚だ。
前世で災害を想定した避難訓練とか子供の頃からやってたけど、ああいうのは地味に重要だと思う。
想定と実際じゃ当然いろいろ違うとはいえ、それでも事前に予測を元にしたシミュレーションをしてるのとしてないのとじゃ、本番でのパフォーマンスはまるで変って来るものだ。
「……以前、設置した、見張り台はよく機能してくれていますから、最低限の治安は維持できています。しかしながら、今後は王家ゆかりの者が通る頻度も上がるでしょうから、さらに備えを充実させていく必要がありますね」
今回予定していた、メイトリムから3つ目の見張り台に到着し、僕は馬上から辺りを見回す。
以前はなかなか一人で馬に乗れなかった僕だけど、普通に歩かせる程度なら、少しずつ練習してつい最近、ものにした。
何かあった際に高速で離脱できるよう、馬術の達者な兵士さんが同乗してるけど、ここまでの移動での操縦は僕だけで行った―――だからこそ、ある事が理解できる。
「記録を。各見張り台の麓を大きく切り開き、馬車等が複数台停車できる休息場の整備も行います」
そう、走らせずとも馬に長時間乗って、しかも手綱を持って操るのは結構気疲れするんだ。
「(馬に限らず、馬車とかもそうだけど、基本揺れるから長時間の移動って楽じゃないんだよね、結局)」
走る方で負担を軽減するのに限界がある以上は、走る道の方で努力をする。
街道の凹凸を減らすのは時間も労力もかかるから、まず先に、途中で休憩を挟める場所を複数整備するのが現実的だ。
見通しを良くするための作業とも一部
「でしたら殿下、その分の人手もセレナ様にお願いしておいた方がいいです?」
「そうですね、頼みますエイミー。おそらく数日以内に王都に向かうことになりますから、それまでに道中に1か所は途中で馬車を止められるところを整地だけ済ませておきませんと……」
「? 殿下、それは何かご用向きが?」
「ええ。僕とクララに、セレナ……それと、シェスカとリジュの4人で一度、王都に出向かなければなりません」
そこまで言うとクララはピンときたらしく、途端に顔を赤らめた。
そう、キュートロース夫人のお産が無事に済んだその次は、いよいよクララとセレナが、僕と結婚する番だ。
そのための調整を兄上様達や彼女らの実家とも行わないといけない。
そして加えて、シェスクルーナとリジュムアータの姉妹とも婚約の話を正式にして、今後の話も詰めていかないといけない。
何よりマックリンガル子爵領やヴェオスの小城跡の大街道の修復整備事業のこともある。
あれこれやらなくちゃいけない事がいっぱい溜まってるんだ。
「(事務とか手続きとか、話し合いとか面倒なことだけど、やらないと先に進めないから頑張らないとね)」
―――って、分かっていても
馬から降りて見張り台の視察がてら、大きく背伸びをした僕は、気分をリフレッシュしようと、自然の空気を胸いっぱいに吸い込み、そして吐いた。
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