第321話 馬車に揺られる帰りの道です
結果的に、王城の兄上様達の計らいで、マックリンガル子爵領の運営に関しては、当面の間は “ 領主代行 ” を派遣するという話になった。
その手紙を受け取って、リジュムアータに見せると……
「うん、予想通り。たぶんだけれど、タックス一位爵かノモランペル男爵あたりが指名されるんじゃないかな」
見越していたとばかりに、代行に指名されるであろう候補者まで挙げてみせた。
……本人はスキルを持ってないと言ってたけど、本当は何かあるんじゃないだろうかと疑ってしまうほど、読みが凄すぎる。
「(実際、手が空いていて一時的に赴任するのに最適な王室派貴族って言ったら、その二人になると僕も思うけど―――)―――すごいですね、もしかして中央の貴族も全て把握しているのですか?」
「うん、おおよそは。ただ名前は100%だけれど、個々の実態に関してはボクでもいまいちだよ、ご期待に応えられなくて申し訳ないけれど、ずっと西の端にいたからね……」
そう言ってクスっと微笑むリジュムアータ。僕の考えてる事もお見通しと言わんばかりだ。
「かなわないですね。ですが、その辺りはクララは詳しいのでは?」
今度はクララに話を振ってみる。王都の社交界に一番詳しいのは確実に彼女だ。
「ええ、それなりにですが。お父様の付き合いもありましたし、自然と耳に入って来る事が多かったですから、特に目立つ方々のお話でしたら、それなりに詳しいところまで分かりますわよ」
アイリーンが戦闘方面で嬉々とするのと同じように、やはり自分の得意分野の話は気持ちが上がるのか、クララも上機嫌になって、話しぶりがいつもより饒舌気味だ。
一方で、政治や貴族社会のことがまったく分からないアイリーンとエイミーがぽかーんとした顔で話を聞いてるのが、ちょっと面白い。
その隣で、シェルクルーナは二人よりかは多少は分かる様子だけど、それでもリジュムアータとクララには大きく劣るのだろう。ちょっとついていくので精一杯といった表情をしてる。
「じゃあクララっち、タックス一位爵ってどんな人が知ってる? ノモランペル男爵は社交界で何度か話してアタシも少しは知ってるけど、そっちは全然知らないんだよね」
ヘカチェリーナはシェスクルーナ同様、二人には劣る。だけど分からないところを素直に突っ込む気さくさで、地方令嬢出ながら最近は、王都のそういった話にもかなり詳しくなってきた。
「(シャーロットともよく話して色々聞いてるみたいだしね。……ということは、んーと……)」
中央の貴族事情については、
クララ≧セレナ>>僕>>リジュ>ヘカチェリーナ≧シャーロット>>シェスカ>>>エイミー>>アイリーン
……ってとこかな。
「(それでも上位につけてるリジュは、やっぱすごい)」
実は昨日、ちょっと聞いたけども、リジュムアータが大人顔負けの文才・政才を発揮しているその根幹は、姉シェスクルーナのスキルに気付いた事がきっかけだったそう。
文才・政才については元々あったんだろうけども、当時は幼い子供ながらに、やはり将来姉や父の助けになりたいが、自分には何の力もないって思って奮起したんだとか。
「(スキルが潜在的才能の具現物だとしたら、ある意味そういう才もスキルって言えるのかもしれないけどね)」
そう考えると、ちょっと面白い。もしかしたら、ハッキリとした “ スキル ” を持って生まれなかった人は、リジュムアータみたく非凡な秀でた何かを持ってる可能性があるのかもしれない。
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手紙の件はもちろん、大街道の修復事業のこともあるので、どのみちシェスクルーナとリジュムアータを連れて王都に帰らなければいけない事になり、僕達はメイレー侯爵に現場の管理をお願いしつつ、まずはメイトリムへと向かうことになった。
カタカタ……カタン
「やはり、多少は揺れますか……大丈夫ですか、リジュ?」
「うん、このくらいなら問題ないよ。だけどスゴイものだね、こんなに揺れない馬車は初めて見たよ。それにこの造り……よく考えつくものだね、殿下」
帰り道、リジュムアータはまだ安静が必須の健康状態だ。
なので普通の馬車では揺れが身体に響くと考えた僕は、改造馬車を設計、急造した。
従来の、詰めれば対面6人乗りまで可能な貴族用の客車―――その後ろに大穴を開けて増床するように改造。
座席の左半分を取り払ってベッド台を設置。右側も座席位置を調整しつつ、空間設計を考えながら過ごしやすいスペースを確保。
それでもって、あらためて開けた後方を閉じつつ、見栄えよく仕上げることで完成。
もちろん後ろに少し長くなったので、車輪の数も4輪から6輪に増やし、揺れ対応のための
「かなり回復してきているとはいえ、リジュちーの容態はまだまだ安心できるものじゃないしねー。けどホント、殿下こんなのよく思いつくの、スゴイよね」
ヘカチェリーナはリジュムアータのお世話。そして僕が同乗することで、この馬車を一番に護衛しなくてはいけなくなるので、もっとも病弱なリジュムアータも厚い護衛に囲われる。
まぁもっとも―――
「さすが旦那さまです! こんなにカワイくって頭も良くて……たまりませんっ」
ちなみにシェスクルーナ、クララ、エイミーは後ろの馬車だ。せっかくなので道中、クララ先生が色々と教えるような事を言ってたっけ。
耳を澄ませるとやはり難しいのか、エイミーの唸り声が聞こえてきた。
「(……あれ? もしかして逃げてきましたか、アイリーンさんや?)」
本当に小難しいことが苦手なんだから、このお嫁さんわ!
まぁ、それも含めて可愛いんですけどね。
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